田房永子は平塚らいてうに続く、現代の「女性革命家」である BY 樋口毅宏

「毒母」「出産」「性風俗」とタブーなき爆笑ドキュメントを綴るマンガ家の田房永子さんと作品に感銘を受け、「目からウロコでなく眼球ポロリレベル」と激賞する作家・樋口毅宏さんの対談です。
実は、作家になる前はハードなエロ本の編集をしていた樋口さんとエロ本のライターをしていた田房さんが、男女の間に横たわるふか〜い溝について、話し合いました。

女性だけに読ませるのはもったいない!?

樋口毅宏(以下、樋口) いやあ、きょうは田房さんとお話できて本当に嬉しいです。
 僕は去年、『ママだって、人間』を読んで大きな感銘を受けて、何人もの知り合いに「とにかく読んでくれ。話はそれからだ」と配り回ったほどです。自分のツイッターにも絶賛のコメントを書きました。

ママだって、人間
『ママだって、人間』(河出書房新社)
妊娠・育児中の主婦の性の問題から、ママ友カーストのサバイブ術、出産後の夫との関係、誰にも言えない母乳の悩みなど、『育児マンガ』のお約束&タブーに真っ向から切り込んだ爆笑コミック・育児ドキュメント。

@higu_take「『ママだって、人間』。厚労省はこのマンガを1000万部買い取って、女性だけでなく男にも配ったほうがいいね。ベビーカーに舌打ちするバカは死んでも読んだほうがいい。俺、ここまで言うのは後にも先にもないです。」

@higu_take「特に「まんこの洗い方問題」は……はああ(嘆息)。この回だけでも千円の価値があるよ。 頼む!一生のお願いだから(こんなところで使うか)読んでくれ! 開眼と爆笑のフルコンテンツ、それが『ママだって、人間』だ!」

@higu_take「承前:いやもう負けました。実母との確執を描いた『母がしんどい』(大傑作!)の田房永子さんだが、今度はご自身が母親の立場になって、妊娠→出産→育児を描いた。本作も笑うだけ笑って、目からウロコが百枚以上落ちて、しかも考えさせられた。」

樋口 「厚労省が1000万部買い取れ」と書いたツイートは600リツイートされました。それを見た担当さんが声をかけてくれたおかげで、『ママだって、人間』の新しい帯に、内田春菊さんや小島慶子さんといった錚々たる面々と推薦文を書かせてもらえました。

田房永子(以下、田房) 本当に光栄です。樋口さんのツイートを読んだとき、本当に嬉しかったです。私も、「ママだって、人間」は母子手帳と一緒に配られるべき本だと思ってるので……。心の中では、ですけれども。

樋口 田房さんとは去年の3月、下北沢のB&Bで犬山紙子さんとのトークイベントに僕がお客として観覧して、サインを頂いたのが最初でしたね。

田房 そうですね。

樋口 トークショーは田房さんの「女性は出産した後は身体がボロボロなんだから、男はアロマテラピーや超絶クンニ法など勉強しておけ」など、問題発言の連続でずっと爆笑していました。イベントはもちろん超満員だったんですが、観客は女性ばかりで、男は僕ひとりだったのが驚きでした。

田房 そうですよね、「問題発言」になっちゃいますよね。自分としては真面目な意見なんですけど(笑)。妻が妊娠中の夫など、出産しないほうのセックスパートナーは、出産までの期間をマッサージやクンニを改めて練習する時間にあてるべきで、浮気なんてしてるヒマないんですよ。そういうことを、誰かが男性たちに教えてあげなきゃいけない。そう思って活動しています。だけど私の本を読んでくださっているのも、イベントに来てくださるのは9.8割が女性です

樋口 僕はもともと、北野武監督の初期作品や、プロレス・格闘技が好きな、典型的な中年男子です。書いている小説も男根主義と捉えかねられない、女性が読んだらドン引きするような、「女の敵」そのものを描いています。そんな自分がここまで田房さんにハマってしまった。

田房 光栄すぎます。

樋口 田房さんの本を読むと、女性はみんな、首が折れそうなほど「うんうん、わかる!」と頷くと思います。女性だけでなく、男も読めば目からうろこが100枚ぐらい確実に落ちます。そんな田房さんの作品の面白さを、ぜひ世の男たちにも知ってほしい、というのが今日の狙いの一つです。

田房 私も是非知って欲しいです。私は、男性に対して殺意むき出しの被害妄想ババアだと思われがちなので、そういう面もあるけど、それだけじゃないってことを知っていただけたらうれしいです。

樋口 新刊の『男にしか行けない場所に女が行ってきました』も凄まじかった。いま、僕の中で思い出し笑いしてしまう本のぶっちぎり一位。「あれだけ面白いマンガを描く田房さんが書く文章はさぞかし楽しいだろう」と、期待値マックスで読み始めたら……軽くK点超え……ってすいません。さっきから一方的にまくし立てていますが(笑)。

田房 K点超えましたか……。樋口さんの中のレジェンドになれてうれしいです。

男しか行けない場所に女が行ってきました
「男しか行けない場所に女が行ってきました』(イースト・プレス)
エロ雑誌のライターとして取材した風俗の現場を「女目線」で眺めてみたら、そこには男社会の真実があった。ストリップ劇場、密着型理髪店、おっぱいパブ……そこで働く人々、通う男たちの心を浮き彫りにするコミックエッセイ。

@higu_take 「『男しか行けない場所に女が行ってきました』(田房永子著)読了。圧巻。圧倒。もはや目からウロコでなく眼球ポロリレベル。男たちによる永遠硬直化した世界が、女目線でこうも違って見えるのか。『ママだって、人間』のときも書いたが、学校の教材として真剣に検討すべきではないか。絶対必読。」
@higu_take「全然言い足らねえ。『男しか行けない場所に女が行ってきました』。問題提起というより、有り体なフェミニズムとは完全に一線を画する、もはやひとつの思想本。エロ本編集者あがりで、デリカシー皆無の樋口はまたしても田房永子にヤラれましたよ。完敗。」

樋口 この思いをダイレクトにご本人に伝えたかった。 田房さんのエライところは、ありていなフェミニストや、女性の社会評論家や政治家の視点で話していないこと。「同じ女性の不満を汲み取ります」とか言って、自分が社会的地位を得るために、女性の不満を利用している人が多いけど、田房さんは一人の漫画家として、赤裸々に等身大の自分を切り刻んでいる。
 しかも「笑い」を上手に武器にしている。これは大きい。小説を書いたり読んだりしていてよく思うことですが、人に伝わるには「視点と見せ方」が大切で、田房さんは同世代の女性の中でも群を抜いている。

田房 (照)。

樋口 女性のエッセイストや小説家で、「病気っぽい自分」や、「母親に虐待された被害者の私」を描いている人はたくさんいるけど、どれも似たり寄ったりで、「もうそういう暗い話はいいよ」と正直飽き飽きだった。ところが田房さんはマンガでも文章でも、女性ならではの視点でわかりやすく、ものすごく面白く、しかも深い内容を提示してくれる。
 もちろん田房さんより先に、田房さんのようなことを主張してきた人はいるんですよ。それこそ平塚らいてう(1886−1971)のような。田房さんも「女性革命家」の系譜に連なる人なんです。でもやはり決定的な違いは、文章と、ギャグを基調としたマンガなんです。

田房 そこまでさかのぼっていただいて光栄です。 私は、映画とかテレビのドキュメンタリーとかノンフィクションものが好きで、その感覚でコミックエッセイやコラムを書いているところがあって……。もしかしたらそのあたりを、樋口さんのように感じてくださる方がいらっしゃるのかな、と思います。
「赤裸々」ってよく言われるんですが、自分としては露悪的な気持ちは一切ないんですけど、出来上がって読んでみると、これは読む人によってはビックリされるだろうな、と思う点もありますね。

ある日、突然「発禁」となったブルセラ雑誌

樋口 新刊の『男しか行けない場所に女が行ってきました』のなかで、エロ本のライターをされていたときのエピソードが多数出てきますが、どれも最高ですよね。

田房 樋口さんも以前、エロ本の編集者をされてたんですよね。

樋口 僕は大学を出てから10年ぐらいエロ本編集部で働いていましたから、読みながら当時のことを思い出しました。その頃、社内に女性編集者が何人もいたんですが、彼女たちにひどくデリカシーに欠けた発言をした記憶が蘇ってきて、今頃になって申し訳ないことをしたなと……。
 僕の上司の部長も、いい大学を出て正社員として入社した若い女性編集者に、申し訳なさそうに「うちの会社では、〝まんこ〟とか〝中出し〟とかビジネス用語だから、いちいち気にしないでな」と言っていました。すごくいい人でした。

田房 エロ本で働くと、アナルファックは「AF」とか、「NS流風俗」が「ノー・スキン(NS)風俗」だとか、業界用語をたくさん覚えなきゃいけなかったですから、女だからって上司から「卑猥な言葉を聞かせてごめん、気にしないで」と気遣われるのは、逆の逆で2回転半してセクハラ、みたいな感じがします。そういう意味でやっぱり、女が働くといろいろな“ねじれ”が生じる業界ですよね。 それは、どこの出版社だったんですか?

樋口 コアマガジンという会社です。最初に配属になったのは、いわゆる「ブルセラ雑誌」でした。そこでは入社して半年経った頃に、目の前で僕を面接で採用してくれた編集長が逮捕されて、警官に連行されていくのを目撃しました。

田房 ええ! それは出していた雑誌が原因で、逮捕されたんですか。

樋口 そうです。当時は、小さなタレント事務所に所属する18歳以下の女の子、女子高生に、パンツが見えるような制服や、際どい水着を着せてもオッケーだったんです。
 ところが95年の半ば、ある日突然、警察から「こういう公序良俗に反する本はいかん」というお触れが出て、一斉に禁止になった。エロ本会社では大手のコアマガジンがスケープゴートになり、見せしめとして編集長やカメラマンが逮捕されたんです。

田房 そういう雑誌って、当時はコンビニでも売ってましたよね。

樋口 ええ、うちが出してた雑誌も10万部近く売れていました。みんな忘れていると思いますが、その頃のエロ系雑誌は、そのへんを歩いている素人の女の子のパンチラ写真も掲載可だったんです。うちのエロ本も公園にいる女の子の写真を読者が無断で撮影して、投稿したものに目線を入れて載せていました。いまでは信じられませんが、20世紀までは全エロ本が似たようなことをやっていた。

田房 私は私立の女子校出身ですが、うちの学校の体育祭とか文化祭にも、一眼レフを持ったカメラ小僧とかオッサンたちがやってきて撮ってました。チアガールの発表会で、最前列を陣取ってローアングルで撮るんです。彼らのせいで体育祭は一般客立ち入り禁止、文化祭は知り合いしか入れないチケットシステムになっちゃいました。
 だけど追い払っても、ちゃんとチアガールの大会とかに来るんですよね。それらが「投稿」されて、○○さんの股間が雑誌に載っている、というのが校内でうわさになって、帰り道にあるコンビニでみんなで怒りながらチェックしたりしましたよ。

樋口 『週刊プレイボーイ』でさえ、高校野球の観客席で見つけた可愛い女の子とか、アイドルの登校風景を隠し撮りした写真が、何の問題もなく載っていたご時世です。
 今はもう絶対ダメですよ? 現代の視点からしたら当たり前ですけど。田房さんがエロ本ライターをやっていた頃は、それでもまだ自由な時代の名残があったのではないかと。実際、エロ本も売れてましたし。

田房 エロ本で働いていた頃は、私も仕事をもらって恩恵に預かってましたけど、女子高生だった頃の自分や、娘を持つ母としての自分の視点から考えたら、そういう「自由」はあまり野放しになっているのは困るから、よかったです。こういった話題は、恩恵と疑念でいつも二つに切り裂かれる感じがするっていうか、「女」としての葛藤が常にありますね。


次回「二人の作家を鍛え上げた、エロ雑誌のお仕事」へつづく

待ちきれない人はお二人のインタビュー
樋口毅宏「一盗二卑三妾四妓五妻から始まる物語」
田房永子「これは『ギャグ』じゃない、『ドキュメント』だ!」
そして樋口さんの超濃厚対談
音楽は文学に嫉妬するか—山崎洋一郎×樋口毅宏ガチンコ対談
も併せてお楽しみください!

構成:大越裕


男しか行けない場所に女が行ってきました
『男しか行けない場所に女が行ってきました』田房永子

愛される資格
『愛される資格』樋口毅宏

この連載について

男女のふか〜い溝は埋まるのか?—田房永子×樋口毅宏

田房永子 /樋口毅宏

何を隠そう元エロ本ライターと編集者。「毒母」「出産」「性風俗」とタブーなき爆笑ドキュメントを綴るマンガ家の田房永子さんと作品に感銘を受け、「目からウロコでなく眼球ポロリレベル」と激賞する作家・樋口毅宏さんの対談です。

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eastpress_mag1 第1回はこちらです! 約3年前 replyretweetfavorite

PLUSONEWEST 田房さんは4/25(土)大阪プラスワンに出演! 約3年前 replyretweetfavorite

maco1227 ちなみに私は昨年の今頃から、ろくでなし子さんと田房永子さんのことを「現代の平塚らいてう」って呼んでいました(^○^) 約3年前 replyretweetfavorite

s8tnd cakesの「 約3年前 replyretweetfavorite