『ビリギャル』とマイルドヤンキー市場
漆原直行(以下、漆原) ここでちょっと、2014年気になったキーワードを挙げてみたいと思います。まずは「稲盛和夫」。稲盛さんの神格化が続いて、2015〜2016年あたりで総括本も出版されるんじゃないかなと予想します。いろいろ言う人もいるけど、経営者としてはタフな人だし、個人的には評価できると思いますけどね。
あと、続いてのキーワードは「バカ」。愚者に対する諦観みたいな。2013年に上梓された中川さんの『ネットのバカ』もそうだし、世の中にいるバカに対しての諦観をモチーフにしたものが増えていくと予測しています。あと「マイルドヤンキーをネタに一捻り」的な本のブームも続くんじゃないかと。いま、金脈ってここしかないでしょう。
山本一郎(以下、山本) 『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』なんかもそうでしょう。出発点がえらい低い。『ビリギャル』も同じで、あれなんかも系譜としては精神主義的な成功体験が描かれている。ヤンキー本で売れたものって、割と一発系が多いと思うんです。同じ系統の本を何冊も出して、コンスタントに売れたって人を知らない。
強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話 (徳間書店)
学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話[文庫特別版] (角川文庫)
漆原 地方とかに行ったときに感じる、あの圧倒的なヤンキー感って独特じゃないですか。普段、東京で生活しているとあまり視界に入ってこないんだけど、早婚で20代前半なのに子供は2、3人いて、ドン・キホーテで買ったサンリオ系のジャージを家族全員で着て、軽自動車に乗ってロードサイドの大型ショッピングモールに行く……みたいな生活スタイルの日本人は、自分たちが思っている以上にいる。
そういったヤンキー、マイルドヤンキーたちをめぐる世界観みたいなところって、ある種のビジネスチャンスになってくるということも含めて、その層を狙った本も出てくるんじゃないか、と。
山本 そもそも10年くらい前に、ヤンキー雑誌を読んでいた層が結婚して、子供ができて、大人としての自覚が出てきて、本でも読もうかねってなったときに、でも俺、活字読めねえーし。だから、ヤンキーの知力に見合った本へのニーズはあるし、そういう各々に応じた市場が出来上がりつつある。
その中で、本を読みきる力がない人でも、1冊本を読んでもらおうと、読みやすいものをつくるという流れはありますよね。『ビリギャル』だって、文章自体はクソなんですよ。でも、ラノベ感覚で読みやすいという。あれはあれでありなんですよ。ある層は買って読んでいるわけだから、本の価値はあったということ。
漆原 コミカライズが売れるのも、そういう背景があるからですよね。ビジネス書を読もうとしたけど、読みきれなかった人たちがお客さんになっているんじゃないかな。
2015年ビジネス書界を予測
中川 そんな中、2015年はいったいどうなっていくのか?