「自分の考えていたロックと違うという腹立ちが爆発した」
往年の洋楽ロックファンは排他的だ。昨年のローリング・ストーンズの来日公演最終日では、ミック・ジャガーの「ホッテイ!」の掛け声に導かれて布袋寅泰がゲスト出演した。数日後、その公演を観た洋楽ロック好き中年から代々木の格安居酒屋に呼び出され、「君の行った初日には出なかったのに……」と散々愚痴られた。2004年、ザ・フーやエアロスミスが出演したフェスティバル「THE ROCK ODYSSEY」では、それらのバンドの前に出演した稲葉浩志(ソロでの参加)の存在をお気に召さなかったファンが会場の火炎報知機を次々に押すという事件が起きた。当人は「調べに対し、『ロック歌手の稲葉浩志さんのステージをきっかけに、自分の考えていたロックと違うという腹立ちが爆発した』と供述」(産経新聞)したという。
2007年のレッド・ツェッペリン一夜限りの再結成、ロンドンでの超プレミアムライブに日本から参加したのは名だたる音楽評論家数名と高城剛と沢尻エリカだった。そのライブから2ヶ月ほど後にプロモーションで来日したギタリストのジミー・ペイジに対し、記者が「復活コンサートに日本から沢尻エリカという21歳の女優が観に行ったのですが、彼女にコメントがあればいただけるでしょうか」(TARGIE)と問うた。ジミーは「Unfortunately I don't know her.(残念ながら、私は彼女のことを知らないんだ)」と返答したのだが、これを通訳が「別に……」と訳し、会見場は爆笑に包まれたという。この名訳と反応は、沢尻エリカを未だに象徴し続けているのではないか、というのが今回の主題。
「浪速のエリカ様」を「どげんかせんといかん」
沢尻エリカが映画の舞台挨拶で見どころを聞かれて「別に……」とぶっきらぼうな対応をしたのは2007年9月29日のこと。その数日前に発足したのが、第一次安倍晋三内閣を引き継いだ福田康夫内閣だ。ご存知のように、ここから福田康夫→麻生太郎→鳩山由紀夫→菅直人→野田佳彦→安倍晋三と、クラス委員ばりの頻度で首相が交代していくわけだが、一方の沢尻エリカは、今なお「別に……」のイメージを多少なりともキープしているように見える。政治家を羅列してから沢尻の議題につなげるのは、無論、維新の党(現在は除名)の上西小百合議員が「浪速のエリカ様」と呼ばれていたから。
上西議員が「エリカ様」と呼ばれ始めたことには驚いたが、何よりもその称号を各媒体が素直に増幅させたことにこそ驚いた。2007年の流行語大賞は「どげんかせんといかん」「ハニカミ王子」、その他にトップ10入りしたのは「そんなの関係ねぇ」に「どんだけぇ~」である。今、もしもこの4つを駆使したトークを友人が電車内で披露し始めたら、たちまち隣の車両に移動して知らん顔するだろう。しかしながら、「ふてぶてしい若い女性」「ちゃんとすべきところでちゃんとしなかった女性」の前例として、2007年の沢尻エリカは、まだまだスムーズに持ち出されるのである。
いつああいう態度に戻ってしまうか分からない気配
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