情報を摂取したいという人間の欲望は変わらない
中川淳一郎(以下、中川) 話を戻すと、この本はどういう本なんでしょうね。
山本一郎(以下、山本) まっすぐに言うとすぐれた本の選び方。さらに言えば「本」という形に限らず、電子書籍やウェブのニュースサイトなどさまざまなチャネルの存在を前提にした「本」との付き合い方を整理して提案する、ってところ?
中川 そういえば本と雑誌と新聞とネットメディアって何が違うんだろう。
山本 たぶんね。読み手のリテラシー自体はそう変わらないんだと思う。読み手としての体力や、読む文章の長さは違ったとしても……。
中川 情報を摂取したいという人間の欲求や欲望はあまり変わらない。
山本 そこで得た知見をどう自分の行動に還元していくかは千差万別だけどね。一時期ライフハック系のサイトで「○○できるようになる5つの条件」とか流行ったじゃない。ああいう単純化は釣り感も含めて、「死ね」と思っちゃう。早くつぶれてほしい。「あなたが××を知っておくべき18の理由」とかありえない。
漆原直行(以下、漆原) でも海外……特にアメリカ発信のそういう記事っていまだにかなりの数にのぼるよね。
山本 ああいうのを持ち込んで、釣り上げてバカを大量生産する。バカは自分の国で増やせよ。うちの国にバカ量産装置を持ち込んで、これ以上バカを増やすなよ、と。もうふざけんなと思うよね! ……ってあれ? 何の話だっけ?
漆原 本筋を忘れるほどってどんだけアメリカが嫌いなのよ(笑)。メディアは違っても、読み手の情報摂取欲は変わらないという話。
山本 いや、別にアメリカは嫌いじゃないけど……。それはともかく我々は世代としても本を読む世代だよね。下の世代と比べると明らかに読んでるし、少し上の世代と比べても遜色ない最後の世代かもしれない。
漆原 「本を読む世代」って、この場合どれくらいの範囲を指してるの?
山本 我々が一番下の代だから40代〜50代かな。当事者としても本を読んできたし、周囲を見ても読んでいる印象がある。
漆原 確かに若いころからそうだよね。本には頻繁に接してきたと思うよ。
山本 でも30代はもう読まないみたいですね。この間30代の社会学者と話したら、「自分、本読まないです」みたいな話になったわけ。仮にも何冊も本を出している学者ですよ。ビックリして「でもお前、本書いてるじゃん」と切り込んだら「いや、自分本読まないです。本読まないことがアイデンティティなんです」だって。