第4回】父の苦悩

数々の名優を育て、横尾忠則や篠原勝之といった芸術家とも深く関わった劇団「状況劇場」。現在は「唐組」の座長であり、劇作家・小説家・俳優・演出家……と無数の才能を発揮する巨人・唐十郎。氏の才能は、娘であり女優である大鶴美仁音さんにとってすら「悪魔から授かった能力」に思えたそうです。そんな唐十郎氏にはどんな苦悩があったのでしょうか? 唐十郎氏の新刊『ダイバダッタ』刊行を記念し、大鶴さんが執筆したエッセイ「父のこと」を特別掲載です。

座長としても役者としても、あるいはマスコミにインタビューを受ける劇作家としても、父は自分の立ちふるまいや見え方にとてもこだわった。それは、長年培ってきた唐十郎という看板と芝居に、確固としたプライドを持っているからだ。その気構えをおびやかす最大の敵は、「老い」ではなかったかと私は思う。

母と劇団員は父の身体を心配した。そして、稽古場で、家庭で、父を相手に禁酒紛争が幕を開けた。

父の呑む酒は「いいちこ25。」。はじめはこれを多めの水で割って出す。すぐに文句を言われる。水攻めは効果がないとわかると「いいちこ20。」に替えてみる。酒に精通した父の喉はすぐにこれを見破る。「これ、薄いよ」。いよいよ母と劇団員は、稽古場にあるすべてのアルコール類を捨てる強硬手段に出た。すると今度は、戦場を稽古場から家に移し、焼酎サバイバル合戦がくり広げられた。

父は自分でこっそり焼酎を買って隠し持とうとする。対する母と私、弟・佐助の連合軍は隠された焼酎を目ざとく発見し、おたがい報告に当たる。その隠し場所というのも、愛用の鞄からコタツのなかまで神出鬼没、母は呆れかえり、どう禁酒させたらいいのか、とうとう頭を抱えてしまった。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
ダイバダッタ

唐十郎

死こそ妄想――唐十郎、6年ぶりの新刊! 単行本未収録小説・随筆集、6年ぶりに刊行決定! 唐十郎の“いま”を伝える、一人娘で女優・大鶴美仁音の跋「父のこと」収録。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません