長崎の浦上天主堂に残された聖像の右手首。浦上天主堂は、戦前、瀟洒なレンガ造りで東洋一の大聖堂とうたわれた。8月9日に投下された原爆で建物はほぼ全壊し、周辺一帯で約8500人の信徒が亡くなった。(写真/溝越賢、金川雄策)
「核なき世界」の先を描く
堤 未果
「劣化ウラン弾」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 原発廃棄物の劣化ウランから作る機関砲弾で、分厚い戦車鋼板を貫通し、ガス化する際の高熱で戦車内の敵兵を即死させ、放射性ガスを放出する強力な兵器だ。
劣化ウラン弾は、ボスニア・コソボ紛争でNATO多国籍軍に、湾岸戦争、イラク戦争、アフガニスタンで米英軍によって大量に使用された。粉塵を吸い込んだ兵士たちが帰国後に肺障害や腎臓障害などを発症するケースが相次ぎ、イラクでもがんや白血病、先天性障害など、明らかに放射性物質による健康被害症例が急増している。
だがアメリカ政府は当初劣化ウラン弾の危険性を兵士たちに知らせなかった。兵士たちは何も知らされず、帰国後の健康被害はPTSD(心的外傷後ストレス障害)として診断されてしまう。おかしいと思っても誰にも相談できず、孤独の中で薬漬けになる者が続出し、帰国後の自殺者数が戦死者数を上回るようになった。少数の兵士が勇気を出して裁判に踏み切るも、結果は全敗。差し出される言葉はいつも同じだ。「劣化ウラン弾と、被爆症状との因果関係は認められない」マスコミが流し続ける「テロの脅威」報道の中、帰還兵たちの声なき声はかき消され、米国民には届かない。