北野武「あらゆる芸事には、“年季”が必要ってことはある。」

硬派なヤクザ映画『アウトレイジ』(2010年)、『アウトレイジ ビヨンド』(2012年)とは打って変わって、最新作『龍三と七人の子分たち』では平均年齢72歳の元ヤクザのおじいちゃんたちが巻き起こす大騒動をコミカルかつシニカルに描いた北野武監督。作家・樋口毅宏さんによる監督インタビュー後編では、武さんの創作に対する姿勢について伺います。

北野武がいま輝いている3つの理由

日本を代表し続けるタレント!
80年代に漫才コンビ「ツービート」で人気を博して以降、お笑い芸人から司会者、俳優、映画監督まで各分野で才能を発揮。名実ともに日本の芸能界を代表する重鎮として第一線で活躍中です。

努力をやめない型破りの“天才”!
映画監督としては、1997年の『HANA-BI』でベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。世界的名声を得たのちも、さまざまな作風にチャレンジし続けています。

最新作は集大成にして新境地!
最新作『龍三と七人の子分たち』は、登場人物が引退した元ヤクザでありながら、コミカルなエンターテインメント。監督・北野武と芸人・ビートたけしが融合した新たな世界観を確立しています。

“年季”が感じられないと、映画も軽く見える

— 前から疑問に思っていたことがあるのですが、武さんは『その男、凶暴につき』(1989年)で、深作欣二監督が急遽降板したことで監督デビューをされました。

北野武(以下、北野) そうだね。

— あれ以降、いろんなタレントさんや芸人さんが映画監督に転身しているんですが、武さん以外に続いている方が現れない。それはなぜなんだろうかと。

北野 こないだ、若手芸人の撮った映画を観たんだよ。よくできてる話なんだけど、お金の遣いどころがわかってないというか、肝心なセッティングがちゃちいから、映画も軽く見えちゃう。だから、才能はあるんだろうけど、年季が感じられないっていうのがあんだよね。

— 「年季」ですか。

北野 これはあらゆる芸事に共通なんだけど、年季が必要ってことはあるんだよね。たとえば昔の、若いときの(春風亭)小朝が「ちょっとご隠居?」「なんだい八っつぁんかい」なんてやっても、ぜんぜんご隠居に見えないんだよね。落語は抜群にうまくても、やっぱりある程度年をとらないとこなせないわけ。

— 年相応の役柄があると。

北野 見てるほうも、(古今亭)志ん生とか志ん朝が「う~ん、旦那まいりましたよ」なんてやると引き込まれるでしょ。映画監督も、年齢のギャップを感じさせないような映画を作んなきゃダメなんじゃねえかって。
 だから、若い人が映画撮るなら、もっと荒っぽくていいんだよね。俺が最初に撮った『その男、凶暴につき』も、よくできてるってみんないうけど、すごい荒っぽく作ってんだよ。ほとんど長回しだし、延々と歩いてるし。

— そのエピソード大好きです。映画の尺が足りなくて、尺稼ぎのために歩かせてたら、それを見て評論家が「斬新だ!」って。

北野 そうそう(笑)。「監督、これ1時間15分くらいにしかなりませんよ」っていうから、「よし、じゃあまた歩こう」って言ったんだよな。

— あははは。でも、僕は武さんがほかの人と違うのは、やっぱり学習型というか、天才がちやほやされても堕落しないで、常に努力を怠らないからなんじゃないかと思うんです。

北野 そうかな?

— 武さんはあまり映画を観てないとおっしゃいますけど、僕からすると、やっぱりよくご覧になってると思うんです。いまお話しされた歩くシーンでは、ルイ・マルの『鬼火』で使われたエリック・サティの音楽が流れていたり、あるいは『その男、凶暴につき』自体もウィリアム・フリードキンの『L.A.大捜査線/狼たちの街』や勝新太郎さんの『顔役』、『ソナチネ』(1993年)だったらゴダールの『気狂いピエロ』、『監督・ばんざい!』(2007年)はフェリーニの『8 1/2』を想起させるのですが、そういった過去の作品の影響は?

北野 いや、俺はたいてい撮っちゃってからそういうのを観て、「なんだ、こういうの、もうあるな」ってなるんだよね。逆だったら撮ってないかもしれない。
 だから、怖いっていうのはあるよね、いろんな作品を観ちゃうのは。俺のオリジナルだと思ってたものが、そうじゃないってわかると、できなくなる可能性もあるし。

— そういえば、『アウトレイジ ビヨンド』のラストシーンでは、当初、武さんが拳銃を持って仇討ちに葬儀場に行くって筋書きにしようとしたところ、まわりの人が「監督、それじゃ『仁義なき戦い』ですから!」と止めに入ったという。

北野 そうそう、「ほんとかよ!?」って聞いたら、助監督が俺にそのシーン見せるわけだよ。そしたら「あ、ほんとだ。じゃあ、これどうしよう?」って。

— おお、本当の話だったんですね。

北野 あんときは助かったよね。現場であれやんなくて。

— あははは。物語の筋を自分のイメージや発想で一から組み立ててらっしゃるんですね。武さんは、雑誌「SIGHT」のインタビューで渋谷陽一さんに、移動中の飛行機の中などで脚本をバーっと書いていくとおっしゃっていました。すごい集中力ですが。

北野 まず4コマの枠を書いて、そこに矢印を引っ張って、登場人物とかセリフをじゃんじゃん書き込んでって、できあがる。だから映画は4コマ漫画だと思ってるよ。起承転結の各コマの中身を増やしてるだけだよね。そいで、起承転結の順番で一応のストーリーは作っておくんだけど、映画の構成としては「転」を一番前に持ってきちゃう。

— なるほど。

北野 極端なやつだと、ラストシーンから始まって、回想を次々挿んで、また最後に戻って違った結末を見せるとか、いろんな映画があるでしょ。だけど、基本は4コマだと思ってる。

— いまのお話で、『3-4x10月』(1990年)などの斬新な編集を思い出しました。

演技は、うまくなろうと思わない

— 俳優としての武さんは、無口で、むすっとしている役が多いですが、たとえば昔の泉谷しげるさんや内田裕也さん、あるいは勝新太郎さんや高倉健さんなどに影響されたりしてらっしゃるんでしょうか?

北野 うーん。芝居の影響っていうのは、なんだろな。たとえばちょっと前だったら、うまい役者とか、うまくやろうとする役者は、たいてい原田芳雄か松田優作のスタイルなんだよ。女優だと桃井かおり、あと樋口可南子のラインていうのがあるんだけどね、俺はあれがうまくできない。だから、自分で演技やる場合はあんまりしゃべらない。めんどくさいから。

— ははは。

北野 もちろん外国の映画でロバート・デ・ニーロとかアル・パチーノの演技は見るけど、見すぎると引きずられちゃうでしょ。俺はまず、うまくなろうと思わないし、とにかくセリフをいえばいいんだってのがあんだよね。

— そうなんですか。

北野 演技プランなしでやりたいんだよね。まあ俺の場合、自分で撮ってるから、勝手にOK出しちゃうし、ヤバかったら編集でカットしちゃうけど。

— それは監督の特権ですね(笑)。武さんはご自身だけでなく、ほかの俳優さんに対しても、たいてい一発でOKを出されているとも聞きますが。

北野 普通は、ドライリハーサル、カメラリハーサル、ランスルー、本番って、4回も演技させるじゃない。だけど、俺は漫才でステージに立ってた人間だから、最初にやったのが一番いいに決まってるって思っちゃうわけ。お客に同じネタを2回聞かしてどうすんだって。

— 芸人出身の武さんならではの発想ですね。

北野 根性が「一発勝負」なのよ。だから、同じ役者の2回目の演技を見るのが嫌になっちゃう。どうしても「前のほうがいいんじゃねえか?」って思うんだよ、初めて聞くセリフだから。黒澤(明)さんなんか40回くらい撮るでしょ。

— スタンリー・キューブリックなんかもそうですね。

北野 俺はそういうタイプじゃないの。「この言葉じゃなきゃダメだ」っていうのがないから、その雰囲気でOKならOK。ちょっとくらいセリフを間違えてもいいんだよ。

俺なんかの映画をそんなに褒めちゃマズいだろ?

— 失礼かもしれませんが、『TAKESHIS’』(2005年)、『監督・ばんざい!』(2007年)、『アキレスと亀』(2008年)のころは、世界的成功を収めた武さんの、自分自身への戸惑いのようなものが垣間見えました。

北野 うん。

— それを経て、『アウトレイジ』から続くここ3作の吹っ切れ感は何なんでしょう? 『龍三と七人の子分たち』も、生き残った同世代へのエールにも見えましたし。

北野 まあたしかに、フランスでも勲章もらったりとか、それはいいんだけど、実感がないんだよね、ほんとに。「俺なんかの映画をそんなに褒めちゃマズいだろ?」「怪しいもんだよ?」って。『みんな~やってるか!』(1995年)で、力入れて、あんな妙なもの、しょうもないものを作ってしまったっていうのがトラウマだったから。でも、俺あれ大好きなんだよな。

— 僕も大好きです(笑)。

北野 で、『監督・ばんざい!』がね、悩みの頂点。自分で何していいかわかんない、ほとんど思考停止みたいな映画なんだよね。急に隕石が落ちてきたりなんかして、どうしょうもない映画にしようとしてるんだけど、よく考えるとうまくまとめようとしてる。

— 最後もちゃんとしてますけどね。

北野 はじけてないんだよ。だから前衛アートの絵描きが、アクション・ペインティングやりながら、細かいとこをちょこちょこ修正してるような。

— あははは。水滴を筆で書き足したり。

北野 「おい! おまえそんな描き方じゃなかっただろコノヤロー!」って、めちゃくちゃやってるように見えて、じつはハミ出したところを気にしてるみたいな、妙に恥ずかしい映画になったね。そのあと「普通に撮ろう」と思って作ったのが『アキレスと亀』なんだけど、あれもまだちょっとクセが抜けてなくてね。それで、「じゃあエンタテインメントだ。ギャング映画を撮ろう」ってなって、『アウトレイジ』。

— 揺り戻しがあるんですね。

北野 だから、そろそろまた失敗する時期じゃねえかな(笑)。

— いやいや、最初にもいいましたが、『龍三と七人の子分たち』もくだらなくて最高です!

北野 へへ。

(おわり)

北野武(きたの・たけし)

1947年1月18日、東京都生まれ。74年、ビートきよしと漫才コンビ「ツービート」を結成。80年代の漫才ブームのなかで爆発的な人気を獲得。同時に俳優としても活躍し、『戦場のメリークリスマス』(83)をはじめ多くの作品に出演。初監督作は、主演も務めた『その男、凶暴につき』(89)。以降、年1本に近いペースで作品を世に送り出し、『HANA-BI』(98)で第54回ベネチア国際映画祭金獅子賞(最高賞)を受賞、評価を不動のものにした。自身初の時代劇に挑戦した『座頭市』(03)では第60回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞。近年は“全員悪人”のバイオレンス・エンターテイメント『アウトレイジ』(10)と続編の『アウトレイジ ビヨンド』(12)が大ヒットを記録。『龍三と七人の子分たち』は17作目の監督作品となる。

聞き手:樋口毅宏 構成:須藤輝 撮影:吉澤健太



©2015 『龍三と七人の子分たち』 製作委員会

4月25日(土) 全国ロードショー!
藤 竜也 近藤正臣中尾 彬 品川 徹 樋浦 勉 伊藤幸純 吉澤 健 小野寺 昭安田 顕 矢島健一 下條アトム 勝村政信 萬田久子 ビートたけし
監督・脚本・編集:北野 武 音楽:鈴木慶一
配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野

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いま輝いているひと。

cakes編集部

あの人は、どうして輝いているのか。いま目が離せないあの人に、たっぷりお話を伺います。

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コメント

ginzasur https://t.co/UNmRNd0Smx 2年弱前 replyretweetfavorite

onebookonemeal https://t.co/FVIQWu4EqQ「おい! おまえそんな描き方じゃなかっただろコノヤロー!」→たけし 北野 コノヤロ でYahoo検索 →「(略)“コノヤロー”はもっと親密で、ちょっと悪意があるかも」http://t.co/Cc3eHabhti 3年以上前 replyretweetfavorite

rs_oasis 樋口毅宏さんは本当に北野武さんのことが好きなんだなーとわかるインタビュー。 3年以上前 replyretweetfavorite

ABzome https://t.co/PXyL45zPbK 記事中央あたり北野武監督に知識の限り連想する映画を挙げてるけど、もの作る側からするとパロディ片足のリスペクトでもないとあんまり嬉しくない褒められ方で、否定する武さんにメッチャ共感すると同時に作らない側との感覚の溝も感じるやりとり。 3年以上前 replyretweetfavorite