女性スーツアクター、30の決断—顔のでないヒーローⅡ【後編】

戦隊ヒーローの「なか」を演じるスーツアクター。前回は『獣拳戦隊ゲキレンジャー』の「イエロー」などを演じてこられた人見早苗さんに、歌舞伎にも似た「顔の出ないアクター」ならではの工夫についてうかがいました。最終回は、一見均一に見えるなかで、どのように「個性」を出そうとしているのか。女性アクターならではのキャリアアップ。迷い、決断に迫ります。

同じようだが、均一ではない。
顔の出ないアクターにとっての「個性」とは?

 いまは少なくなったが海外からのニッポン人に対する批評に、「ドブネズミ色の背広のサラリーマン」というのがあった。ステロタイプで個性に欠けるということだが。ほんとうにそうか。
 ニッポン独自の“戦隊”ヒーローたちもまた特製スーツに身を包み、忍者のように顔すら隠してアクションをする。衣装がカラフルなのは固体識別の意味もあるのだろう。
 一見、均一の和製ヒーロー。しかし「なかのひと」となって演じる彼らは「同じ」に見えて、じつは個々にこまかな演技の工夫もありマインドもちがう。けっこう奥が深いのだ。

 
 所属する「劇団BRATS」の舞台前練習中

── うかがっていると「なかのひと」にも段階があるんですよね。メインキャラクターのスーツの着脱を補助する人、戦闘員、怪人、ヒーロー。どのようにしてステップアップしていくのですか?

人見早苗(以下、人見) わたしの場合は、ほんとうに運良くたまたまキャラクターをやらせてもらえました。どのようにして役が決まっていくのかは、わたしも決める立場の人間ではないので分からないですが、入ったばかりの時は、後楽園のヒーローショーやテレビの現場を行き来しながら補助から始めて、戦闘員をやって、チャンスがあれば怪人やをやってとか、昔からそういう流れはあるようです。
 自分の当時を思い出すと「運」とか「タイミング」も大きいんじゃないかと思います。

── 怪人役までにも道程があるんですね。

人見 必ずというわけではないですが、補助や戦闘員で頑張っていたりすると、「あいつにやらせてみようか」とまわりからオシがあって、怪獣のチャンスがめぐってくることもあります。場合によっては、キャラクターをやらせてもらえる可能性もあったり、ひとそれぞれみたいです。
 とくに怪獣はストーリーテーラーでもあって、「極悪非道なほどヒーローが引き立つので、悪役はすごく重要な役なんだ!」と先輩の話を聞いて、なるほど!と思いました(笑)。

── 怪獣が人気だというのは、ぼくらの昭和のウルトラマンの時代から変わりませんね。

人見 これは後々聞いた話ですが、「ゲキレンジャー」のキャラクターは、先輩が「彼女はテコンドーの経験がある」というのをまわりに話して下さっていて、他にも事情はあったようですが、「今度の戦隊はカンフーがモチーフだから」というので、つながったと聞きました。運とタイミングがよかったと思います。カンフーものの戦隊じゃなかったら選ばれていなかったかもしれないです。

 多少、謙遜も入っているだろう。ひとつたしかなことは、遠回りに思えた大学時代に励んだ部活がこのとき役立っている。スーツアクターの世界のキャスティングに関していうと、役柄や身長、体型、戦い方の特性などの要素で決まっていく。とくに戦隊のキャラクターは身体のシルエットがはっきり出てしまうので、厳選されるわけだが、逆に小柄をいかして男性が女性キャラクターを演じることもあるという。

── 達成感があるのは、どういう瞬間ですか?

人見 ……(しばらく考え)「ゲキレンジャー」の劇場版で「さあ、いくぞ」とポーズを決め、戦隊の3人が揃って宙返りをし、敵に向かっていく。そういうシーンがあったんですが、高いところから宙返りをするというのは初めてだったので、うまくできなかったんです。 監督のOKは出たんですけど、すごく悔しくて。その後にテレビの最終回で同じような場面があって、思い切りやったら今度はうまくできたんです。

── リベンジできてよかったですね。

人見 「ゲキレンジャー」は、わたしにとって初めてづくしだったので、思い出深いです。最初は言われるままだったのが、「こういうふうな動きをつけていいですか」と(監督にも)提案できるようになったり、それを採用してもらえたり、成長できたのが嬉しくて。それだけじゃなくて作品としてもずっと世に残っていくので、やりがいも大きいし、責任もすごく感じました。こんなので答えになっています?

── なっています、充分。出演した作品を見返すことはあるんですか?

人見 ありますね。しょっちゅうじゃないですけど(笑)。見ては、落ち込みます。ぜんぜん、できていないなって。とくに「ゲキレンジャー」は緊張しているのがわかるんですよね。動きが硬いし。当時の映像見るとウルウルしてしまいます(笑)。
 最初のころ、テストを何回やってもうまくできなくて、でも周りの方たちから「思い切りやれ」って言ってもらい、その優しさと悔しさとあせりとで、じつは泣いてしまってたんです。お面のおかげで、「はい本番いくぞ!」「お願いします!」とそのまま続けられましたが。

── そういうときにお面はいいですね。

人見 いえ、ほんとうはダメです(笑)。でも、目がものすごく腫れたときも、お面があったおかげで大丈夫でした。
 助けられたというと、「ゲキレンジャー」のときに盲腸になってしまって、代わりを蜂須賀(祐一、女形スーツアクターの第一人者)さんにやって頂いたこともあり、ゲキレンジャーはほんとうにいろいろありました。レギュラーという責任の重さや、自己管理の重要さを痛感した一年でした。

── 男のひとの多い現場だと思うんですが、「女だから」ということで気づかいされることはありますか?

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顔のでないヒーロー「なかのひと」

朝山実

ウルトラマンや戦隊ヒーローなどの“変身後”の「なかのひと」ってご存じですか? スーツアクターと呼ばれたりもします。 横浜で「活劇座」という会社を経営する古賀亘さんも名うての「なかのひと」のひとり。知るひとぞ知る、世界的な「モーション...もっと読む

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コメント

matsumu スーツアクターがある程度認められる世の中になったとはいえやはり俳優、顔を出すかどうかは重大問題のようです> 3年以上前 replyretweetfavorite

hitomisanae 西遊記2の稽古風景。あれはたぶん、妖術で人の中身が入れ替えられて、わしゃスクネじゃーい!!って叫んでる瞬間(笑)かな(笑)間に写ってる豚…いや八戒役のまこっちゃんがまたね(笑) https://t.co/U8IxtrLITT 3年以上前 replyretweetfavorite

waniwani117 「彼女がスーツアクターをやめるまで」人見早苗さんの選択—— 前篇・中編もいまだけ 3年以上前 replyretweetfavorite

continental_op え、人見さんJAE辞めてたのん・・・? 3年以上前 replyretweetfavorite