読書端末二十年史

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! 今回は好評連載「タブの方舟」にあわせ、2011年の電子書籍事情について語った「新・SF観光局」の第21回「電子書籍端末興亡史」の一部を抜粋して再録します(SFマガジン2011年5月号より)。

 日本初の電子書籍リーダー、NECのデジタルブックプレイヤーDB-P1が鳴り物入りで発売されたのは、 Hugo and Nebula Anthology 1993 刊行とほぼ同時期の1993年末。これは、てのひらサイズのモノクロ液晶ヴューアーで、本体に1メガ強のメモリを持ち、FDからソフトを読み込んで携帯する。媒体となるデジタルブックは、2HDのFDで供給される電子書籍。バンドルされている専用ソフト(縦書き表示やタグジャンプが可能)を使って、NECのPC‐9801シリーズのパソコン上で読むこともできた。たしか、小松左京の短篇集とか、綾辻行人『迷路館の殺人』など何冊か買って、当時使っていた98ノートNS/Lで読んだ記憶がある。画面は非常に美しく読みやすく、もうこの時分から、画面で小説を読むことにはぜんぜん抵抗ありませんでしたね。

 専用端末のDB-P1もまずまずよくできた製品だったが、読める本がせいぜい数百タイトルとあっては売れるわけがない(もちろんわたしも買ってません)。伊達公子を使ってテレビCMまで打ち(キャッチコピーは「読書をプレイしよう!」)、大々的なキャンペーンを展開した甲斐もなく、デジタルブックは短命に終わった。

 その六年後に、不死鳥のごとく甦った新しい専用端末が、出版社や大手書店など153社でつくる “電子書籍コンソーシアム”の電子書籍リーダー(愛称なし)。99年11月に始まった “ブックオンデマンドシステム 総合実証実験” の専用端末である。媒体はアイオメガの超小型記録ディスク Clik! (って覚えてますか?)。容量48メガバイトだかのメディア一枚が付属していた。

 加盟団体が多いだけあって、こちらは事前に無慮五千タイトルを用意。ただし、その中身は、紙の本のページをスキャンした画像データ。一冊あたりのデータ量は15~25メガ程度になり、結局、メディア一枚に入るのはせいぜい文庫本三冊分ぐらい。これでは実質的にデジタルブックと大差ない。スキャンデータだからマンガもそのまま見せられるのが数少ないメリットですが(ただし画質はいまいち)、まだダイヤルアップ接続が主流だった当時のネット環境ではダウンロード販売もできず、総合実証実験では、メディアスタンドという販売拠点を全国一九箇所の大型書店に設置し、そこでデータを売る方式をとった。こんなの、だれが見てもうまく行くわけないんだけど、 “実験” だからそれでいいのか。

 度重なる失敗のせいか、その後またしばらくは専用端末冬の時代が続き、そのあいだにシャープのザウルスやニンテンドーDSがかわるがわる読書端末として浮上。さらに、携帯電話の電子書籍市場が急伸して、大手出版社各社がケータイコミック、ケータイ文庫に続々参入することになる。

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大森望の新SF観光局・cakes出張版

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コメント

feilong 1件のコメント http://t.co/D0c38vTnD9 4年以上前 replyretweetfavorite

feilong 1件のコメント http://t.co/D0c38vTnD9 4年以上前 replyretweetfavorite

funtail_the_cat ほんと、ハードじゃなくてソフトなのよね。/ 4年以上前 replyretweetfavorite

hykw_SF 今日のSFマガジンcakes版は、大森望さんの記事。酒井昭伸さんの好評連載「タブの方舟」にあわせて、電子書籍端末についてです。 https://t.co/KJaa5oFvcw 4年以上前 replyretweetfavorite