第89回】窒息寸前のギリシャの要求に憤慨するドイツ---大国の都合で脚色される事実について

ドイツのシュトゥットガルトに在中の川口マーン惠美さんが、EUから見た日本や世界をテーマにお届けするコラムです。


〔PHOTO〕gettyimages

極端な金融緊縮政策は完全に間違っていた

2月の終わり、ギリシャが経済援助を延長してもらうため、EU委員会、IMF、欧州中央銀行(ECB)の3者を相手に派手な立ち回り(?)を演じた のは、まだ私たちの記憶に新しい。破産寸前のこの国は、援助はもちろん必要だが、EUから押し付けられる金融緊縮政策からは脱却したがっている。

これまですでに4年間、EUとIMFと欧州中央銀行はギリシャに極端な緊縮財政を強いて、公営企業を民政化し、年金を下げ、社会保障を切り捨て、医 療保険制度を干上がらせ、公務員のリストラを断行させてきた。その結果、国民は困窮し、景気回復どころか、今では窒息寸前にまでに追いつめられている。つ まり、常識で考えるなら、この政策は完全に間違っていたのである。

だからこそ、チプラス首相は選挙の公約で、「もう他国の支配は受けない、緊縮財政とは縁を切る」と、国民に約束していた。せっかくの援助が国民のも とに届いていないからだ。ほとんどが借金を抱えた銀行を救済するために使われており、そのお金はそのまま外国の銀行に吸い上げられるという仕組みだった。

チプラス首相にしてみれば、援助のお金は、危ない取引に手を染めた銀行などではなく、国民を救うために使いたい。もちろんそのためには構造改革もし よう。ただ、それには、負債の免除、あるいは、軽減がぜひとも必要だ。ところが、いくらチプラス首相やヴァロファキス財相がそれを懇願しても、EUの面々 は断固としてはねのけた。

特に、一番厳しかったのがドイツのショイプレ財相だ。彼の言い分は、「宿題をやらなければ金はやらない」の一言に尽きる。結局、再び過酷な金融引き締めが繰り返されることになった。破産が目の前に迫っているギリシャに他の選択肢はなかったのだ。

恨みや憎しみからドイツ攻撃を続けるギリシャ

さて、その援助を受け取るためには、ギリシャは金融引き締めの具体的な計画書を提出し、それが認められなければならない。ところが、この作業がなか なか進まない。彼らは納得していないのだ。そして今、EUの財務大臣たちは極度にいらつき始めている。ギリシャが倒産して困るのは、お互い様なのだ。

ギリシャが一番の目の敵にしているのはドイツだ。彼らのドイツ攻撃を見ていると、ドイツ嫌いは今始まったことではなく、恨みとか憎しみが、以前から ずっと潜在的にあったのではないかと思えてくる。ドイツのショイプレ財相は、先週はまだギリシャに理解を示していたが、今週は堪忍袋の緒が切れたようだ。 彼があそこまで怒って、声を荒げている姿は初めて見た。シュタインマイヤー外相も、「ギリシャは、ドイツを攻撃するのをいい加減にやめるべきだ」と手厳し い。いずれにしても、ショイプレ財相が目下のところ、ギリシャ人1000万人の憎しみを一手に引き受けているような状態になっている。

シュタインマイヤー外相の言い分が正しいかどうかはさておくとしても、それを見ながら私は、日本の政治家も、中国、韓国からの理不尽な攻撃に対しては、初期のうちに、あのように明確に反省を促しておくべきだったのではないかと強く感じた。

現在、ギリシャは確かにドイツを怒らせるようなことを次々と言っている。たとえば、3月9日、ギリシャの内務大臣が、ギリシャに滞在している難民をドイツに送ると言い出した。EUでは、難民の保護は、難民が最初に辿り着いた国の義務と決められている。

だから、ここ数年、イタリアに流れ着くシリアやソマリアの難民が問題になっていたが、ギリシャもそういう意味では難民が辿り着きやすい。地中海から も入れるし、トルコ経由で陸路からも忍び込める。ギリシャ政府が、増えすぎた難民の保護でお手上げ状態なのは周知の事実だ。そこでギリシャの内相は、「お 金がない。だから、まず30万人の難民をドイツへ送り出す」と脅したわけだ。ドイツの内務大臣はカンカンだ。

確かに、ドイツのようにEUの中心部にある国は、難民問題では得をしていることは否めない。そのためギリシャは、EUの難民法を変えろと言っている が、そう簡単にはいかない。ドイツ国民は呆れかえり、EU委員会はギリシャに、財政援助の問題と難民問題を混同しないよう忠告した。

まだある。ギリシャは、第二次世界大戦中のドイツの戦争犯罪に対して、戦時賠償を請求しようとしているようだ。請求額は、2,690億ユーロと 3,320億ユーロのあいだになるという。それだけではない。先月から大きな話題になっているのは、ドイツがギリシャを占領していた間に、ギリシャから強 制的に引き出した融資の問題。当時、ナチスドイツは、それを戦後返すと約束したが、返していない。その金額が、少なくとも110億ユーロになるという。

ドイツ政府は、これまでイスラエル以外の国に戦時賠償はしていない。イスラエルへのものはいわゆる戦争犯罪に対する賠償ではなく、ユダヤ人虐殺、つまりニュルンベルク軍事裁判で「人道への罪」とされたジェノサイドに対する賠償だ。

ドイツが、戦時中の出来事に対して賠償金を払えと言われている状況は、日本の場合と同じだ。ただ、決定的に違うのは、ギリシャが問題にしているドイ ツの戦争犯罪は本当に起こったことで、たとえば1944年夏には、SS(親衛隊)の選抜戦車師団が、ギリシャ中部のディストモという町で、ゲリラ攻撃に対 する報復として、赤ん坊や老人を含めた218人の町民を殺した。これは証拠もあるし、生き残りもいるし、ドイツ人も認めている。ギリシャ国内で裁判が行わ れ、ドイツに賠償金の支払いを命じる判決も出たが、ドイツ政府は国際裁判所に提訴し、それを覆したという経緯がある。

メディアの力は限りなく大きい

一方、日本が責められている「慰安婦強制連行」は作り話だった。それは作った本人、朝日新聞が認めている。売春をした女性はいたが、日本軍が強制的 に捕まえてきて「性奴隷」としてこき使ったという事実はない。しかも、日本と韓国の補償問題は、1965年の条約と協定で終わっている。

〈 日韓基本条約によって、日本は無償3億ドル、有償2億ドルを韓国 に払った。1965年当時の日本の外貨準備高はわずか18億ドルだったため、日本にとって5億ドルは容易に払える金額ではなく、1966年から75年まで 10年分割で支払った。生産財に投資すれば国民全員のためになるという考え方から、これを国家建設に使う方針が打ち出され、この資金で韓国政府は、ダムを つくり、道路をつくるなどした。韓国政府の計算によると、この日本からの資金の1966年から75年の韓国の経済成長寄与率は年平均19.3%にも及んで いる。戦後の世界で多くの開発途上国が先進国から経済援助などの形で多額の資金を導入したが、韓国の朴正煕政権ほど効率的に資金を経済成長に活用した例は少ない。 〉(西岡力『よく分かる慰安婦問題』)

この朴正煕が、現在の韓国大統領の父親である。

これにより韓国は「漢口の奇跡」と呼ばれる発展を果たしたが、個人補償は節約されてしまった。しかし、それは韓国政府の決定であった。あくまでも韓国の内政問題である。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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