福岡よしもと1期生の、驚異の生存率
立川談慶(以下、談慶) いま話してて思い出したんですけど、9年前にMXの楽屋で会ったとき、大吉さんは「同期は生き残ってますよ」と、力強い言葉を残してくれたんですよ。僕も「同期」として見てもらえていたという喜びもあるし、「みんながんばってる」というのが、すごく嬉しかったんですよね。
博多大吉(以下、大吉) 福岡よしもとの1期生※のうち、辞めちゃったのはひらきだけなんです。25~26歳のときに、佐川急便に就職して。たしか結婚を機に、もうちょっとまともな道に……みたいな。
※福岡よしもとの1期生:博多華丸・大吉、立川談慶、カンニング竹山、ケン坊田中、コンバット満、ひらき三振
談慶 たしかに現実を見ちゃうと、不安になりますよね。
大吉 でも、7分の6が生き残ってますからね。驚異の生存率ですよ。たぶん竹山がずば抜けて稼いでるでしょうけど、コンバット満もケン坊も地元でちゃんと仕事持ってるし、ふたりとも結婚して子供もいるし。
談慶 家庭を築けるだけの賃金を稼いでるわけだ。
大吉 みんなバイトしてないですもん。立派ですよ。
談慶 そのうえ大吉さんは、cakesさんで連載まで持たれて。僕も拝読してますけど、すごい文才だと思う。
大吉 ありがとうございます。あれを読まれた方は、みんな必ず「よう覚えてるね、そんな昔のこと」っておっしゃるんですけど、覚えてません? それこそ青木さんも、著書で昔を振り返ってらっしゃるじゃないですか。
談慶 人間の防衛本能として、自分に都合のいい思い出し方をしちゃいません? でも、大吉さんは当時の思い出の中で、落ち込みに落ち込んでるじゃないですか。だから、これだけ繊細な神経を持ち合わせているのに、こうしてお笑い界の第一線にいられるということは、逆にいえば大吉さんはすごく気持ちの強い人だと思ったんですよね。福岡よしもとにいた当時は、そこまでの強さは感じなかったんですよ。むしろセンスで生きてる人だなって。
大吉 たぶん、福岡よしもとの初代所長だった吉田武司さんが、一番驚いてますね。「おまえがこんなんなるとは思わなかった」って。
一方で「俺の目が狂っていたとも思わん」ともおっしゃってましたけど。たしかに自分でも、ようここまでこられたなとは思います。
談慶 僕からしてみれば、大吉さんたちは絶対に売れると思ってましたよ。稽古場でもひしひしと本気が伝わってきましたし、マルコポーロみたいな過酷な現場でもウケちゃうんだから。
大吉 マルコポーロのイベントのときは、お客さんはほぼ僕らの身内でしたからね。彼らからしたら、青木さんひとりだけ知らない人でしたから。それに、漫才とかコントはツッコミも入るし、笑うポイントがわかりやすいじゃないですか。でも、漫談というのは、みんなあんまり見る機会がないから。
談慶 お手本になるような人もいなかったし、自分でも付け焼刃的なネタしか作れなかったら、目先のウケを狙って目立ちそうなことはなんでもやりましたね。苦しかった、ほんとに(笑)。
大吉 しかもまたトップバッターだし(笑)。
談慶 とはいえ、自分はああいう現場ではウケないという現実を突き付けられて、それに納得したから、長距離ランナーになろうと決められたんです。瞬発力じゃ大吉さんたちにかなわないから、細く長く、地道に芸を磨くしかない。もともと、福岡よしもとでの経験は落語家になる前の箔付けみたいな、甘いことを考えてた人間でしたからね。マルコポーロでのたうちまわったおかげで、踏ん切りがついたわけですよ。
僕らは「エンドレス・ロード」を走り続ける
大吉 でも、僕は「ここでウケたからどうなんだ?」っていう気持ちが常にありましたよ。だからこそ、青木さんが東京で談志師匠に弟子入りするって聞いたとき、失礼ですけど、「この人、本気なんだ!」って、ひっくり返りましたよ。青木さんは僕らの姿に「本気」を見てくださいましたけど、その印象をそっくりそのままお返ししたいくらい。
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