最後の夜だから

最初の夜の興奮は醒めつつも、静かな熱気とともに歩くひとり旅。最終日の前日、近藤氏(白ふくろう舎)はベネチアの街をそぞろ歩きます。ひとり旅は寂しさばかりが強調されることもあるけれど、そこにはひとりで自分の行く先を決められる気ままさがあります。旅先で街にとけ込んで歩く楽しさは、日常と非日常の狭間をいったり来たりする楽しさです。

最後の夜だから

起床。ああ、四日目だ。昨晩はブラーノショック(暫定名)で、帰りの水上バスも何度も乗り間違えてグルグルしてしまい、空腹に耐えかねて水上バスの待合でブラーノの焼き菓子を食べたら、パイと思ったほうにもまさかのチョコクリーム入りで、甘いホットワインとのトリプル攻撃で、気付けにはなったがごはん熱は満たされず、しかしもう食べに出る元気もなくホテルに戻ったのだった。

と書くとかなりへこたれていそうだが、実はそんなこともなく、こういうボンヤリな時間のつぶし方ができるのも一人旅ならでは、とのんきに船からの夜景を楽しんだりもしたのだ。懲りていない。

朝ごはん。もっちりとしたチーズを食べたら歯の詰め物がとれたり、微妙に朝からやらかしているものの、それにしたってこの朝食の素晴らしさはかすみもしない。大きな瓶のヨーグルトは、考えた末シリアルボールに移し替えていただく。こういうのは堂々と、食べやすいやりかたで食べるのが一番エレガントなんだと勝手に決めつけつつ。

今日もサンマルコ広場から。そして、ゆっくり買い物できるのも今日だけという事で、ようやくお土産探しもはじめる。こんな時のために、ととっておいたショップカードは、うすうす予感はしていたけど全く役に立たず、気に入っていたレジンのお皿の店も(スライスしたオレンジの乾燥や、麦の穂、唐辛子などが閉じ込められた大皿が珍しくてきれいだったのだ)、ディスプレイが素晴らしかった仮面の店も、たどりつくことができなかった。

いや、もうちょっとスマホとか駆使すればいけたんじゃないか、と思うのだが、何しろ気が付いたらリヤルト橋だし…ああ、でもここも観光名所だしちょうどいいや、というゆるさなので、そもそも真剣味が足りない。

それでも、本屋でお菓子のレシピ本としおり、雑貨屋でマーブル紙のノート、とちょこちょこ買い物をし、そして空き店舗しか見つけられなかった老舗菓子屋の移転先(たぶん)までたどりつく。

地元っ子や観光客がたくさん入って、テイクアウトしたり、お菓子のショーケースの上でエスプレッソを飲んだりケーキを食べたりしている。随分おおらかなシステムだと思うが、皆慣れているから混乱もない。

ウインドウにはりついてディスプレイを堪能したあと、店内に紛れ込んで、さらにショーケースを吟味。どれも、決しておいしそうじゃない、いや違うな、日本では受けそうにない、マジパンでくるまれたケーキとか、そういう中から、チョコレートのロールケーキを選んで、エスプレッソと一緒に注文。

ふわふわしっとり、絹のようなスポンジにほわほわの生クリーム、一口食べたらとろけて消えちゃう…みたいな、日本のケーキとは全く異なる、ざくりとしたスポンジに、みっちりしたバタークリーム、中の赤いのはチェリーかゼリーかさだかでないし、かかっているチョコレートはグラサージュっぽく、チョコというより砂糖っぽい。日本で食べたらギョッとしそうなケーキなのに、どうしてここで食べると「…うま~」と思うのだろうか

いや、うまいっていうか、どっちかというと「これこれ!」って感じだ。これこれ、って言ったって、はじめて食べる味なのだが。

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ベネチア仮面祭り〜アラフォー女ひとり旅〜

近藤ゆかり

冬のイタリア。寒くて観光客も少ない季節。しかし、ただ一カ所異様な熱気に包まれる街があります。男も女も仮面で集い、お互いの仮装を鑑賞しあう奇祭。通称「ベネチア仮面祭り」に、ずっと憧れていたひとりの日本人女性が旅立ちました。憧れのフィルタ...もっと読む

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