弱い生き物には戦略がある

生物にとっての「強さ」は、鋭い牙や爪といった武器をもつことではないようだ。また、ぼくたちが連想しがちな身体の大きさや力の大小でもない。動作の早さでもない。一見弱いと思われる生き物には戦略がある。それは何だろう?

ナマケモノの低エネ生活


 生態学の研究によると、動くことが少ないのはナマケモノの生存戦略に他ならない。動かなければ動かないほどエネルギー消費も少なくてすむから、エネルギー摂取も少なくてすむ。

低エネ戦略だ。

 生態学によれば、ジャガーなどの肉食動物は動くものを見る視力に優れているが、動かない獲物を見つけることは得意ではない。ぼくもナマケモノを探してジャングルを歩いた経験があるが、自分の目で見つけるのは至難の技だった。長年のキャリアを積んだ野生動物のガイドが指差してくれる先をいくら見ても、動かないナマケモノは枯れた葉っぱの塊か、ぼろ雑巾のようにしか見えないのだ。

 ナマケモノはあまりにじっとしているので体にコケが生えてしまったと笑い話のように言われてきたが、事実、空洞になっている毛の中に一種の藻類が生えて、茶色いはずの毛の全体がうっすらと緑色に見えるのである。特に雨期にはその傾向が強いらしい。ぼくもコスタリカの雨期の熱帯雨林で、かなり“苔むして”緑色がかったミツユビナマケモノを何度か見ている。これも、天敵から身を守るカムフラージュ、つまり保護色として役立っているようだ。

 あまり動かないナマケモノとはいえ、やはり動かなくては生きていけない。次の問題は、どうして動きが遅いのか、だ。これについても、生態学の研究が教えてくれる。遅いのは筋肉が少ないからで、ではどうして筋肉が少ないかと言えば、それはなるべくエネルギーを使わずに、葉っぱのような低タンパク、低エネルギー性の食べものだけを食べて生きていけるように進化したためらしい。

 筋肉が少なければそれだけ、動きも遅くなるし、力も弱くなる。でも、その分体重が軽くなるので、高い木の上の方の細い枝にもぶら下がることができ、それだけ天敵から襲われる心配も少ない。これもまた一種の戦略だ。

 まだある。ナマケモノは基礎代謝によるエネルギーの消耗を防ぐために、体温を維持せずに外気温に合わせて体温を変化させている。まるで爬虫類だ。そう言えば、ぼくもパナマの森で、朝早く日光浴のために、高くまっすぐに伸びるヤシの木を、ゆっくりと登ってゆくナマケモノを見た。寝てばかりいるにしては、ずいぶん、早起きだな、と感心したものだ。

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弱虫」でいいんだよ

辻信一

私たちの生きる世界では「終わりなき経済成長」をテーマに人々が邁進しています。それをこなすのは大変です。誰もが効率的に働かなければ世界が回らないと思い込んでいます。過剰な世界を支えるのは「強い人たち」です。健康で体が強く、より早く、より...もっと読む

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コメント

kaorutamako ナマケモノの記事、毎回楽しみ 5年弱前 replyretweetfavorite

MetropolitanEVE |「弱虫」でいいんだよ|辻信一|cakes(ケイクス) 逆転の発想 ステレオタイプの強さとか弱さなんて氷山の一角なのかもね。 https://t.co/R8jAi7uZGJ 5年弱前 replyretweetfavorite

GillesVilleneu ナマケモノの生態はなんかエコカーみたいだな。美しいのは肉食獣=スポーツカーが定説だが… エコカーのデザインはむしろナマケモノをコンセプトにスタイリングしたら理にかなった美しいデザインになるかも https://t.co/WUXGYMUnVM 5年弱前 replyretweetfavorite

yamadanoima ナマケモノ省エネ戦略!なるほ…〉 5年弱前 replyretweetfavorite