イラスト:さんぺい(@k_sanpei)
第4局に登場する村山は、ponanzaとの対戦で、後手番を持つことが決まっている。強敵を相手に、作戦上は主導権を握りにくい後手番、ということで、村山の苦悩は深い。
村山は横歩取りに脈があるかを探った。横歩取りとは、第3回の豊島―YSS戦や、屋敷―ponanza戦で現れた戦形である。
先手が歩を1枚取る実利が優るか、それともその間に多くの手数を指すことができる後手の手得が優るか。これは古くからの一大テーマで、新手法が発見されるたびに結論も揺れるのだが、最近は再び先手よしが定説となってきた。コンピュータ将棋の実戦データでも、先手よしが数字に表れている。
激しい戦いに突入する横歩取りは、できれば避けたい、という開発者もいる。一方で、棋士側が横歩取りに持ち込むためには手順を工夫する場合もある。屋敷がponanzaを相手に横歩取りに誘導した手順は、普段ではあまり見られないものである。
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豊島―YSS戦で現れた変化は、一般的に「YSS新手」と呼ばれる。その一戦は先手番で横歩を取った豊島が研究の手順に持ち込んで、危なげなく完勝したかに見えた。事実、完勝だったのだが、豊島による感想や、後の詳細な検証では、そう簡単に勝ったわけではないことがわかった。むしろその後、危険と見られたYSS新手は成立しているとプロ棋界では結論が変わった。コンピュータが定跡に大きな影響を与えた一例である。
後手番を引いた村山は、第3回バージョンのponanzaを相手にYSS新手を指すと、現在のプロの結論では無理と結論づけられた変化に飛び込んでくることを突き止めていた。百発百中で、そう進む。村山はこの対策をエースと位置づけていた。
しかし新バージョンのponanzaは、もう乗ってこない。「青野流」と呼ばれる実戦例の比較的少なく、簡単にはわるくならない手法を選んでくる。そして数手進むと過去の実戦例からはずれ、まったくの未知の局面となる。
次に有力と考えていたのが、「相横歩取り」である。プロ間ではあまり指されない戦型だ。古くからある指し方で、すぐに終盤に突入する、激しい変化も含んでいる。
この戦型は、アマの間では一定の人気がある。この形のスペシャリストが後手番を持って、普通に指しては勝てない棋力の高い相手に、研究量で圧倒する、ということもしばしばある。
村山はここに脈がないかと試してみた。大味な展開の方が、勝つ確率が高くなりそうだとも思った。人間からすると間違えにくい、手を狭くしていく展開が期待できる。試行錯誤してみると、なかなかやれそうな気もした。
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