「人を……撃つことを、どう思っていましたか」
「何とも思っていなかったよ」
ルネおじいちゃんの言葉が、今も頭から離れない。
ことこと走る地下鉄に、無言のままで乗っている。妻と私はルネおじいちゃんの家を後にし、自分たちの家へと向かっていた。
1940年2月。当時22歳だったルネおじいちゃんは、フランス陸軍下士官として第二次世界大戦に参戦した。部下にはドイツ兵に家族を殺された者も少なくなく、またルネおじいちゃん自身の父親も頭に穴を開けられていた。それでも、怪我で動けないドイツ兵が殺されそうになるのを、ルネおじいちゃんは何度も止め、命を救ってきたのだという。
そんな逸話に心動かされたが、しかしルネおじいちゃんは言ったのだ。自分はただ規則に従っただけ。人を撃つことだって「何とも思っていなかった」と……。私はその言葉に衝撃を受け、またそんな自分自身にも、やりきれない思いでいる。
胸にあるのは罪悪感だ。自分はおじいちゃんに戦争の話を聞いているとき、子どもに純粋さを求めるような、障害者に感動ストーリーを求めるような、そういう態度をとっていたのではないだろうか。だからおじいちゃんの言葉がショックだったのだ。
私はどこかで望んでいたのだろう。「俺たちは辛かった、お前たちは平和を守るんだよ」というような一言を。その一言によって、「辛い戦争を生きたおじいちゃん世代」と「平和を手渡された私たち孫世代」を、実は切り離したかったのだと思う。
自分は平和な時代に生まれた。 辛かったのはおじいちゃんおばあちゃんたちだ。自分じゃない。
……そうやって「昔の世代」と「私の世代」を切り離し、きっと私は安心したかったのだ。だからことさら戦争を、辛く悲しく恐ろしいものとして語ってほしかったのだ。
ルネおじいちゃんは、私の期待には応えなかった。
人を撃つことを、「何とも思っていなかった」と。
おじいちゃんが過去形で答えたことには、何か意味があったんだろうか?
20代だったルネおじいちゃんの気持ちを、今私は探ろうとしていた。一体何がルネおじいちゃんを、そして当時の人々を、第二次世界大戦へと向かわせたんだろう。人を戦争に向かわせる「何か」を知りたいというこの気持ちは、はたしていわゆる知的好奇心なのか、それとも「昔はこうだったから。今は違う」と安心したい欲望からくるものなのか。自分の気持ちもはかりきれないままだけれど、ただ、知りたかった。その「何か」を。
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