藤野涼子「撮影から半年経っても、いまだ“涼子”が抜けません。」

ベストセラー作家・宮部みゆきのミステリー巨編が実写化された『ソロモンの偽証』。成島出監督によって、1万人のオーディションから主役の藤野涼子に抜擢されたのは、本格的な演技は今回が初めてとなる少女でした。男子生徒の謎の転落死をきっかけに、次々と不可解な出来事が起こる〈前篇・事件〉。そして公開したばかりの〈後篇・裁判〉では、前代未聞の中学生による校内裁判が開廷。役名でデビューした藤野涼子さんに、前篇が公開された現在の心境や、白熱の裁判シーンの撮影エピソードについてお聞きしました。

藤野涼子がいま輝いている3つの理由

1/10000の大抜擢!
オーディションの応募は約1万人。業界内でも前代未聞とささやかれるほどの難易度の高い選考やワークショップをくぐり抜け、見事大抜擢されました。

大の大人を圧倒する迫力
大人と対立しながらも殺人事件の裁判を取りまとめる中学生という難しい役どころ。射抜くような眼差しと低い声で大人のベテラン俳優たちと渡り合いました。

役名を芸名にする覚悟
『ソロモンの偽証』の主人公である「藤野涼子」を芸名にしてデビュー。普段、学校に通うときも心は藤野涼子でいようとするなど、1年5カ月もの間、作品に心血を注ぎました。

泣きたくないのに、どうしても涙を流してしまう

— 役名でデビューされるのは、珍しいパターンですよね。

藤野涼子(以下、藤野) そうらしいですね。『ソロモンの偽証』で出会ったみんなのことを忘れたくないのと、ここで学んだことは私の原点になると思ったので、名前をいただきました。

— 原作者の宮部みゆきさんも快諾してくれたそうですね。

藤野 最初にお会いしたとき、「あ、涼子ちゃんがいる」と言ってくださったんです。それがきっかけで、涼子として生きたいという感情が芽生えた気がします。

— 『ソロモンの偽証 前篇・事件』が公開された3月7日を、まずはどのような気持ちで迎えましたか?

藤野 もちろんうれしかったのですが、後篇が公開されたら私も『ソロモンの偽証』を卒業しなければいけないんだってことを考えて、ちょっとさみしい気持ちになりました。

— 前篇を観た人の反応で、うれしかったことや意外だったことは?

藤野 友だちの感想は、怖かったっていうのが一番多かったです。それと、あまりにも気になるところで終わるので、早く後篇が観たいとも言われました。

— 後篇は、事件の真実を自分たちなりに暴くために、学校内裁判が開廷されます。みなさんの意気込みがスクリーンを通して伝わってきましたが、裁判シーンの撮影に臨むにあたって、特別に準備をしたり、監督と話し合ったりしたことはありますか?

藤野 裁判シーンは体育館を再現した広いセットで行われるので、大きな声を出すトレーニングをするように言われていました。

— たしかに、検事を務める藤野さんが大人とやり合うシーンは、大人がたじろぐほど迫力がありました。

藤野 監督は声を大切にしている方で、「とにかく声で大人を圧倒しろ」と言われ、いつも細かく注意されていました。「トーンが違うからもう少し低くしろ」とか「今のは行きすぎだ」とか。

— 成島監督は、役を「演じる」のではなく「生きる」ことに重点を置かれていたそうですが、撮影中、それを強く感じたことはありましたか?

藤野 私が涼子になれるのは、心が無の状態になっているときだと監督から言われていたのですが、たしかに撮影中の記憶が飛んでいることが結構ありました。自分でもうまく説明できないんですけど……。今もまだ涼子が抜けずにいるのも、涼子として日々生きていたからなんだろうなって思っています。

— 撮影が終わって半年経っても、まだ抜けていない感じなんですか?

藤野 最近はちょっと抜けてきた感じもあるんですけど(笑)。学校でも、この作品に関わる前は、担任の先生や友だちにすごく活発な女の子だねって言われていたのですが、撮影が終わってから、みんなに変わったと言われます。

— どんなふうに変わったのでしょう。

藤野 そこまでは聞いてはいないのですが、たぶん落ち着きのある子になったねっていう意味だと思います。

— 涼子は正義感が強くて、勇気のある少女でしたが、自分が涼子と似ていると思うのはどんなところですか?

藤野 泣きたくないんだけど、どうしても涙を流してしまうところですね。役が決まる前に、2カ月ほど演技のワークショップがあったのですが、そのときもよく泣いていました。

— それは悔しかったから?

藤野 そうですね。演技経験の豊富な子もたくさんいたので、自分はなんでこんなにできないんだろうって、毎日のように泣いていましたね。

— 泣くのは家に帰ってからですか?

藤野 本当は帰ってから泣きたかったんですけど、すぐに溜まってしまって、人前でも泣いてました。

— 撮影に入ってからは、感情のコントロールはうまくできましたか?

藤野 やっぱり泣いてましたね(笑)。監督から言われていることはわかるのですが、それを表現できなくて悔しくて。涼子自身も前篇は泣き虫なのですが、後篇では徐々に強くなっていくので、撮影が進むにつれて悔しくて泣くことも少なくなっていった気がします。といっても裁判シーンでは、台本に書かれていないところでポロッと涙がこぼれてしまったんですけど。

— ああ、あのシーンは印象的でした。

藤野 私が感じたままに涙を流してしまったので、今のは違うと思ったのですが、結果的にOKになりました。

— 今お話したような、目で訴えるシーンも何度かありましたが、セリフのあるシーンとは違う難しさがあったのでは?

藤野 私はまだひとりでは何もできないので、相手の感情を受け取ってキャッチボールするような感覚でした。

— 同世代の子たちと演技をするのと、大人の俳優さんたちと演技をするとでは、感覚的に違うものですか?

藤野 やっぱり大人の方だと、自分の演技力のなさが改めてわかってしまいます。真似することさえできないのですが、見て感じて、勉強していました。中学生キャストもほとんどの子は演技経験があったので、お互いを刺激し合っていたように思います。

もっともっとみんなと一緒に遊んでいたかったな

— 藤野さんに勝るとも劣らないほど、一緒に裁判を進めていく中学生キャストの演技に凄みがありました。オーディションのときから長い時間を共に過ごしてきた仲間であり、ライバルでもあると思うのですが、それぞれの印象や、刺激を受けたことなどを教えてください。
 まず弁護人を務めた神原くん(板垣瑞生)について。


右:板垣瑞生(神原和彦役)

藤野 普段の会話でも難しい言葉をよく使っているので、勉強や本を詠むのが好きな人なのだと思います。カメラの前に立つと集中して、本当に神原くんって感じなんですけど、休み時間になるとみんなを楽しませてくれるんです。現場ではどうしてもみんな緊張しちゃうんですけど、そんなに緊張しなくていいんだよって感じで笑わせてくれたりするので、心優しい人だと思います。

— 藤野さんも神原くんも、眼力も強かったですよね。ふたりの間に火花が見えそうなほどでした(笑)。相手と感情のキャッチボールをするとおっしゃっていましたが、負けてしまうかも、とひるんでしまうことはありませんでしたか?

藤野 みんな同世代ということもあって、この人には負けたくないというライバル心をそれぞれが持っていたと思います。私もやっぱり神原くんには負けたくないという気持ちがありました。

— 弁護人と検事で対立する関係でもありますしね。

藤野 そうなんです。神原くんが監督に褒められているのを見ると、「どうして? 私も褒められたいのに!」と思ったりして。

— 前篇の冒頭で謎の死を遂げてしまう、柏木くん(望月歩)は、いかがでしたか?

望月歩(柏木卓也役)

藤野 柏木くんとのシーンは、2つくらいしかないんですけど、彼が中心となってこの物語はできているので、頑張らなければという思いを人一倍持っていたように思います。柏木くんが演技をすると、みんなが引き込まれるような感覚でした。

— その柏木くんを殺したのではないかと疑いが持たれているいじめっ子の大出くん(清水尋也)は?

清水尋也(大出俊次役)

藤野 大出くんは神原くんと仲が良かったですね。ふたりが言い合いをするシーンをきっかけに、本当に仲良くなっていった気がします。私は大出くんと直接セリフを交わすシーンがあまりなかったというのもありますが、暴力的な男の子の役だったので、正直なことを言うとあまり近づきたくなかったんです。撮影の合間に話しかけてくれたりもしたのですが、「ああ、そうなんだ」ってくらいにしか返せなかったりして……。
 役になりきるために体を鍛えていたそうですが、私には大出くんにしか見えなくて、だからこそ近づけなかったのだと思います。

— その大出くんにいじめられていた、三宅樹里さん(石井杏奈)はどうでしたか?

石井杏奈(三宅樹里役)

藤野 樹里ちゃんも、ライバルみたいな感じでした。樹里ちゃんの親友の松子ちゃんが裁判シーンの見学に来ていたのですが、私と樹里ちゃんがやり取りをするシーンが終わったとき、松子ちゃんが樹里ちゃんのところへ駆け寄って「頑張ったね」って抱きしめていたんです。それを遠目に見ていて、なんだか少し悲しくなってしまいました。一瞬でもいいから、松子ちゃんにこっちを振り向いてほしかったなあって。

— 聞けば聞くほど、本当に役を生きていたんだなあというのが伝わってきます。三宅さんとふたりだけで演技をするシーンもありましたが、そのときはどんな感じだったのでしょう。

藤野 樹里ちゃんに負けたくないという思いが空回りしてうまくできず、結果的に私のせいで撮影が長引いてしまって、悔しい思いをしたこともありました。ライバル心があるからこそ、樹里ちゃんと演じたくないと思うこともありましたし……。だけど樹里ちゃんと演技をすることで、自分自身が成長できる気もしていました。いつもみんなで集まってご飯を食べていたのですが、樹里ちゃんとふたりだけのシーンの前は、別々の部屋で食べたりして、ふたりなりに工夫をしていたと思います。

— かなり刺激を受け合っていたんですね。撮影を重ねていくにつれて、本当のクラスメートのように結束が強まっていく感覚はありましたか?

藤野 そうですね。監督が先生で、私たちが生徒みたいな感じでした。撮影が終わって間もない頃は、みんなで集まったりしていたのですが、6カ月も経つと、それぞれに次の撮影が決まっていくわけじゃないですか。『ソロモンの偽証』をまだ卒業できていない私としては、みんなが白鳥となって旅立っていくのを見ていると、ちょっと悲しい気持ちになります。もっともっとみんなと一緒に、湖で遊んでいたかったなって。

— 自分も早く卒業して次へ行きたい、という思いもありますか?

藤野 ありますけど……自分が旅立ってしまうと、みんなが集まらなくなってしまうんじゃないかって不安もあります。どちらにしても後篇公開とともに卒業しなければいけないので、舞台挨拶では泣かないようにしたいと思っているんですけど(笑)。


次回「人間を信じるってことが一番大切な気がします。」4/17更新予定。

藤野涼子(ふじの・りょうこ)
2000年生まれ、神奈川県出身。約1万人が参加した『ソロモンの偽証』のオーディションで、主役に抜てきされる。初心を忘れたくないという気持ちから、役名で女優デビューを果たす。特技はヒップホップダンス、テニス。

構成:兵藤育子 写真:加藤麻希



©2015 「ソロモンの偽証」製作委員会

『ソロモンの偽証 後篇・裁判』
2015年4月11日(土)公開

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)
ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

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ソロモンの偽証〔3〕(第2部) (新潮文庫)

ソロモンの偽証〔3〕(第2部) (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻 (新潮文庫)
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ソロモンの偽証: 第III部 法廷 上巻 (新潮文庫)
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ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻 (新潮文庫)

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コメント

pommeblanc ソロモンの偽証、見たいな。観よう。できればイッキ見したい。 約4年前 replyretweetfavorite

kougimlet 後編を観終わった後でこれを見ると、一人一人の演技に納得できました。 約4年前 replyretweetfavorite

sadahiko1017 "@cakes_news: 10年経っても、あの熱い涙を忘れないために|" 予感的中 約4年前 replyretweetfavorite