カルトムービー『幻の湖』を本気で見てみよう

映画著述業の真魚八重子さんがここで論じるのは、橋本忍監督の『幻の湖』です。カルトムービーをただ面白がるのではなく、虚心坦懐に観てみると……ぜひお読みください。

1990年代以降、埋もれた旧作映画を再発掘する際のジャンルは、渋谷系のオシャレ映画か、またはいわゆる「バカ映画」と呼ばれるモノが二大潮流としてありました。古い日本映画は都心に増えた名画座などのおかげで観る機会が多くなりましたが、「バカ映画」に分類された『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969年)や『やさぐれ姐御伝 総括リンチ』(1973年)、『犬神の悪霊』(1977年)などの作品が映画館でかかる場合、一時期はパーティームービーのつもりで笑いにくる観客が増えました。

最近は客ももっと多様化して、相変わらずたいしたシーンでもないのにヒャッヒャッと自己主張の如く高笑いする笑い屋も出没しますが、わりと慣れた客がシーンとしたまま見ているのが常態になってきている気がします。

映画の本意とはかけ離れた部分で、作り手の思いが空回りしていたり、今見ると滑稽に感じてしまうような、やりすぎの描写で笑いが起こるのは自然な反応です。特に60~80年代のエログロな面白さが流行し、映画表現が過剰な見世物性を増していって、なおかつ自粛といった配慮のない時代。映画界を支えた諸先輩方の映画をバカ呼ばわりするのはほんとに申し訳ないのですが、今の観点からは想像すらしなかった過剰な表現や素っ頓狂な場面が出てくると、確かに思わず吹いてしまいます。

まったくそういうつもりがない客層でも、たとえば以前にアテネフランセ文化センターというシネフィルの砦で、韓国のキム・ギヨン監督作品『死んでもいい経験』(1988年)がかかった時、真剣なサスペンスながら、そのあまりのとち狂った内容に真面目な映画青年たちがひたすら爆笑してました。でも、そういった事故のように不意打ちで笑ってしまうのではなく、なんでもかんでも笑って見ようとする、映画に対する固まった姿勢が90年代からあるのは確かです。

そのバカ映画と呼ばれるもののなかで最高峰ともいえるのが、橋本忍監督作の『幻の湖』(1982年)。橋本忍は黒澤明の『羅生門』(1950年)や野村芳太郎の『砂の器』(1974年)など、日本を代表する映画の脚本を手がけた人物で、みずからもフランキー堺主演の『私は貝になりたい』などを監督しています。そんな映画界が誇る巨匠が1982年、東宝創立50周年記念作品の一作として監督したのが『幻の湖』でした。けれども「トルコ嬢(現在のソープ嬢)が愛犬を殺した男に復讐するためマラソン勝負で挑む」という荒唐無稽な物語は理解されることなく、不入りによって打ち切りの憂き目に遭います。しかし90年代、バカ映画として再発見され、笑いながら見るパーティームービー枠でカルト作品化していきます。

幻の湖 [DVD]
幻の湖 [DVD]

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

ケイクスカルチャー

真魚八重子

関連キーワード