編集者が会いたくなる人、会いたくなくなる人

社会評論社で次々と珍書をプロデュースして世間の話題をさらい、さらには書店のフェアやイベントなども仕掛けている編集者・ハマザキカクさん。そのハマザキさんが、著者として会いたくなるようなタイプとそうでないタイプについて分析してみました。この分析、出版界以外でも通じそう!?

社会評論社に入社した際、社長から「編集者はどんな人とも会えるんだぞ」と言われ、「いや別に誰とも会いたくないんだけど……」と思ったぐらい、人付き合いが苦手な編集者ハマザキカクです。

しかも私が手掛けている企画はいずれも「珍書」なので、著者候補がそれなりに「珍人物」の比率が高く、対応に苦慮する事も多いです。その一方で自分自身もマニアック気質なので、そうした別ジャンルのマニアとも、根底で相通じるものを感じ、意気投合する事もよくあります。

そこで私が今まで出版の企画の打ち合わせで出会ってきた「もうこんな人とは会いたくない」という人、一方で会う前までは警戒していたけど会った後、「この人とはうまくやっていけそうだな」と思った人、その特徴をある程度類型化し、読者の皆さんにご紹介しようと思います。

いつか本を出版したいと思っている読者の方々もいらっしゃると思いますので、編集者に「好かれる人」「嫌われる人」の一定の目安にはなるかもしれません。編集者に好かれれば全てうまくいくというわけでもなく、あくまでもハマザキカク個人の感受性に基づいた好悪感情ですが、参考にして頂ければ幸いです。また本を出す気はない方でも、自身の業界に置き換えると、思い当たるパターンもあるかもしれません。

一回目の打診に対して返事が事務的な人

編集者は本の執筆をお願いするまで、著者候補となる人のブログや刊行物、Twitter、論文などありとあらゆる文章に目を通し、関連書籍や先行文献も読み、数時間掛けて意気込んで、打診のメールを送ります。その時は編集者も第一印象を極力良い物にするべく、かなり真剣勝負です。著者とのやり取りで、最も力が入る時は実は執筆依頼の時です。そんな真心と誠意を込めて書いた十数行、場合によっては数十行にわたるファーストコンタクトに返ってきた返事が、「下記の件了解です。いついつ空いてます。要件のみでスミマセン」のような、事務的な素っ気ないものだと、その時点で脱力感に襲われ、会う気がなくなります。

携帯電話の番号を教えてくれない人

これから著者になる方と初の顔合わせをする際、打ち合わせの場所と日時を指定します。その時、万が一の為に、必ず私の携帯電話の番号を事前にメールでお伝えしていますが、その一方で絶対に自身の番号を教えてくれない方が結構います。携帯電話の番号はある程度、個人情報として伝えるのに躊躇するのも分からないでもありません。

しかし編集者が急に具合が悪くなったり、何かの事情で間に合わなくなっても、その方に連絡を取る手段がありません。編集者と出版の打ち合わせをする時でも、これほどの警戒心を抱かれるのであれば、その後のやり取りも苦労する事が予想され、その時点でかなりテンションは下がります。

顔合わせの後に予定を入れている人

「どうかこの人に本を書いて貰いたい」とメールで熱心に口説いた後、初の顔会わせの約束をする際に「○日は○時まで可能です。○日は○時まで○にいるので来て下さい」と場所と制限時間を指定される事がたまにあります。しかもそのそういう人に限って大抵、打ち合わせの為に設けてくれる時間が一、二時間など、かなりの短時間。本を執筆するのは数ヶ月どころか、数年もかかる程の、一世一代のプロジェクトと言っても過言ではありません。顔合わせが一、二時間で終わる事はあまりないのです。その顔会わせの時間配分をその程度まで短く見積もっている時点で、スケジュール配分がきちんと出来ない人なのではないかと不安が過ぎります。

さらにその後に予定を入れているというのは、出版の優先順位が低いのかと残念な気持ちになります。もちろん人それぞれ都合や事情があるとは思います。ただ初回の顔合わせがうまくいく時は話が盛り上がって、そのまま飲みに行くというパターンが非常に多いです。そしてそこで更に親睦を深め、モーティべーションや信頼関係を育んでからプロジェクト発動という流れが多いので、顔会わせの後の予定は可能な限り、入れない方が良いと思います。

名刺をくれない人

打ち合わせの際、最初に名刺を渡すのは社会的には常識だと思いますが、ごく稀に「名刺を切らした」というだけでなく、そもそも名刺自体持ち合わせておらず、編集者の名刺をただ一方的に受け取るだけの人がいます。もちろん出版のテーマが本職とは無関係の際は、本職の名刺を頂く必要まではありませんが、その後、ゲラのやり取りや本の送付をするので、送り先を知る必要があります。本を出すからには最終的には、住所や電話番号を編集者に伝える必要があるので、名刺をお持ちであれば最初から名刺は渡しておいた方が良いと思います。

ハンドルネームで押し通す人

個人的な見解では本はペンネームではなく、実名で出すべきだと思いますが、その前の顔会わせの段階でさえも、ネットのハンドルネームのような「○○大佐です」とか「○○タンです」など、おちゃらけ風の名前で名乗る人がいます。決して本名は名乗りません。イラっとくる瞬間です。そして「この先やっていけるかな……」と不安になる瞬間でもあります。どうせ印税払う時に口座名で本名バレるのに……。

担当編集者や出版社の刊行物を何も知らない人

編集者がある人に本を書いて貰う事をお願いするからには、その方のブログや既に書かれている資料など、ありとあらゆる物を事前に読んで熟知しておく必要があるのは言うまでもありません。その一方で、著者が編集者が所属する出版社の事を何も知らない、全く興味もなさそう、という事もよくあります。

まず相手の出版社、特に編集者が携わった本を知っておく事によって、これから著者自身もどういう事を体験していく事となるのか、ある程度見通しも付きます。本は著者と編集者のコンビネーションで練り上げられていく物と言ってもよく、著者が編集者やその出版社に全く無関心となると、編集者も人間ですのでテンションは下がります……。逆に編集者が手掛けた本や、その出版社の事を相当調べ上げて、色々と質問をしてくれる方は「いい人だな」と好感情を抱き、やる気も高まります。

複数の出版社から引っ張りだこの人

編集者にもよると思いますが、埋もれた才能を見出し、世に送り出す事にやり甲斐を感じている編集者の場合、著者が既に有名だったり、実績があるというだけで返って敬遠してしまうという事もよくあります。私個人は既に本を出した事がある人に執筆をお願いする事はほとんどなく、担当した著者の9割が処女作を私が編集者として出しています。

打ち合わせの時点で実は色んな出版社から声が掛かっていたり、既に企画を幾つも同時進行で進めているという事が分かった場合、自分が編集者として携わる企画は相当待たなければならず、またデビュー作として世に送り出すという喜びも味わえない為、私の場合はその時点で、断念するなり、他の人で同じ企画を書ける人を新たに探す事が多いです。

もちろんこうしたケースの場合、実際に人気があって多忙な人が悪いわけではありませんが、大した事でない事まで持ち出し、「あれもやってる、これもやってる」とアピールすると逆効果で、編集者の方が熱が冷めてしまうという事は、知っておいても損ではないかもしれません。もちろん逆に有名人で大人気だからこそ、何としてでもその人に書いて貰いたいという気質の編集者もいるので、これに関しては一概には言えません。

TwitterやFacebookなどSNSに拒絶反応を示す人

私自身もSNS後発組なのであまり強くは言えませんが、もはや情報発信や情報収集、連絡手段としてインフラとなったこれらのツールを使う事を頑なに拒む人がいます。30代以上の方の間ではこうしたSNSに軽薄さを感じたり、軽いやり取りに嫌悪感を抱く方もいます。しかし本が出た後、著者のツイートによる告知や宣伝で、本の売上げや話題力に圧倒的な差が発生します。また本を出版するのは印税目当てというよりは、著者が所属する業界で名前が知れ渡る切っ掛けとなる、名刺代わりになるようなものです。

本を刊行した後、特にTwitterを駆使すれば、相乗効果であっという間にその業界では時の人になれる可能性が高くなります。また著者がその本のテーマの第一人者と目され、その業界の有力者の知遇を得たり、また何か別の依頼に繋がったりしているのを、編集者として目の当たりにしています。一方、Twitterをやっていない人の場合、話題を提供する事も出来ず、読者の疑問や批評に対応する事も出来ず、自著の評判をエゴサーチで知るのも大変で、時と共に忘れ去られ、本を出した喜びの半分も味わえないと言っても過言ではありません。

そもそも今の時代、たとえば雑誌や大学の紀要に発表された論文で、編集者に一本釣りされるという事はほぼ有り得ず、日々、ブログやTwitterなどで編集者の目に留まるネタを発信し続けてきたからこそ出版の依頼が来るわけで、本を出してからSNSを始めるというのは、順番が逆のようにも思えます。ネタを出し惜しみせず、出版に至る前から編集者の目に留まるよう、情報発信している人はスタート地点で有利だと思います。


以上、今回の記事ではほとんど編集者が「会いたくなる人」ではなく、「会いたくなくなる人」の愚痴みたいなものになってしまいましたが、これから編集者と会う人にとっての注意書き・ガイドラインとして参考にして頂ければ幸いです。編集者も人間です。

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