イラスト:さんぺい(@k_sanpei)
2014年の電王戦で、はからずも磯崎はヒール役を務めることになった。理由は、ソフトの修正に関するレギュレーション違反である。バグを直すだけ、というだけのはずの修正が、大きくソフトの内容が変わって、結果的に強くなっていた。プログラマとしての磯崎の技量を示すものではある。レギュレーションの存在についても、批判はある。磯崎側にも言い分はある。それでも、ルールの上では、磯崎の行動は認められない。磯崎は集中非難を浴びた。
電王戦の本番では、結局修正前のバージョンで戦うことになった。強くなる前のバージョンだから弱いかといえば、そんなことはない。やねうら王は決して、「ネタ勢」ではなかった。佐藤紳哉六段を相手に堂々たる戦いを見せて、見事に勝利を収めた。
磯崎のその後の去就も注目された。磯崎はもう、電王トーナメントの場に姿を見せないのではないか、とも思われた。
だが、磯崎は帰ってきた。夏休みの宿題を8月終わりのギリギリで片づけるタイプだという磯崎は、新しいやねうら王をわずかに2週間で作り上げた。そのコンセプトは斬新である。
「人間が考えだしたいかなる定跡も搭載しない」
「人間が生み出したいかなる棋譜も参考にしない」
「従来のいかなる将棋ソフトの流れも汲まない」
とアピール文書で明言した。
ネット上の掲示板で、
「開発者はプロがいなければ何もできない」
と言われたのにカチンときたからだという。
学習には人間の棋譜は使わず、コンピュータ同士の対戦の棋譜を使った。現在のコンピュータは人間の棋譜を学習して強くなったわけで、人間の影響をゼロにできているわけではない。そういう意味では、今回は間に合わなかったが、いつかはその夢をかなえたいと思っている。
新しいやねうら王は、またもや電王トーナメントを勝ち進んだ。本戦準決勝でAWAKEに敗れたが、3位決定戦ではSeleneに勝って、昨年より高い位置を獲得した。
ドキュメント コンピュータ将棋 天才たちが紡ぐドラマ 早くも話題沸騰!!
チェスプログラムの開発の先
現在の多くの将棋ソフトは、Bonanzaメソッド(機械学習)によって得られた評価関数と、ストックフィッシュを参考にした探索が、車の両輪である。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。