第21回】「彼らは人間を作ろうとしてるんや」

プロ棋士と互角以上の戦いを繰り広げるまでに進化した将棋ソフト。不可能を可能にしてきた開発者たちの発想と苦悩、そして迎え撃つプロ棋士の矜持と戦略。天才たちの素顔と、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡。今日までのコンピュータ将棋に関する最前線を追った『ドキュメント コンピュータ将棋』が3月25日発売。本連載では、本書から特に電王戦FINAL出場者たちの素顔や想いの部分を抜粋して紹介していきます。


イラスト:さんぺい(@k_sanpei)

 2014年の電王戦で、はからずも磯崎はヒール役を務めることになった。理由は、ソフトの修正に関するレギュレーション違反である。バグを直すだけ、というだけのはずの修正が、大きくソフトの内容が変わって、結果的に強くなっていた。プログラマとしての磯崎の技量を示すものではある。レギュレーションの存在についても、批判はある。磯崎側にも言い分はある。それでも、ルールの上では、磯崎の行動は認められない。磯崎は集中非難を浴びた。

 電王戦の本番では、結局修正前のバージョンで戦うことになった。強くなる前のバージョンだから弱いかといえば、そんなことはない。やねうら王は決して、「ネタ勢」ではなかった。佐藤紳哉六段を相手に堂々たる戦いを見せて、見事に勝利を収めた。

 磯崎のその後の去就も注目された。磯崎はもう、電王トーナメントの場に姿を見せないのではないか、とも思われた。

 だが、磯崎は帰ってきた。夏休みの宿題を8月終わりのギリギリで片づけるタイプだという磯崎は、新しいやねうら王をわずかに2週間で作り上げた。そのコンセプトは斬新である。

「人間が考えだしたいかなる定跡も搭載しない」
「人間が生み出したいかなる棋譜も参考にしない」
「従来のいかなる将棋ソフトの流れも汲まない」
 とアピール文書で明言した。

 ネット上の掲示板で、
「開発者はプロがいなければ何もできない」
 と言われたのにカチンときたからだという。

 学習には人間の棋譜は使わず、コンピュータ同士の対戦の棋譜を使った。現在のコンピュータは人間の棋譜を学習して強くなったわけで、人間の影響をゼロにできているわけではない。そういう意味では、今回は間に合わなかったが、いつかはその夢をかなえたいと思っている。

 新しいやねうら王は、またもや電王トーナメントを勝ち進んだ。本戦準決勝でAWAKEに敗れたが、3位決定戦ではSeleneに勝って、昨年より高い位置を獲得した。


ドキュメント コンピュータ将棋 天才たちが紡ぐドラマ 早くも話題沸騰!!

チェスプログラムの開発の先

 現在の多くの将棋ソフトは、Bonanzaメソッド(機械学習)によって得られた評価関数と、ストックフィッシュを参考にした探索が、車の両輪である。

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ドキュメント コンピュータ将棋

松本博文

プロ棋士と互角以上の戦いを繰り広げるまでに進化した将棋ソフト。不可能を可能にしてきた開発者たちの発想と苦悩、そして迎え撃つプロ棋士の矜持と戦略。天才たちの素顔と、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡。今日までのコンピュータ将棋に関する最前...もっと読む

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コメント

endo_5501 “ストックフィッシュのソースコードを見たときに、気づいたわけです。彼らはチェスを作ろうとしてるんやないんや。彼らは知能を作ろうとしてるんや。彼らは知的な汎用エンジンを作ろうとしてるんです” 4年以上前 replyretweetfavorite

jigendaddy wedataでサイト固有のコードばかり書いてる身としては、少し反省しないといけないかもしれないhttps://t.co/7SxXeXPkNe 4年以上前 replyretweetfavorite

k_sanpei cakesにて電王戦FINALのイラスト掲載していただきました! よろしくお願いします! 4年以上前 replyretweetfavorite

mtmtlife さんぺいさん(@k_sanpei)のイラストを掲載させていただきました。ありがとうございました。 4年以上前 replyretweetfavorite