​「海に遺灰を撒いてほしい」は法律違反?—葬儀をするのかしないのか

ほんの十数年前では家でお葬式を出すことは珍しくなかったのに、今では、すっかり葬儀場が中心となりました。さらに、散骨葬や樹木葬、生前葬まで、新しいお葬式やお墓のスタイルも考えられるようになりました。自分で決めておかないと、トラブルになってしまうことも多いのです。1,000人以上を看取った医師・大津秀一が、さまざまな実例をもとに葬儀をどのように考えるべきかを語ります。

葬儀は誰のもの?

ひとしきり前、葬儀は必要か不要か—そんな議論がありました。以前は、葬儀が行われないというのは考えられないことでした。「家」が冠婚葬祭を取り仕切っており、葬儀は「個人」というより「家」のものだったからでしょう。

しかし、家の力は弱まりました。現在は、昔なら一般に自分が関係するものではなかった葬儀や墓にも、自分の意思を反映したいという人が増えてきています。それはそれで良いことです。

一方で、葬儀は、主として残された方たちのものでもあったことを頭の片隅に置いておくと良いと思います。 葬儀がご遺族の方に影響を与えるという点で、いくつか印象的な例を見ていきましょう。

葬儀を任せられた妻からのクレーム

70代男性の桑原さん(仮名)は、寡黙な方で、何かを問うても、「全部妻に任せているから」が口癖でした。確かに奥さんは非常に頼りになる方でした。

桑原さんは、奥さんのお世話によって、苦しまれることなく穏やかに最期を迎えられました。奥さんは病院が提示したリストから葬儀社をすぐ決めて、私たち医療者との別れを惜しみながら「ありがとうございます」と深々と頭を下げて、ご主人の亡骸とともに帰って行かれました。

病院に電話があったのは1週間後でした。それはクレームでした。奥さんが選ばれた葬祭業者は、パンフレットで「ご遺体搬送無料」と謳っていましたが、市外になると数万円の搬送料を取ることになっていたというのです。病院があったX市ではなく、近隣のZ市にお住まいだった桑原さんは、X市の遠いところよりも近距離だったにもかかわらず、奥さんは10万円近い搬送料を払わなければなりませんでした。

「最初にそう言ってくれれば……!」

電話の声は怒りで震えていたそうです。お金というよりも、搬送料無料をアピールしてある資料の細部をつい見過ごした自分の不注意も悔しく、そんな業者にも、それを紹介した私たちにもお腹立ちになられていたのだと思います。なんとも後味が悪い結末でした。

正直に言うと、患者さんの死後、悲しみに暮れるご遺族が葬儀社を吟味することなど不可能です。各社見積もりを取って、安い会社を選ぶことなど難しく、時に「故人のために」とまるで言い値のようになって、簡単に葬儀に数百万円を費やしてしまった方もいらっしゃいました。

もちろん身の丈に合っていれば良いのです。あるいはそれに後悔しなければ良いのです。けれども、ご家族に無用な負担を与えたくない方は、葬儀社を選んでおくなど、一定の関与をしたほうが良いと思います。

家族は「良かれ」と思うものです。そしてまた、「最後ならば最良のお見送りをしよう」と思うのが道理です。それを頭に入れておかないと、もしかすると無用な負担を与えてしまうかもしれません。

お金をかけずに「心」をかけた葬儀を選ぶ

50代女性の辻さん(仮名)は、自分の葬儀に関わることを決めた人でした。お金を残さなければならない理由がおありのようでした。病院のラウンジに複数の葬儀社が出入りして、にこやかに交渉なさっていました。お坊さんも自分で選びました。お知り合いのお坊さんに「こころを込めて」読経してくださいね、とお願いしたのです。

ひそやかに静かに逝かれた彼女の最期と相応するように、お葬式も控えめであったそうです。しかし控えめなお葬式には、考えられる限りの知り合いや友人が集まり、笑顔で送られたとのことでした。もちろん心がこもった読経のもとで。

「家族同然の自分が言うのもなんですが、素晴らしい式でしたよ」

辻さんを看取り、お葬式にも参加した元・ご主人が仰いました。

「費用も少なく仕上げたようなんですよ。さすが辻だと感心しました」

お金をかけなくても、手と心はかけた、彼女らしいお葬式でした。

「遺骨は海に撒いて」と言われたら

「お父さんは海に撒いてほしいと言っていたけれども……」

困ったのは亡くなった60代男性木村さん(仮名)の奥さんである佳代子さん(仮名)です。

最近は、自然葬、つまり海や山に撒いてほしいという希望を仰る方も増えてきているようです。これこそまさに、「家」制度の強さが弱まっていることの一つの証とも言えるかもしれません。

「撒いて法律的には大丈夫なのかしら」

奥さんは困り顔です。意外に知らないことですよね。

1991年に法務省が非公式に、遺骨を海に撒くことは「葬送を目的とし節度を持って行う限り、死体遺棄には当たらない」と述べたとされています。厚生省(当時)も「墓地、埋葬等に関する法律は散骨を規制するものではない」との見解を示したそうです。しかしこれは非公式なものであり、文書で示されているものではないのです。したがって、法律的にはグレーであり、その間隙になされているものだと言えます。

それでは、実際にはどのように海への散骨が行われているのでしょうか?

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