目指すは羽生名人? 進化し続けるコンピュータと開発者の挑戦

人間とコンピュータ将棋ソフトが五番勝負で対局する将棋電王戦FINALは、第1局、第2局と人間が勝利をおさめるという結果になりました。「もうソフトには勝てないのでは……」という悲観的な予想を裏切り、対コンピュータ戦略を身につけた人間の猛反撃が始まっています。そんな、プロ棋士とコンピュータ将棋の戦いを追った『ドキュメントコンピュータ将棋』の著者である松本博文さんは、「将棋ソフトがベテランの大名人のような指し方をするようになってきた」と言います。これまで考えられていたのとは違う、コンピュータの強さとはいったいどういうものなのでしょうか。

コンピュータの強さは、勘違いされていた

松本博文(以下、松本) 将棋の対局は、序盤・中盤・終盤※1の3つに分けられますよね。将棋ソフトはどの段階が強いと思いますか?
※1 序盤は、取られたらゲーム終了という駒“王将(玉)”を他の駒で守ったり(囲い)、攻める準備をしたりする段階。通常、双方が駒を前に進めて、相手側の駒とぶつかるところまでが序盤と言われる。中盤は、駒を取り合い、敵陣に切り込んで相手の囲い崩す段階。終盤は、相手の玉を詰ませにいく(詰み:どのように応対しても回避できず、次の手で玉が取られてしまう状態)段階。

加藤貞顕(以下、加藤) コンピュータは計算力があるから、読みきれる局面になる終盤が強いと言われていますよね。あとはデータベースを生かして序盤ですかね?

松本 そう、昔はコンピュータって、序盤は定跡のデータベースがあるし、終盤は詰将棋を正確に解けるので、序盤と終盤が強いと思われていたんです。でもいまは、人間と比較すると、中盤が強いことがわかってきました。

加藤 それはおもしろいですね。たしかに、将棋電王戦第2回の五番勝負で唯一勝ちを手にした阿部光瑠さん、第3回において同じく唯一勝った豊島将之さんも、中盤を飛ばして序盤からいきなり終盤になるような指し方をしていました。

松本 コンピュータに勝つためには、序盤で差をつけて、中盤を飛ばして、一気に終盤に持ち込むことが必要だと主張するプロ棋士が増えてきたんです。あとおもしろいのが、終盤というか、終盤のほんの少し前の局面で、コンピュータが勘違いをしていて、人間のほうが正しい手を読んでいることがあります。

加藤 だからなのかな、対コンピュータ戦で人間が勝つときは、あっさり勝ったように見えますよね。

松本 そう。コンピュータって負けるときはものすごく弱く見えるんです。力を出させない展開にすると勝ちやすい。

加藤 逆に言うと、力を出させてしまうと……。

松本 もうダメですね。一般に、名局と言われる将棋は、どちらが勝つかわからないままねじり合いが続き、最後にドラマチックな展開が起きるものですが、そういう勝負になると、だいたい人間が競り負けてしまうんです。

加藤 また、『ドキュメント コンピュータ将棋』に、コンピュータ同士だと振り飛車※2は指さないけれど、対人間だと振り飛車を指すようにプログラマが設定しているという話も載っていました。それは、中盤を飛ばされてすぐ終盤に持ち込まれる展開を避けたいからだと。
※2 飛車という駒を、初期の位置から移動させて戦う戦法

松本 そうなんです。じつは、ソフト同士の多くの対戦データから、振り飛車は居飛車に対して勝率がよくないという事実が明らかになったんですね。

加藤 これもけっこう驚きの結果ですよね。だって、振り飛車はプロ同士の対局でもよく指されているじゃないですか。

松本 いやあ、ショックですよ。振り飛車はアマチュアでは圧倒的に人気のある戦法で、プロにも振り飛車党はいますからね。でも同じ実力のソフト同士だと、振り飛車を指したほうが負けるということがわかってしまって、もうソフト同士では振り飛車を指さないようにプログラムしてるんです。それなのに、人間に対しては振り飛車を指してくる。それは対人間だと、中盤が長くなる振り飛車のほうが有利だと、プログラマの側が認識してるからです。

加藤 振り飛車は、序盤で大差を付けられにくいですからね。

天才? 変人? 将棋ソフト開発者の魅力
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ドキュメント コンピュータ将棋』松本博文インタビュー

松本博文

3月14日に開幕した、プロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが五番勝負で対局する将棋電王戦。第1局の斎藤慎太郎五段 対Apery(将棋ソフト)の対戦は、斎藤五段が勝利をおさめました。幸先の良いスタートに、今回はプロ棋士側が勝ち越せるのではな...もっと読む

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コメント

amisakana 相変わらず将棋はわからないけどこの界隈のお話はすごくワクワクさせる何かがあります。 4年弱前 replyretweetfavorite