真赤の表情に悲壮感はなく、苦笑しながら家庭の事情を告白する。僕はそれに相槌を打ちつつ、だから手首などを切ったりしたのかと想像していた。そしてすぐさま他人の心情を安易で薄っぺらい憶測で決めつけてしまった自分に気色悪くなる。
一通り聞くと、思いの外に気持ちが重くなった僕は炬燵に足を突っ込んだまま、ごろりと仰向けになった。
「そう言えば」と僕は思い出さなくてもいいようなことを思い出してしまう。
「この間の合い鍵の人は、ご飯食べさせてくれたりしないの? 年上の親しい人なんでしょ」
それまで何を訊いてもテンポよく返していた真赤の返事が少し遅れた。
「前は時々食べさせてくれてたけれど、最近はほとんど会ってないから……」
「そうなんだ」
「うん」
「どういう人なの?」
「大学に通ってたと思う」
「もしかして、向こうもここの合い鍵を持ってるの?」
「……うん」
「なるほど。それでお互いの家を訪ねあってるのに、彼氏ではないんだ」
「うん」
最近の中学生はおっとろしいものだなあ。真赤本人は違うと言うが、赤の他人が合鍵を持ち合うだなんて、それもただれた人間関係であることに違いないじゃないか。やはり荒んだ生い立ちだと早熟になるのだろうか。いや、そんな風に勘ぐる僕の根性が下世話なのか。
それにしたって、その大学生とやらが、この状況で彼女に食事やらの手助けをしないというのは奇妙だ。あんなに嫌悪感をこめて鍵を投げていたのもパフォーマンスには思えない。何か離れられぬ事情があるのだろうか? そうだとしたら気分の悪い話だ。まあ、変に猜疑心を振りかざすのはやめよう。僕には関係のない話じゃないか。
そうして気がつけば、二人ともすっかり黙り込んでしまっている。
「また、飯奢るよ」
白い天井を眺めながら僕が静寂を破ると「う、うん」と真赤は言った。
そして「お水とってくる」と若干動揺したような口調で言って、立ち上がる。
そこからキッチンに向かうには、寝転がっている僕の頭が邪魔だった。彼女は何を思ったのか、それをまたぐ。すると当然、僕にはそのスカートの中身が見えてしまうわけであり、具体的に言うと、クマがプリントされた幼児が履くようなふかふかの下着がはっきりと見えた。
「あ」
と僕が思わず言うと、
「あ」
と真赤も同じように言った。
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