國分功一郎×山崎亮 刊行記念対談(前編):いまこそ大きなことを言う

時代が危機的状況に面しているときこそ、大きな社会的枠組を語るべきだ――宗教戦争によって秩序が崩壊した近代初期。いまいちど社会を基盤から構築するため、<政治>の基本概念が盛んに議論されはじめた。複数の人間が生きていくことは、どのようにして可能になるのか。気鋭のふたりの論客によって、古典のなかのリアリティが、いまいきいきと蘇る。  國分功一郎:哲学者×山崎亮:コミュニティ・デザイナー

國分功一郎(以下、國分) 今日はコミュニティデザイナーの山崎亮さんにお越しいただきました。4月にちくま新書から「近代政治哲学 ─自然・主権・行政」という本が出ます。

山崎亮(以下、山崎) すごい名前ですね。大きなものがたくさん盛り込まれている。もう一度タイトルを言ってください。

國分 「近代政治哲学 ─自然・主権・行政」です。これ、二文字熟語が6つ入ってますよ(笑)。

山崎 これは大御所のタイトルですね。カントが書いたのかな、みたいな(笑)。

國分 山崎さんにそう言われたら、たしかにちょっと大きすぎるタイトルかも(笑)。でも編集の方に「大きなタイトルの本を書いたらどうですか」と提案されまして。

山崎 建築業界では、大きなことを言わなくなって久しいんです。しかし今こそ、大きいことを言わなければならない時期に来ているのではないかと。たしかに大きいことを実行に移すのは難しいけれど、思い切って大きいことを言う意義もある。國分さんの業界ではどうですか。

國分 哲学の業界ではグランド・セオリーの失墜という状況があり、やはり大きな話ができなくなっています。ここ30~40年ぐらいはフランス現代思想が力を持っていて、僕らの世代は非常に影響を受けたんです。グランド・セオリーでやり尽くされた感があったので、大きなことをバーンとは言わなくなったのです。でも、そういう動きもひとまず落ち着いて、いま新しい風が出てきているのかもしれない。そういう業界内の流れはあります。


過去の思想が活きてくる

國分 山崎さんは19世紀イギリスの思想家であるジョン・ラスキン(注1)やウィリアム・モリス(注2)にすごく関心を持っておられる。山崎さんが19世紀イギリスの問題に敏感に反応するのは、今の社会とどこか似通っているところがあるからですか。

注1:ジョン・ラスキン(John Ruskin, 1819年2月8日 - 1900年1月20日)ロンドン生まれ。美術評論家・社会思想家。著書に『近代画家論』『建築の七灯』『ヴェネチアの石』などがある。
注2:ウィリアム・モリス(William Morris,1834年3月24日 - 1896年10月3日)ロンドン生まれ。詩人、デザイナー。産業社会化が進むなかにあって、社会主義に傾倒。生活と芸術の一致を提唱し、アーツ・アンド・クラフツ運動をおこす。

山崎 そうですね。僕はモリスのことをデザイナーとしてすごく尊敬していて、いろいろと本を読んでいくうちに、モリスが晩年にかけて社会運動に深くコミットしていたことが分かってきました。そしてモリスに大きな影響を与えたラスキンもまた、社会主義者としての信条から多くの慈善事業を行っていった。彼らはデザイン・美学から入ったのに、なぜ社会について多くを語り、行動するようになったのか。
 それについて調べ始めると、彼らが生きた19世紀という時代が徐々に見えてきたんです。当時、農民は農地から追い出され、都市に集まってきた。国家は都市近郊の工場で働く労働者を必要としていましたが、そこに集まってきた人たちは本当に苛酷な生活を強いられていた。救貧院にしても、国・政府はひどい施設しかつくらなかった。そこに収容している人を生きるか死ぬかぎりぎりの状態にしておかなければ、みんなが殺到してしまいますから。貧困の問題があったわけです。僕はデザイナー・美学者としてのラスキンから入っていって社会事業・社会運動に興味を持ち、19世紀の時代背景を知ることになったわけです。
 今の日本では19世紀イギリスほどではないにせよ、格差が目に見えるかたちで大きくなってきている。この傾向がより顕著になっていけば、今まで勝ち組とされてきた人たちも、やがて安全にまちを歩くことができないような社会になる可能性が高まってきた。そんなことを考え始めた時、行動の指針のようなものが欲しいなと思ったんです。そして、19世紀イギリスの思想家・活動家の思考・行動・工夫に興味を持ちました。これは今、僕らが活動する時に心の支えになるのではないかと。

國分 今の話をうかがっていて、現在の状況は19世紀と非常によく似てきているんだな、とつくづく思いました。僕はしばしば、時代が19世紀化していると言うんですが。普通に労働者の権利などを守らなければ、社会はどうしようもなくなる。だからこそ(当時は)工場法をつくるなどさまざまな取り組みをしてきたわけですが、いままた派遣労働の規制緩和などで人間が再びばらばらにされ、格差が広がっていきつつある。山崎さんが提唱するコミュニティデザインという理念の背景には、19世紀社会から出てきた思想家であるモリス、ラスキンがいる。

山崎 僕は、普段は理論よりも実践を主としているし、集落に行ってワークショップを開くときにラスキンの話をしても、なかなか伝わらない(笑)。だからここ10年ほど、自分の実務をやる中で、そういう名前・横文字は極力出さず、思想・行動のみについて語るようにしてきました。


新たな政治秩序を作る時代

國分 その話はすごく感動的です。19世紀の思想家の営みが、山崎さんによって現代に生かされているということですから。山崎さんは19世紀という時代に注目されていますが、僕は17世紀の哲学に興味を持っています。中世の終わり、近代の始まりのころですね。その時代は、16世紀から続く宗教戦争で社会がぐちゃぐちゃになって、国家が壊れてしまっていた。それで、新たな国家・政治秩序をどうつくるかということが喫緊の問題になっていました。いわば終戦直後の焼野原で、国家・政治秩序を土台からつくっている時代。僕はそういう時代に、強いリアリティーを感じたんです。
 だから、今回の本の冒頭に「いろんな思想家の本から、古典として重要であるということ以上の価値を引き出したい」と書いたんですよ。古典はもちろん重要だけど、「古典だから重要だ」と言うと骨董品を愛でるおじいさんのようだから嫌で、とはいえ古典をまったく知らないのは愚かですよね。だから、そのどちらでもない態度を取りたい。今の僕たちにとって、なぜこの古典が重要なのか。それを示してみたいという気持ちがありました。

山崎 つまり、古典を現代に生かすということですね。國分さんは、中世が終わりにさしかかって国家・政治秩序が崩壊していた時代に興味を持たれた。僕は機械文明が入ってきてそれまでの社会秩序が崩壊し、新しいシステムが求められた19世紀イギリスに強い関心を抱いている。両者に共通しているのは、現代日本に非常に示唆的な時代であるということで。

國分 そうなんですよね。中世の終わり、19世紀、現代には明らかに共通点があります。僕自身がリアリティーを感じるのは中世の終わりの時代で。いずれにしても、ある時代の問題・関心が、時に現代と響き合うということがあると思うんです。

山崎 たとえば19世紀初頭のラッダイト運動というのは、歴史の教科書でも太い文字で書いてありましたよね。要するに「お前たちがつくってきたものは、機械だったら30秒でつくれるぞ」と言われて腹を立てた職人たちが、機械を壊した。機械を壊したら死罪なんですが、彼らはそれを覚悟で壊しに行ったわけです。だから今だって「インターネットの普及のせいで俺の仕事がなくなった」ということで、インターネットの回線を切ってやろうと思っている人がいるんじゃないかと(笑)。だからラッダイト運動にも、すごく共感できる。


—後編(4月13日掲載)に続く


「webちくま」の特設ページにて完全版を公開!(全4回)


「近代政治哲学 ─自然・主権・行政」國分功一郎 著 (ちくま新書)






筑摩書房の読み物サイト

毎週金曜日更新!!

http://www.chikumashobo.co.jp/new_chikuma/

●好評連載中!

宮下規久朗「神は細部に宿る──続・モチーフで読む美術史」 いしわたり淳治「短短小説」 四方田犬彦「土地の精霊




この連載について

國分功一郎×山崎亮 刊行記念対談:國分功一郎『近代政治哲学—自然・主権・行政』

山崎 亮 /國分功一郎

僕らの社会主義 刊行記念対談『近代政治哲学ーー自然・主権・行政』

関連記事

関連キーワード

コメント

yasswee ):いまこそ大きなことを言う 國分功一郎『近代政治哲学ーー自然・主権・行政』cakes(ケイクス) https://t.co/ISZQGfnz7T 3年以上前 replyretweetfavorite

pttry21 これは期待!! 3年以上前 replyretweetfavorite

yamazakiryo 國分さんとお話しました。 https://t.co/GyaWxxZ5KR http://t.co/v54NFENeCP 3年以上前 replyretweetfavorite

wing_river ):いまこそ大きなことを言う https://t.co/JuoZ5pqb6J 4年弱前 replyretweetfavorite