自分が何者かだと錯覚してしまう」のがSNSの最大の罠

元幻冬舎社員による見城徹社長の直撃インタビュー最終回。多くの人がSNSを使う時代ですが、見城さんが半年以上も毎日、755で無名のユーザーと向き合ってみて痛感したことがあるそうです。「対等に切り結ぶ」ことを信条とする見城さんが、辛かったこととは?
発売初週で早くも3刷! 好評発売中の新刊『たった一人の熱狂―仕事と人生に効く51の言葉―』を切り口に、見城さんの圧倒的な生き様に迫ります。

SNSの落とし穴

— 見城さんは、あまり「クリエイター」とか「クリエイティヴ」って言葉を使わないように思います。

見城徹(以下、見城) クリエイターとかクリエイティブ? あまり好きな言葉ではない。ただ何かを作る人、というだけで、全体を表した言葉ではないと思う。自分でクリエイターです、と言えばクリエイターになってしまう。「クリエイター」は、単なる言葉というだけで、悪いとは思っていないけど、俺のなかでは薄っぺらい。
 俺は表現者というのは、もっとその人の七転八倒する生き方が、何を表すのかというような意味だと思っている。

— なるほど。SNS上には、クリエイターがあふれています。

見城 今回、755をやってみてわかったのは、「自分が何者かだと錯覚する」のがSNSの最大の落とし穴ということ。

— どういうことでしょう。

見城 ネット上で少しは名前が知られるようになっていって、自分は何者かであるという錯覚が起こるわけです。匿名の人たちは、そこがアイデンティティになっていく。

— フォロワーができたり、有名人と話せたり。

見城 そう。そういうことで自分が何者かだと勘違いしてしまう。特別扱いをされるべきだと思ってしまう。人間は悲しいかな、自分は何者かであると思った瞬間、幸福になるんです。自己承認欲求が満たされるんですよ。悪いことだけではないと思うけど、それは依存性が高い。

— きっと勘違いが傲慢に変わる瞬間があるんですよね。

見城 そうなんだよ。勘違いが傲慢に変わる瞬間があるんだ。勘違いのままだったらそのままでいい。

— 最初、単に喜んでいたことが、徐々にそのポジションが当然のものだと勘違いするうちに傲慢になって、でもそこに実態がないから、それを脅かされるのがとても恐くて攻撃的になったりする。

見城 僕は755をやっていて、そのことについては、ほとほと痛かった。それは一番感じたこと。

— 痛い、ですか?

見城 俺はね、755の中で、真剣に無名の人たちと関わったし、ないがしろにしなかったし、彼らから本気で学ぼう、刺激を受けようと思った。
 できれば実名のほうがいいですよ、それは自分の発言に責任を持つということですよ。ただ、それでも事情がみんなあるわけだから、難しい人は匿名でもいいですよと言って。
 中には、不愉快なこともあったし、心痛めたこともあったし、誰かの心を傷つけたかもしれないし、いろいろありますよ。

— 見城さん自身も、若者ばかりの新しいプラットフォームの上では、「幻冬舎社長・見城徹」どころか「幻冬舎」のことをあまり知らない人もいて、アウェーだったわけですよね。

見城 そうです。僕は無名の人が一番尊いと思ってるんです。ほとんど目立つことなく目立とうとせず、自分の運命を黙々と引き受けて誠実に生きる普通の人たちが、歴史を、今の日本を作ってきている。それは当然のことですよね。

— はい。

見城 歴史は、偉い政治家が作ったわけではない、名を残した経営者が作ったわけでもないんです。だけど、その普通の人々が、突然、自分が特別な存在だと思う瞬間がSNSではあるんです。それに対してどれだけ寄り添おうと思っても心に寄り添えないときがあった。

— 「心に寄り添えない」ですか。

見城 そう、一番この言葉が正しいな。心に寄り添えなかった。あまりにも勘違いが激しくて、寄り添おうと思っても、寄り添えない。そのときに一番やるせなさを感じるよね。

— 真摯に通じ合おうと思っていたのに。

見城 勘違いした人は、ぱっと自分が何者かになったと思っちゃう。本当はいっぱい何かを失って、傷だらけになって血を流して、やっと1つの位置を獲得するわけですよ。
 そこを全部無視して、彼らは言葉だけの架空のやりとりで、何者かになったと勘違いする。

— はい。

見城 もちろん、それはそれでいい。その人たちにそういう瞬間がくること自体は、悪くないと思う。でも、そういう風に自己錯覚をしてしまう人には、最後までは寄り添えなかったりする。それが辛かった。

対等に切り結ぶのが生き方

— 見知らぬ人たちが集うSNSで、本来寄り添う必要がないところを、ずっと伴走しているようにやってきたんですね。

見城 うぬぼれて言わせていただければ、755のオフィシャル(アカウント)の中で、俺ぐらい一般の人と対等に切り結んだ人はいないよ。切り結ぶのは俺の生き方だからね。高校生だろうと大会社の社長だろうと、俺にとっては対等なんだよ。

— それはわたしが幻冬舎社内にいたときも感じました。接する機会はそう多くはありませんでしたが、さまざまな会議で叱咤激励する際にいただいた言葉は、いつもひとごとではなく、サシで問いかけている言葉の連続だったように思います。

見城 ありがとう。俺は君に対してだって、タイマンだと思っていたよ。

— 出版社という組織の長として、編集者全員に、見城さんは常にタイマンを張ってきたんですね。

見城 それをやってきたつもりです。

— 今、幻冬舎の外に出てみて、いろいろな版元の方と会うと、元幻冬舎っていう方がいっぱいいらっしゃって。みなさんご活躍されています。

見城 どこへ行っても、幻冬舎にいたっていうと入れるんだよ。

— ただ、僕が辞めて2年ほどですが、その間、契約社員も含めて何人かの人が、辞めました。

見城 申し訳ないけど、みんなこちらから辞めてもらっているんだよ。何年いてもこの会社には不適だなと思ったら。判断は早いほうがいいでしょ。

— 見城さんはどういう思いでご決断をされているんでしょうか。心痛めずにということではないですよね。

見城 全然ないよ。ただね、努力して悩み苦しみ抜いて結果が出ないのはいいんだ。自分が結果が出ないのはダメだけど、部下はね。
 ただ時間量だけ会社で働いているっていうのは、努力の質が違うんだ。そういう人はうちにいてもしょうがない。

— 結果に結びつかないということですか?

見城 やっぱり気持ちの上で胡座をかいて、楽をしている人が出てきてしまうんですよ。ある程度の楽をするのはいいよ。結果が出ているのなら楽もすればいい。
「結果が出てて、楽をする」か「結果が出てても、楽をしない」か「一生懸命やっていて結果が出ない」人には残って欲しいですよ。でも「楽をしてて、結果の出ない人」はいらないんです。

— 本の中でも、ご家族について書かれたところで、「自分がリスクを負って闘い続けられるよう、できるだけ守るものを少なくしてきた」とありました。それは幻冬舎っていう組織のなかでも、同じように闘う人は傍にいられるけど、同じ闘いかたをできない人は傍にいれないということでしょうか。

見城 そうなんだろうな、それが俺の欠陥だろうな。

文学とビジネスの本質

— 幻冬舎って、会社のそばの案内の看板に、「文芸出版社 幻冬舎」って書いてありますよね。

見城 ああ。

— ホームページにも「文芸書を中心に—」と書いてあります。

見城 そうだね。

— 見城さんは、「金こそ全てだ」っていいながら、本だけでは売れないから経営を多角化したりして、さまざまなビジネスを手がけています。
 その一方で、「この世界で、なぜ生きるのか?」っていう文学を、今も問い続けている。つまり、自分の聖地を守ろうと闘っているのでしょうか。

見城 そうです。よく解っていただいて。共産主義の世界で生きているのではなく、この世界で生きているんだから、やっぱりビジネスの結果は片手に持っていなければダメです。
 それともうひとつの手で、自分の生き方とか、純粋さを突き詰めるのを頑張ればいいと常に思っています。

— はい。

見城 だから、「純文学が善」だとか「アカデミックな本が善」だとか、そういうのは全くの間違いなんだよ。そんな人、少なくなったけど(笑)。

— わたしが見城さんに叱られたことで、よく覚えていることがあります。
 たぶん日本で一番有名な文学賞のひとつを、僕がたまたま担当させてもらっていた作家さんが受賞されたんです。その作家さんは、当時、実売部数がそこまで大きくはない作家さんだったんですよね。 そしたら見城さんが、「おまえ、なんでそんな作家をやろうとしてるんだ」って怒ったんです。覚えてますか?

見城 ああ、言ったね! 覚えてるよ(笑)。確か「芥川賞をとったって売れないものは売れないだろ! どうしてお前は芥川賞に幻想を抱いてるんだ! 他に誰をやってるんだ」と。

— そうですそうです。「俺が中上健次を担当したときは、五木寛之をやって、村上龍をやって、森村誠一をやって……、右手で稼いで、その左手で中上健次を守ってたんだ! お前は何やってんだ!」って……。

見城 でも、いいんだよ。その作家に熱狂しているんだったら。でも、やるからには、圧倒的努力をして、圧倒的結果をつくらないと。その目論見もないのにやっちゃダメなんだよ。

— はい。

見城 たとえば、僕は浅田彰や中沢新一に、ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」みたいな本を書かせたかった。まあ彼らには言ってみたけど、書かなかったけれども。
 だれでもいいですよ。売れてない文学者、アカデミシャンに、もっと売れる作品を書かせたい。テレビのコメンテーターを副業にするんじゃなくって、もっと出版っていう彼らの生業のなかで、しっかりとビジネスになるものを書いてもらって、世に問いたい。
 優れた作品とビジネスは両立するんです。そういうことができてこそ、たった一人の熱狂は、昇華されるんです。


(おわり)

構成:中島洋一


【cakesでも特別掲載中!】
発売即、重版決定! 数々の伝説的ベストセラーを生み出してきた幻冬舎代表取締役社長・見城徹さん。圧倒的結果を出すための仕事論、ブレずに生き切るための人生論を51の言葉にした著書が好評発売中!

たった一人の熱狂-仕事と人生に効く51の言葉-
たった一人の熱狂-仕事と人生に効く51の言葉-

この連載について

初回を読む
人生は「憂鬱」と「熱狂」でできている—幻冬舎社長・見城徹インタビュー

見城徹

幻冬舎の代表取締役社長であり、数々のベストセラーを生み出してきた編集者でもある見城徹さん。そんな伝説的人物に、なんと元幻冬舎社員が直撃インタビュー! トークアプリ「755」への投稿をもとに作られた『たった一人の熱狂―仕事と人生に効く5...もっと読む

関連記事

関連キーワード

コメント

teruyakinist 仰る通りです。。 8ヶ月前 replyretweetfavorite

NGVOX https://t.co/C4yvzfrn1d 2年以上前 replyretweetfavorite

tsuyo_shimo 勘違いが傲慢に変わる瞬間があるそうな https://t.co/MR2ejGDTuV 2年以上前 replyretweetfavorite

kuma365day 共産主義の世界で生きているのではなく、この世界で生きているんだから、やっぱりビジネスの結果は片手に持っていなければダメです。 それともうひとつの手で、自分の生き方とか、純粋さを突き詰めるのを頑張ればいいと… https://t.co/0bb3naDj7h 3年弱前 replyretweetfavorite