そして僕は原宿駅の竹下口を降りた。都会の冬は空気が白く淀んでいて、晴れているのか薄曇りなのか判別がつきにくい。その日の頭上も青とも灰色ともつかぬ曖昧な空が覆っている。白昼なのにどこか薄暗く、そして風は冷たい。僕は内側にフェイクファーがついたいつものジャケットを着て、買ったばかりのおそろしく長いふかふかのマフラーで首をグルグル巻きにしていた。端をたなびかせて歩いていたらアルバイト先の同僚に仮面ライダーのようだと言われたので、普通より一回転多く巻いている。今年の冬はこの格好で乗り切るつもりだ。
平日だというのに、駅の付近は十代や二十代の若者で満ち溢れていた。ライブハウスから飛び出てきたような反抗的な格好をした一団が通り過ぎたかと思えば、向こうではやたらとフリルのついた黒白の服を着た少女たちが談笑している。もちろんそこまで自己顕示欲の強くない平凡な若者も、多くの数が闊歩している。そして中年や老人もいないわけではない。とにかく人そのものが多いのだ。東京はどこへ行っても同じだ。よく人に「覇気がかけらもない」「無気力」「人混みでも後ろ姿ですぐわかる」と評される、足を引きずるような僕独特の歩き方で、そうした大量の人々に追い抜かれながら、改札口のすぐ目の前にある横断歩道を渡った。
彼女はこの竹下通りの入り口にある牛丼屋の前で待っているという話だったが、その姿が見つからない。時計を見ると約束の時間より五分早かった。そして彼女は時間丁度に現れた。人混みの向こうからやって来るその姿を僕が運良く見つけ、やがて向こうもその視線に気がつくと小さく会釈をし、膝丈のデニムのスカートを蹴飛ばすようにして駆けて来る。
ぱたぱたと足音を立てて、目の前にたどり着いた彼女は白い息を吐いて笑顔を見せた。往来をこんなに元気に駆ける女を見るのは、なんだか久しぶりのような気がする。彼女の足元を見ると、白い素足に真新しいスニーカーを履いていた。そうか、最近僕の接する女はみなヒールの高い靴ばかり履いているから、こうは走らないのか。