第10回 交わる点、接する点(後編)

「僕」はテトラちゃんにx軸と放物線の交点について説明する。《図形の世界》と《数の世界》について話しているとクラスメートのミルカさんもやってきて……

(前編から続く)

図書室にて

「さて、ここまで放物線と $x$ 軸の話をしてきたけれど、今度は、交点こうてんについて考えてみようか」

テトラ「交点……ですか」

テトラちゃんは高校一年生の女の子、僕の後輩だ。 テトラちゃんは $x$ 軸と放物線の関係について数学トークをしている。 テトラちゃんは聞き上手なので、説明しているとの方が何だか楽しくなってくる。

「うん。放物線と $x$ 軸の交点は、二つの図形が交わっている点だよね」

テトラ「そうですね」

「で、交点という言い方は《図形の世界》の表現になるわけだ。それに対して—」

ミルカ「楽しそうだな」

テトラ「あ、ミルカさん!」

「いま放物線と $x$ 軸の話をしていたんだよ」

ミルカさんは僕のクラスメート。長い黒髪の美少女で、数学が得意。 ミルカさんテトラちゃんは、放課後の図書室でいつも、時間をたっぷり掛けて数学のおしゃべりをする。

ミルカ「ふうん?」

テトラ「あ、あの……放物線を移動するときのお話がまだきちんとわかっていなくて」

ミルカ「ああ、 $2$ 次式の話か」

「そうだよ、ミルカさん。いま、ちょうどその話をしようと思っていたところなんだ」

ミルカ「続ければ」

ミルカさんはそう言って、向かい側の席で本を読み始めた。 はなぜか少し緊張しつつテトラちゃんへの説明を再開する。

「放物線 $y = x^2 - 2x$ の上には無数の点があるよね」

テトラ「はい、そうですね」

テトラちゃんは、手でぶんっと放物線を描いた。

「その放物線上にある点を $(x, y)$ で表すと、 $x$ と $y$ にはルールがある」

テトラ「はい、そうでした。必ず $y = x^2 - 2x$ が成り立っているんですよね」

「そうそう。それから、 $x$ 軸の上にも無数の点 $(x, y)$ があって、その $x$ と $y$ にもルールがある」

テトラ「はいはい。大丈夫です。必ず $y = 0$ が成り立っているということですね。 $x$ と $y$ のルールです—って、 $x$ は出てきませんけれど」

「うん、それでいい。いまから、この二つの図形が交わってできる点を考えたい。つまり、交点こうてんを考えるということ」

テトラ「はい。ここと、ここにある点のことですねっ!」

「うん、そう。この交点を $(x, y)$ と表したときにもルールがある」

テトラ「ええと……交点であるというルール、ですね? 交わっている点のルール……ええと」

「いやいや、そんなに難しく考える必要はないんだよ、テトラちゃん。僕たちはこれまで放物線と $x$ 軸について考えてきた。点 $(x, y)$ について—」

$$ \begin{array}{rcl} \text{《図形の世界》} & & \text{《数の世界》} \\ \text{《点 $(x, y)$ は放物線 $y = x^2 - 2x$ 上にある》} & \Leftrightarrow & \text{《 $y = x^2 - 2x$ が成り立つ》} \\ \text{《点 $(x, y)$ は $x$ 軸上にある》} & \Leftrightarrow & \text{《 $y = 0$ が成り立つ》} \\ \end{array} $$

テトラ「はい、よくわかります」

「ではね、点 $(x, y)$ が《放物線 $y = x^2 - 2x$ と $x$ 軸との交点である》に対応するものは何だと思う?」

$$ \begin{array}{rcl} \text{《図形の世界》} & & \text{《数の世界》} \\ \text{《点 $(x, y)$ は放物線 $y = x^2 - 2x$ と $x$ 軸との交点である》} & \Leftrightarrow & \text{【?】} \\ \end{array} $$

テトラ「えっと、交点というのは二つの図形が、ええと、交わってできる点、ですよね。ですから、こんなふうに、こう……クロスしていて、点ができます」

テトラちゃんは一生懸命ジェスチャつきで説明しようとする。

「そうだね。あらためて交点とは何かを答えるのはとても難しいよね」

テトラ「そうなんです……目の前に見えているので、かえって難しくて。ほら、これのこと! と言いたくなるんです」

「じゃあね、まずは次の表現を言い換えてみたらどうかな」

$$ \text{点 $(x, y)$ は、放物線 $y = x^2 - 2x$ と $x$ 軸との交点である。} $$

テトラ「言い換える?」

「そう、こんなふうに言い換えてみるとわかるかも」

$$ \text{点 $(x, y)$ は、放物線 $y = x^2 - 2x$ の上にもあるし、 $x$ 軸の上にもある。} $$

テトラ「……これは、放物線と $x$ 軸の両方の上にあるという意味でしょうか」

「そうそう。両方の図形の上にある点。それで交点を説明しているよね」

テトラ「確かに、そうですけれど……いまひとつわからないです」

「うん、ここまではまだ《図形の世界》の言葉だからね」

ミルカ「図形の世界?」

ミルカさんさんが急に口をはさんできた。

「あ、そうだよ。さっき、《図形の世界》と《数の世界》という言い方で説明してたんだ」

ミルカ「ふうん……もう少しテトラの理解力を信頼してテンポを上げた方がいいな」

ミルカさんはそう言って、自分の《読書の世界》に戻っていった。

Photo by Spectrum Textures.

「それで……《両方の上にある》に対応する【?】は何かを考えてみよう」

問題
【?】に入るものは何か。
$$ \begin{array}{rcl} \text{《図形の世界》} & & \text{《数の世界》} \\ \text{《点 $(x, y)$ は放物線 $y = x^2 - 2x$ と $x$ 軸の両方の上にある》} & \Leftrightarrow & \text{【?】} \\ \end{array} $$

テトラ「はい……」

「【?】は《 $y = x^2 - 2x$ と $y = 0$ の両方が成り立つ》と考えればいい」

テトラ「両方が成り立つ……なるほど!」

「うん。 $y = x^2 - 2x$ という放物線の方程式と、 $y = 0$ という $x$ 軸の方程式の両方が成り立つということ」

解答
$$ \begin{array}{rcl} \text{《図形の世界》} & & \text{《数の世界》} \\ \text{《点 $(x, y)$ は放物線 $y = x^2 - 2x$ と $x$ 軸の両方の上にある》} & \Leftrightarrow & \text{《 $y = x^2 - 2x$ と $y = 0$ の両方が成り立つ》} \\ \end{array} $$

テトラ「確かにそういえますね」

「そうそう。二つの方程式の両方を成り立たせる点が交点だということになる」

ミルカさんをちらっと見る。

テトラ「はい」

「ねえ、テトラちゃん」

テトラ「はい何ですか、先輩?」

「これで僕たちがよく知っているところまでたどり着いたんだよ」

テトラ「あたしたちがよく知っているところ?」

テトラちゃんは大きな目を見開いてまわりをきょろきょろ見回す。

「そう。僕たちはいま二つの方程式の両方を成り立たせる点を見つけたいんだよね。それは、つまり—」

テトラ「つまり?」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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