読書で賢く生きる。

みんな、本に肯定されたがっている—vol.1

明るいニュースも少なく、目標も持ちづらく、人生の先行きが不透明な現代日本。書店にも、そうした不安を見通したかのような自己啓発書やビジネス書が多く並んでいます。しかし、本当に役に立つ本をどう選び、読書する方法がわからない人も多いのではないでしょうか? そんな悩みに答えてくれるのが、中川淳一郎さん、漆原直行さん、山本一郎さんによる新書『読書で賢く生きる。』。cakesでは、お三方による「出版によせての鼎談」を公開していきます!

「愚者」は本を読むのか?

山本一郎(以下、山本) まとめまで来てこういうことを言うのもアレですが、この本を作ることになった当初、「読書」という大枠は決まっていた割に、「誰に」「どういう切り口で」伝えるか、それなりに紆余曲折があったよね。

中川淳一郎(以下、中川) 確か当初の仮タイトル案には、「愚者」というキーワードが含まれてました!

山本 『愚者のための「読書の悪知恵」』……だっけ?

漆原直行(以下、漆原) 最初、担当編集者と話をしたとき「2015年のキーワードのひとつは『バカ』だ」という話になったんですよ。中川さんの『縁の切り方』『ネットのバカ』、あとは中島義道先生の『人生に生きる価値はない』『反〈絆〉論』のように、物事を常識の逆からとらえるという見方がもっと増えてくるだろうと。「ぶった斬りナイト」(※)でも話をしたように、〝愚者〟という視点から世の中を見てみよう、斬ってみようって。
※ 阿佐ヶ谷ロフトAでの大好評「ビジネス書ぶった斬りナイト」のこと。ビジネス書およびその周辺事情をサカナに、中川、漆原、山本がぶっちゃけトークを行う。好評すぎて8度も開催。本書にもプレイバックが収録されている。

ネットのバカ (新潮新書)
ネットのバカ (新潮新書)

山本 でも、〝愚者〟は本読まないと思うわけですよ。

中川 いや、愚者も本を読みますよ。バカな本を!

山本 そう。つまり彼らはダマされるべくしてダマされてるわけじゃないですか。役に立たない資格を取り、ふらふらと自分探しをする。私としては、「自分は何者なのか」、人間の根っこの部分と向き合おうとしない人が、本から読み取れるものなんてないと思ってるんですよ。目先の金儲けを追いかけて、橘玲の本ばかり読んでるような人に届く言葉を私は持っていないな、と。

漆原 橘玲というと『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』みたいな本のこと? 去年12年ぶりに改定されて『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』というタイトルでまたもブレイクしています。

山本 橘玲だといい本は『臆病者のための株入門』ですよ。私自身が投資をやっているからという理由もあるけれど、ジェイコム20億円案件や堀江貴文の話を例に、金融商品の儲けのからくりや裏側を解き明かした上で、普遍的で常識的な株式投資の話に落としている。

臆病者のための株入門 (文春新書)
臆病者のための株入門 (文春新書)

漆原 『黄金の羽根』よりいい?

山本 圧倒的にいいと思いますよ。ただ、愚者は『黄金の羽根』のほうを読む。バカは景気のいいほう、見た目が派手なものを選ぶんですよ。

中川 山本さんは自分を臆病者だと思っていて、その上で読む本を選んでいる。

漆原 自分でどこまで本気で言ってるのかはともかく(笑)。

「俺はこんないい本を読んでるんだ」と思いたい

中川 でも愚者はわかりやすいタイトルの本を手に取りますよね。

漆原 まあビジネス書は往々にしてそういう方向だけど。

山本 ただ「愚者」自身は、自分のことを絶対に愚者だとは思わないと思う。だから「愚者のための」とタイトルにつくと、「私、愚者じゃないから関係ないし」って思われそうで、よくないと思ってたんですよ。

漆原 そうかなあ。僕、自分のことを愚者だと思ってるよ。

山本 それはあなただからでしょ。

漆原 「以上終了!」という話? マジか!! じゃあ、世の人々は自分を肯定してほしくて本読んでるの?

山本 でもさ、「デブは早死に」とか言われるといやじゃない?

漆原 えーとね……殺すぞこのやろう(笑)。

山本 例えばですよ。仮に『デブはIQが低い』という本が例えば売れたとしても、デブが「俺も読んでみようかな」という気にはならないわけですよ。

漆原 僕はなるね。「IQが低いだと!? このやろう!」と思う。

中川 そこでやせようとは?

漆原 思わない。僕はデブである自分に自信を持ってるから。

中川 それは肯定するって話じゃないですか。「デブ」を自分事としてとらえて、「デブ」であることを肯定している。

漆原 デブに関しては肯定するよ。でも「早死に」や「IQ」にはイラッと来る。実際、そういうたぐいのアホな本もたくさん読んでます。むしろイラッとくるから読む。まあ「デブ」は別としてその手の煽り本は……。って、ふたりともデブデブうるせえ!

中川 アハハハハ! 知識として読むってことね。

山本 あのさ、でも人間は読みたいものを読み、知りたいものを知ろうとする。見たいものを見る。もっと言うと「俺はこんないい本を読んでるんだ」と自負を得たい。自分自身の満足感という欲望を満たすために読んでる部分もある。「つまらない」と知りつつ、ピケティ本を我慢して読む的な。

漆原 山本さんもそういうところがあるんだ。

山本 ああ、あるとも!

中川 俺が勝間和代の『結局、女はキレイが勝ち』を読んだのは、ツッコミを入れるためですよ!

結局、女はキレイが勝ち
結局、女はキレイが勝ち

漆原 勝間本の読み方としては王道じゃないですか。でもあの本、実はいい本だった。

中川 いい本だよね! 案外まともなビジネスマン向けの本だった。

漆原 中川さん、ツッコんでやろうと思って読んでみたら、「あ、俺が実践してることだわ」ってことが結構あるでしょ。

中川 そうそう。いや、まじめにそうなんですよ。

漆原 実際、あの本は『断る力』『まじめの罠』なんかの100倍おもしろい。

断る力 (文春新書)
断る力 (文春新書)

山本 我々みたいに斜めから本を読む人間はそういう楽しみ方を提示したい。もっと言うと「わざとバカなことを言ってる勝間さん」や「悪い仲間に乗せられてあざとすぎる商売をする安藤美冬さん」を見たい、そこにツッコミを入れたいから読むわけです。

漆原 そこに群がる、香ばしいみなさんの発言をより深く理解したい。

中川 ツイッターでそういう著者に「刺激受けました!」と@飛ばしたり。

「どっかで読んだことがある文章」って必ずある

山本 そういう読者やユーザーの姿を妄想しつつ、そこまで含めた事象を見ておきたいわけですよね。そうすると「安藤美冬の自己啓発本と本田直之の著作はどう違うんだ?」というふうに横軸でも比較する。

漆原 数もさることながら、雑多なジャンルの本を読んでるからね。

山本 すると「どっかで読んだことがある文章」が必ず出てくる。文脈や論旨の構成で「お前、ここから持ってきたんじゃないか」という原点が丸分かりのものが。

漆原 あるある!

山本 でもそういう読み方は流行らないの。誰もそんな読み方してないんだから。

漆原 えっ。

山本 もっと言えば、みんなそこまで読み込んでない。あなたは同じ著者の本を縦の系譜で比較したり、横のジャンルで比較して、さらにさかのぼって先達はどうだったかという風に、論評に必要な知識を紐づけながら読んでいくでしょ。それは明らかに普通の読み方とは違うと思うんですよね。読書を趣味とする人の読み方ですよ。

中川 まあ、普通はあれですよ。「柴咲コウがオビに『感動しました』と書いてたから買いました!」みたいな話になりますよね。

山本 あまり買わない人だとそうだよね。「人が読んでるから」「売れてるから」という世の中の雰囲気が指標になる。年間数冊という読書量だと「売れてるもの」から自分が読みたいと思ったものに絞られる。

漆原 実際イベントで聞いても「年間10冊以内」という人が多い。

山本 だから「読書体験を通じて、愚か者のステージから抜け出しましょう。目覚めましょう!」と言っても、そもそも目覚める気がないわけですよ。ならば年間30冊読む人に向けて、精度の高い読み方を伝えたほうが世のため、人のためになるんじゃないかという気もしてました。

中川 それ、何人くらいいますかね。

山本 わかんないけど、1万人とかじゃねえの?

漆原 ヤバイ! この本、誰に売ればいいんだ……。

中川 タイトル変えればいいんですよ。なんでもかんでも『信長と秀吉と家康』ってタイトルつければ売れるらしいですよ!

漆原 この本を……?

山本 なんだよ、その『部屋とYシャツと私』みたいなタイトルは。

中川 もう『部屋と私と家族と家康と読書』でいいですよ。

漆原 『俺とお前と大五郎』みたいな話か。

山本 焼酎の話かよ。このデブは酒も飲まないくせに。

次回、「140字で説明できないものを読む体力」は4/13(月)更新!
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ビジネス書を漫然と読んだって、年収は上がらない! ビジネスや人間関係に必ず役立つ知見と技術満載の『読書で賢く生きる』4月9日発売です。

読書で賢く生きる。 (ベスト新書)
読書で賢く生きる。 (ベスト新書)

第1章 ネット時代こそ本を読むとトクをする。 中川淳一郎
第2章 捨てるべきビジネス書、読むべきビジネス書 中川淳一郎/漆原直行/山本一郎
第3章 駄本を見極め、古典を読破する技術 漆原直行
第4章 ビジネス書業界の呆れた舞台裏 中川淳一郎/漆原直行/山本一郎
第5章 人生を変えていく読書術とは 山本一郎
第6章 読書を武器に賢く生きること 中川淳一郎/漆原直行/山本一郎

この連載について

読書で賢く生きる。

中川淳一郎 /漆原直行 /山本一郎

先が見えず、目標も持ちづらく、人生に迷っている人が多い今日このごろ。書店にも、そうした不安を見通したかのような自己啓発書やビジネス書が多く並んでいます。しかし、あまりにもトレンドが変わりやすく、多くの本が出版されているこのご時世に、本...もっと読む

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コメント

enmotakenawa777 この連載知らんかったあとで読む https://t.co/kSUicjbidp 11日前 replyretweetfavorite

folkefiende88 ”「俺はこんないい本を読んでるんだ」と思いたい ” 約2年前 replyretweetfavorite

book_floor ワロタ/目先の金儲けを追いかけて、橘玲の本ばかり読んでるような人に届く言葉を私は持っていないな、と。 :> 2年以上前 replyretweetfavorite

taketo1024 中川さんってこんなスリムな感じの人だったのか → 2年以上前 replyretweetfavorite