伊勢うどん全国制覇への道 【第4回】そしてさらなる飛躍と進化は続く!

2013年は「伊勢うどんの年」と主張するコラムニストの石原壮一郎さん。全4回の短期集中連載の最終回では、その論拠を示したうえで、熱く全国制覇への野望を語ります。伊勢神宮の式年遷宮、ヒカリエ、うどん博物館……さまざまな時代の動きが伊勢うどんを力強く後押ししている!? 壮大なスケールで描かれる伊勢うどんの現在とこれからをご覧ください。

2012年も押し迫ってまいりましたが、どうやら来たる2013年は「伊勢うどんの年」になりそうです。いや、手前味噌や判官びいきで言っているわけではありません。伊勢うどんブレイクの土台や環境は十二分に整いました。

この記事を読んでくださったみなさんにおかれましては、来年、世間に伊勢うどん旋風が巻き起こった暁には、したり顔で「ああ、伊勢うどんが来ることなんて、去年からわかってたよ」と言い放って周囲に感心されてください。読んでくださったせめてもの恩返しができて嬉しいです。

2012年10月14日は、伊勢うどんにとってひじょうに輝かしい日でした。群馬県館林市で開催された「第2回 麺―1グランプリin館林」。全国から61団体が参加し、6万人の来場者があった麺の一大フェスティバルです。もちろん、伊勢うどんチームも参加。三重県製麺協同組合の幹部3人が、三重から車に材料や道具を積んで7時間がかりで乗り込んできました。隣りのテントは、うどん界を牽引している絶対的王者の讃岐うどんチーム。ところが、スタートの10時を前にそれぞれのテントにできた列の長さで、伊勢うどんが讃岐うどんに圧勝してしまったのです。


伊勢うどんは、讃岐うどん、富士宮焼きそばなどとともに、堂々の招待枠(投票の対象外)。
この日は650食が全国の麺ファンの胃におさまりました。


ハッピの「地物一番」の文字に、県産の材料にこだわる製麺協同組合の気概が伺えます。
背中は現理事長の堀哲次さん(堀製麺社長)、手前は前理事長の赤塚兼也さん(赤塚製麺社長)、そしてもうひとりは組合の事務局長の渡辺宗房さん(かいだ食品社長)という精鋭部隊。

伊勢うどんのテントに並んでいる人に話を聞くと「テレビで見て、一度食べてみたかった」「ずっと前に伊勢神宮の近くで食べたけど、こっちで食べられないから」といった声が。どうやら物珍しさが有利に働いた部分はありそうですけど、伊勢うどんの名前がそれなりに全国に浸透し、注目が高まっているのは間違いありません。

「真っ黒な見た目で敬遠されることもありますけど、こうやって実際に食べてもらった方には、必ずおいしいと言ってもらえます」(かいだ食品社長・渡辺宗房さん)

伊勢うどんの魅力を広く浸透させるには、とにかく食べてもらおうというのが、製麺協同組合の方針であり各メーカーの信念。ある時は組合として、またある時はそれぞれのメーカーが、全国各地ののイベントや見本市に積極的に出店しています。

「あれは、大きな自信になりましたねぇ」と、前回もご登場いただいた三重県製麺協同組合理事長の堀哲次さんがしみじみと振り返るのは、2008年に香川県高松市で行なわれた「世界麺フェスタ2008 in さぬき」のこと。讃岐うどんの本場に乗り込んだ伊勢うどんは、稲庭、五島といった有名うどんが居並ぶ中で大健闘を見せ、2日間で2,000食を売り上げました。

「行くときは、1,000食ぐらい持ってけばええやろと思ってたんですが、1日目の午前中であまりにも勢いよく売れるもんやから、あわてて三重県の同業者に電話して、翌日に追加の麺を届けてもらいました。讃岐の人たちは、やっぱりうどんが好きなんですね。8~9割の人は伊勢うどんを知らなかったと思いますけど、とっても喜んでくれました」

伊勢うどんとは対極の特徴を持つ讃岐うどんの本場で、伊勢うどんがきちんと評価されたことは、伊勢うどん関係者に勇気を与えました。そこから「とにかく食べてもらう」ための努力に、いっそう力が入ります。2013年の春も、たとえば東京方面だけでも、3月には7~8年前から毎年出店しているNHKの「ふるさとの食にっぽんの食 全国フェスティバル」(代々木公園など)があったり、3~4月に初めての開催が予定されている「うどん祭り2013」(駒沢オリンピック公園)に出店したりなど、ファンにとっては楽しみなイベントがいっぱいです。

組合だけでなく、伊勢市観光協会でも20年に1度の伊勢神宮の式年遷宮に合わせて、伊勢をPRするキャラバン隊を組んで、伊勢うどんをふるまいながら全国をまわる予定だとか。最近は関東のお祭で伊勢うどんの屋台を見たという情報も。あなたの街に伊勢うどんがやってきたら、どうかやさしく迎えてあげてください。

全国に広く存在をアピールするとともに、足元を固めたり伊勢うどんの新たな可能性を探ったりといった動きも、地道に行なわれています。2012年1月に伊勢うどん業界で初めて「ISO22000:2005」(食品安全マネジメントシステムの国際規格)を取得したのが、昭和30年代から伊勢でうどんを作り続けているみなみ製麺。同社の横綱印の伊勢うどんの生麺は、地元のスーパーで大人気です。

「ISO22000を取りたいがために、2010年に新しい工場を作りました。このまま古いやり方を続けていてはいけないという危機感があったし、長い目で見ると伊勢うどんの地位向上につながると思ってます。取得しているとなると、ウチや伊勢うどんを知らない会社でも一目置いてもらえますからね。何より、従業員ひとりひとりの意識が変わりました」(濱口義明社長)


伊勢市内の某スーパーのうどん売り場。何種類もの伊勢うどんが大きなスペースを占めています。
もちろん、タレのラインナップも多彩。伊勢に生まれ育った人にとって伊勢うどんの麺とタレは「家の冷蔵庫にいつも当たり前に入っているもの」でもあります。

およそ40年前に、家庭用の伊勢うどんのタレを初めて販売したのが、伊勢市に隣接する玉城町で1684年から醤油を作り続けてきたミエマン醤油西村商店。ここのタレの誕生によって、伊勢うどんが家庭で気軽に食べられるメニューになりました。

「2011年には、テレビドラマ『高校生レストラン』で有名になった相可高校食物調理科とコラボしたタレを作りました。そのタレでうどんを食べたおばあちゃんが『これは、私らが子どものときに食べとった味やな。懐かしいわ』と感激してくれたんです。高校生が作ったものなのに、やっぱり血が脈々と受け継がれているんですね」

そう話してくれたのは、常務の西村真美さん。同社は各地で行われるイベントや展示会にも積極的に参加しています。2012年の夏にはとしまえんに出店していました。「伊勢うどんに『伊勢』が付かなくなるまで、うどんといえば伊勢うどんが当たり前になるまでがんばりたいですね。まずは、東海地方で人気の喫茶店のコメダのメニューに入れてくれやんかな」と意気軒昂です。


ミエマン醤油西村商店の「相可高校コラボ伊勢うどん4食たれ付」(1,500円税込)。
左側は相可高校の生徒と食物調理科を育てた村林新吾先生。右側はミエマンの従業員。


伊勢市内で1948年から伊勢うどんを作り続けている老舗の山口製麺では、10年ほど前にインターネットなどを通じて新しい「伊勢うどんレシピ」を募集。「新しい食べ方を見つけたかったのはもちろんですが、全国の人がどのぐらい伊勢うどんを知ってくれているかを確かめたい気持ちもありました」と語るのは、取締役の山口博司さん。

そんな不安を吹き飛ばすように、フタをあけてみるとなんと1000通を超える応募が全国から寄せられました。チーズ伊勢うどん、マーボー伊勢うどん、大分のヤセウマ風・伊勢うどんなど、厳選されたいくつかのメニューが同社のサイト[伊勢うどんアラカルト]で紹介されています。未知の世界を探検してみたい方は、ぜひお試しあれ。伊勢うどんの奥深さを感じることができるでしょう。

伊勢うどん業界以外からも、伊勢うどんに熱い視線が寄せられています。伊勢市の新たなB級グルメとして人気を集めているのが、鶏のからあげを伊勢うどん風味にした「甘タレからあげ」。片栗粉をまぶして揚げた鶏もも肉に、伊勢うどんと同じたまり醤油をベースにしたタレをまぶしてあります。もちろん食感はまるで違いますが、ほのかに伊勢うどんの気配を感じさせる甘辛さは、かなり絶品。

「やっぱり伊勢で生まれ育った私たちにとって、伊勢うどんはソウルフードですからね。まったく別ものではありますが、伊勢うどんへのリスペクトはたっぷり込めています」とは、このからあげの考案者であり、同業者に呼びかけて名物に育てようと尽力している林完治さん(個室創作ダイニング パセプション・オーナーシェフ)。現在では、市内26の店舗で食べることができます。


「甘タレからあげ」(レギュラー、300円)。
使っているタレをビンに入れた「万能タレ」(500円)もあります。

ほかにも、「伊勢うどんかりんとう」や「伊勢うどんたれだんご」など、伊勢うどんの活躍場所は丼の中だけに止まりません。観光地ではおなじみの「ご当地ストラップ」でも、ハローキティ、キューピー、目玉おやじ、ケロロ軍曹、ご当地ショボーン(´・ω・`)、おかげ横丁「ふくすけ」で、伊勢うどんバージョンが確認されています。キティちゃんは、ストラップだけでなく、ハンカチやボールペンでも、伊勢うどんを手にポーズをとってくれています。口が見当たりませんが、どこからすするのでしょうか。

地元ではますます伊勢うどん愛が盛り上がり、伊勢うどんへの期待が高まっていることはよくわかりました。それはそれとして、全国制覇のためには、まず東京を制さなければなりません。

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