古今東西の詩人たちは、紀元前から同じような恋愛詩を残している

小説家の窪美澄さんとcakes連載「新訳 世界恋愛詩集」が好評の詩人、菅原敏さんの対談。後編では「現代詩ブーム」で盛り上がっていた80年代に、窪さんが夢中になった詩人のお話を伺いつつ、菅原さんの美声で中原中也、西脇順三郎の詩を朗読していただきます。実は菅原さんのおじいさまも詩を書いていたそうで、自作の詩を女性に聞かせていたのだとか。菅原さんもプライベートではロマンチストなのでしょうか?

あらゆる詩人が、恋愛詩を書き残している

窪美澄(以下、窪) これまでいろいろとお話しさせていただきましたが、今回はわたしが好きな過去の詩人たちの作品の中から、敏さんの美声で2篇ほど朗読していただいてもいいですか?

菅原敏(以下、菅原) 美声だなんて恐縮ですが、俺でよければ。

 まずは、中原中也の『追懐』。うまく言葉にできない「恋愛のその後」が描写されていて、大好きな一篇です。


朗読『追懐』中原中也| 菅原敏|note
※こちらのリンク先より朗読が聴けます

追 懐

あなたは私を愛し、
私はあなたを愛した。

あなたはしっかりしており、
わたしは真面目であつた。

人にはそれが、ねたましかったのです、多分、
そしてそれを、ぬすもうとかゝつたのだ。
嫉みうらやみから出発したくどきに、あなたは乗つたのでした、
何故なぜでせう?—何かの拍子・・・・・・

そうしてあなたは私を別れた、
あの日に、おお、あの日に!

曇つて風ある日だつたその日は。その日以来、
もはやあなたは私のものではないのでした。

私は此処ここにゐます、黄色い灯影に、
あなたが今頃笑つてゐるかどうか、—いや、ともすれば そんなこと、想つてゐたりするのです


『シガレットの恋』中原中也より「追懐」

 「あなたは私を愛し、 私はあなたを愛した」……。中原中也の詩人としての生きざまって、もっとやぶれかぶれな印象がありましたが、こんな誠実な詩も書いているんですね。

菅原 ええ。cakesで連載している「新訳 世界恋愛詩集」を書くために、一時期、図書館にこもって古今東西の詩人の恋愛詩だけをえんえん読みふけっていたことがありました。それで気づいたんですが、バイロンもゲーテも、はたまた紀元前の詩人たちも、少なからずこういう恋愛詩を残しているんです。

『追懐』は中原中也に対して私が抱いていたイメージとは違うけれど、「詩人は誰しもこんな思いを絶対に書き記すんだな」とあらためて実感しました。人間の営みはいつの時代も変わらない。そのことに可笑しみと愛しさを感じます。

 恋愛した人が誰しも感じる想いと、それを言葉にしたいという欲求を、人間は普遍的に持っているんですよね。

現代の、孤立する詩人たち

 次は、西脇順三郎『えてるにたす』です。


朗読『えてるにたす』西脇順三郎| 菅原敏|note
※こちらのリンク先より朗読が聴けます

人間という時間から
離れたい
考えるということは永遠ではない
考えれば考えるほど
永遠から遠くなる
永遠はすべての存在を否定する
永遠を考えないことは
永遠を表現する唯一の形だ
脳髄を破壊して
永遠の中へ溶けこむ他ない
永遠は果てしない空間だ
自然はその空間を愛の力で
借りているだけだ
自然は永遠の一部分でない
「あらどうしましょう」
考えないことだ
オーモンド夫人のコクテル・パーティ
へ行こうチャタリ夫人もみえるだろう
白いあやめも
灰色の石のわきに
さやになつているだろう
恋人の小路は近道だが
避けたらいい
犬の死骸が
あることがある


西脇順三郎詩集「えてるにたす」より一部抜粋

菅原 前半の「人間という時間」「永遠という空間」から、後半の「婦人のコクテルパーティ」「犬の死骸」へ。抽象的な風景に、ぽたりと鮮やかな色が落ちるような展開にどきりとしますね。

 わたしが詩にどっぷりはまったのは高校3年生のときです。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
濃縮ジュースみたいな言葉を口ずさめば—窪美澄×菅原敏

窪美澄 /菅原敏

Youtubeから始まったプロジェクト「詩人天気予報」や、さまざまなイベントでの朗読など、「詩」を広く表現し、cakesの連載「新訳 世界恋愛詩集」も好評の詩人・菅原敏さんと、デビュー作『ふがいない僕は空を見た』から、常に高い人気を誇...もっと読む

関連記事

関連キーワード

コメント

Holloway_Amber ずっと聴きたいと思っていた。菅原さんが中原中也を朗読している。夢のようだ。 3年以上前 replyretweetfavorite

sugawara_bin 作家の窪美澄さんとの対談、最終回です! 80年代の現代詩ブームや口説き文句について、中原中也、西脇順三郎の詩の朗読も。詩人たちは紀元前から同じような恋愛詩を残している|窪美澄/菅原敏 https://t.co/IwocCVydib http://t.co/FQphMcPhUd 3年以上前 replyretweetfavorite

manaview 窪さんの詩好きは現代詩ブームからなのか 3年以上前 replyretweetfavorite

misumikubo 詩人・菅原敏さんとの対談最終回。夕暮れどき、菅原さんの美声による中原中也、西脇順三郎の詩の朗読をお楽しみ下さい。 3年以上前 replyretweetfavorite