庄司薫は中村紘子『ピアニストという蛮族がいる』の中で再生した 前編

今回のfinalventさんの書評は、日本を代表するピアニスト・中村紘子が綴ったエッセイ『ピアニストという蛮族がいる』を取り上げます。「蛮族」と呼ぶにふさわしい、極端で、奇妙で、そして天才的なピアニストたちを描いた一冊。内容はもちろん、中村紘子の書く軽妙な文体が読者の心を鷲掴みにする本書ですが、そこにfinalventさんは、中村紘子と結婚した頃に断筆した作家・庄司薫の存在を見出します。

なぜ本書は人々の心を惹きつけるのか

 クラッシック音楽に興味がある人なら誰でも、中村紘子の『ピアニストという蛮族がいる』は楽しいエッセイ集だろう。軽妙な達文で書かれている。話題も興味深くそして愉快である。クラッシック音楽というと、お高くとまっているかのように思うむきもあるが、本書には表題にあるようにまさに「蛮族」と呼ぶにふさわしいピアニストが次々と登場する。漫画『のだめカンタービレ』の主人公・野田恵をそこに並べても違和感はない。むしろ「のだめ」というキャラクター設定には、本書の影響があるだろう。


ピアニストという蛮族がいる(中公文庫)

 まず面白い。「蛮族」のキーワードが選ばれた時点でそう約束されていたようにも思える。しかも改めて言うまでもなく、中村紘子は日本を代表するピアニストである。古今東西のピアニストについても、その内面から語ることができる人である。

 それでも、と思う。面白いには面白いが、この本が読み継がれ、人々の心を惹きつけてやまないのは、達文だからというだけでも、ピアニストという変わった人々の話題性だけからだけではないだろう。文章がうまく、クラッシック音楽の裏話に精通した人なら、同書のようなエッセイは書けるかもしれない。ふと音楽批評家の石井宏の名前が思い浮かぶ。定評ある音楽批評家・吉田秀和も思い浮かぶ。だが本書には、ある種奇妙とも言える魅力があり、そこが中村紘子というピアニストの人間性に拠っている。あるいは、彼女を通して、日本人の戦後の歴史の妖しさが見えてくるからかもしれない。

中村紘子、作家・庄司薫との出会い
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