鳥を追い、獣を捌(さば)く。 全国的に狩猟解禁中の現在、猟師にとっては一年の中で最も盛り上がる季節を迎えている。 そんな中、編集部は猟師・岡本に密着、狩りの現場に同行した。 エース・ハンター(空気銃) 一丁と自作の罠(わな)で、どんな獲物を仕留めることができるのだろうか。
狩猟の現実
池のそばの茂みから水上のカモに向かって発砲する岡本。
銃を構えた岡本には緊張感が漂っていた。スコープを覗き込み、おもむろに引き金を引く。静まり返った池に“ブシッ”とエア・ライフルの銃声が鳴り響いた。11月24日、朝8時、岡山県北東部のとある山中。よくカモがついているという岡本なじみの猟場である。人の気配に感づいたのか、カモは銃の発射と同時に飛び立ってしまった。その後もいくつか別の池を巡ったはみたけれど、鳥の声すら聞こえてこない。「鳥が少ない」ここに来る途中も、岡本は不安そうに空を見上げていた。
「辺鄙なところに駐車しているなら、たいがい猟師ですね」という話を聞きながら探索していると、脇に獣道を発見した。岡本曰く、イノシシかシカかは分からないが、まだ新しい足跡とのこと。この山には大物がいる。期待を膨らませつつ、さらに山道を行くと、遠くから犬の吠える声と鈴の音色が耳に飛び込んできた。岡本は足を止めた。「シシ(猪)猟だ。引き返しましょう」すでに猟師がいた場合、狩りの邪魔にならないよう山を出るのがマナーらしい。茂みから突然、イノシシが飛び出して来る可能性もある。獲物がいそうな山だけに悔やまれるが、安全を優先し、元来た道を引き返すことにした。
ジグザグの土の部分が獣道。動物が通った跡が伺える。
当初の予定では岡本にカモを仕留めてもらい、丸焼きにありつこうという目論見だった。ところが、お昼を過ぎてもカモどころか鳥一羽も獲れていない。気がつけば、編集とカメラマンも目つきだけはハンターと化し、血眼で鳥を探していた。急な斜面を越え、倒れかかった木の下をかいくぐり、藪を掻き分けながら山を登る。銃のカバーを外し、一人進む岡本。しゃがみこんだかと思うと木の上をじっと睨んでいた。どうやらヒヨドリがいるらしい。耳を澄ませば、確かに鳥のさえずりが聞こえてくる。岡本はエア・ライフルの開閉を繰り返して空気を入れ、頭上10mほどの樹上に銃口を向けた。
車内は重苦しい空気に包まれていた。結局、ヒヨドリは獲れなかったのだ。がっくりとうなだれる岡本。鳥自体が少ないのだから、決して彼のせいではないと思うのだが……。ふいに岡本の携帯が鳴った。電話の主はマンガでもお馴染(なじ)みアキ君(岡本の猟師仲間)。電話を切った岡本はニヤリと笑いながら、こう告げた。「昨日、仕掛けておいた罠に鹿がかかったので、これから解体に行きます!」獲物が獲れたという喜びと解体への好奇心で、一同は一気に沸き立った。鳥猟を切り上げ、さっそくアキ君のもとへ向かった。
樹上のヒヨドリを狙う岡本。肉眼では全く見えなかった。
推定3歳のメスジカ。猟師や犬に追われたのか、足に血の塊や怪我の跡があった。
アキ君(写真左)の見立てでは、子供を産んでいないシカ。
岡本自作のくくり罠。ワイヤーがシカの後ろ足にしっかり食い込んでいる。
脂たっぷりのイノシシとは逆で、シカは脂肪が少なく肉はほとんどが赤身。
シカを捌く
アキ家の庭に置いてある台の上に、体長1mほどのシカが横たわっていた。お腹に裂け目があり、すでに内臓は取り除かれている。
アキ君がやって来ると、いよいよ解体が始まった。ナイフを使い、慣れた手つきで全身の毛皮を剥ぎとっていく。気温はおよそ5℃。山に近いせいか予想以上に冷え込みが厳しい。岡本とアキ君はこの寒空の下、素手のまま、水で血を洗いながら作業を続けていった。
解体開始から2時間。日もすでに暮れかかっている。肉を切り分けていくと、獣臭の奥に、ほんのり肉の香りが立ち込めてきた。朝早く山に入ってから、ほとんど何も食べていない。あぁ、腹減ったなぁ。このまま食べてもいいでしょうか。「刺しで食うなら、細菌を殺すのに最低20時間は冷凍しないといけないんで、今すぐは無理です」(岡本) 鹿肉料理は明日に持ち越されることになった。
肉は無駄なくそぎ落とす。1頭から20kgほどの肉がとれた。
色艶がよく本当に旨そうだ。
獲物の収獲を祝って乾杯!
——翌日の夜。シェフ岡本が作った山賊ディナー5品が食卓に並んだ。材料は、昨日解体した鹿肉、以前仕留めて冷凍しておいた雉鳩(キジバト)、いただきものの猪肉。そして、岡本が体を張って獲ってきたスズメバチの蜂の子。持参したブルゴーニュワインと共に待ちに待ったジビエの晩餐を堪能した。どれも野生味あふれる力強い料理で、食うほどに力がみなぎってくる。
いただきます。
(右上から時計回りに)
雉鳩とチーズの燻製、蜂の子のバター炒め
鹿肉のスペアリブのグリル&鹿肉のステーキ、
猪肉のしょうが焼き、鹿刺し
雉鳩とチーズの燻製
燻製器に入れること約30分。鳩の大きさは10cmと小ぶりサイズである。かぶりつくと、レバーに似た風味が口の中に広がる。付け合わせのチーズも実に旨い。赤ワインと相性抜群!
蜂の子のバター炒め
箸休めの一品。海老のような風味である。調理で威力を発揮する食材。
鹿肉のスペアリブのグリル&鹿肉のステーキ
ステーキは柔らかく文句なしに旨い逸品。スペアリブは好みが分かれるところ。草っぽい香りがなんとも獣臭い。ん~ジビエ。
猪肉のしょうが焼き
猪の味わいはやはり格別。多少肉が固かったものの、噛むほどに脂の旨味がジュワッ。
鹿刺し
一旦冷凍しトリミング処理した鹿刺しは、醤油を付けておろししょうがと一緒に。とろける食感とほのかな甘味がたまらない。
文・構成/イブニング編集部
撮影/金澤智康
鳥猟、シカの解体のようすは下の動画でご覧いただけます!
まだまだあるぞ、山賊メニュー!
カラスやカモ料理も収録された『山賊ダイアリー』単行本1巻
絶賛発売中です!!