在宅生活のほうが長生きする!?
最期はどこで迎えたいのか——元気な方には、イメージがつきにくいかもしれません。しかし、漠然とでも、最期は自宅で家族と過ごしたいとお考えになる方も多いのではないでしょうか。
結論から言います。
実は、最期の時間を家で過ごすことはとても良いことです。一般的に言って、入院よりも、家族に囲まれて過ごす時間も長くなります。けれども、それには様々な困難も起こりうることは知っておくほうが良いでしょう。ここでは、患者さんやご家族が家で最期を過ごすことをためらう理由から、代表的な三つを紹介します。
第一の理由は、「病院に入院していたほうが安心」という考えや「できるだけの治療をしないと命が短くなる」という誤解があることです。患者さんやご家族、そして病院の医師や看護師も、このような考えや誤解を抱いているために、在宅生活が阻まれてしまうケースをしばしば見かけます。
実は、がんで余命数週間と推測される状況では、様々な治療を行える病院のほうが長生きできるとは限りません。その状況では、治療をしたからといって命が延びるわけではないからです。
人間の生命力は、治療の如何のみによって決まるものではなく、その方が持っている力や状況にも大きく左右されるものです。在宅生活のほうが、生活のストレスが少なく、心身ともに楽な可能性があります。結果として、その方にとっては苦痛が少なく、残り時間も長くなるかもしれません。
ご本人が帰りたい場合には、在宅医、訪問看護師、介護サービスなどの様々な在宅で利用できる資源を利用して帰ることを考えたほうが良いでしょう。
家で最期まで過ごせる人、過ごせない人
第二の理由は、「病院のほうが苦痛緩和ケアは充実している」という考えがあることです。生活のストレスが少なかったとしても、いざというときの痛みや苦しみの恐怖を想像すると、在宅生活が不安になるのは無理もありません。
林さん(仮名)は、70代男性の大腸がんの患者さんでした。身体のだるさは強くなり、食事もあまり摂れなくなり、一般的には余命が週単位と考えられる状態になりました。林さんには、もう病気を治す方法がないならば、最期は家で過ごしたいという希望がありました。
奥さんに相談しましたが、「家に帰ると夫は早死にしてしまうのでは……」と心配顔です。しかし、様々な医療者の意見を聞き、地域に在宅でも緩和ケアをしてくれる先生がいると知って、家に帰るという決断をなさいました。
さて、そのようにして家に帰った林さんは、その後、どのように過ごしたでしょうか?