虎よ、虎よ(Tiger! Tiger! 1956)
中田耕治訳/邦訳刊行2008年(旧版1978年)/ハヤカワ文庫SF
この表紙の人が、虎。
とにかく、ずっと怒っている。
後に「虎」と呼ばれる本作主人公、ガリーことガリヴァー・フォイル。「肉体的に強壮、知力は野心を欠くために未発達」で技能も長所もない三等機関士は、ある理由で宇宙を漂流していた。
時は二十五世紀。瞬間移動「ジョウント」が開発され、宇宙空間以外はどこでもテレポートできる(移動距離の上限は千マイル)。
自分の行き先と目的地を正確に把握し、精神を集中させる。そのジョウント能力には個人差があり、ジョウントできない者は劣悪な労働環境に甘んじるしかない。
暴動、革命、戦争勃発。世界に暴力があふれていた。
そんな時代にフォイルは怒り狂っていた。彼が乗っていた宇宙船《ノーマッド》は敵の宇宙船に攻撃され、150日間、ひとり漂流していた。そのとき、同じプレスタイン財閥所属の宇宙船《ヴォーガ》が近くを通った。だが《ヴォーガ》は彼の送った救助信号を無視して、そのまま通り過ぎた。その船を彼は激しく憎んだ。憤怒が彼を変えた。
なんとか漂流の流れを変え、辿り着いたのは火星と木星の間の小惑星帯。そこに済む野蛮民族に拿捕された。彼らは2世紀前に遭難した科学調査団一行の子孫で、独自の文化を築き上げ、科学人を自称していた。
顔全体に、ニュージーランドのマオリ族のような刺青を施されるフォイル。そこから逃げ出し、やっと味方に救助され、地球へ戻った。おそろしい自身の顔を見て苦悩の叫びを上げる。「虎」が誕生した。
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