人間とコンピュータの将棋が最終決戦に!—実際、どちらが強いのか?

3月14日に開幕した、プロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが五番勝負で対局する将棋電王戦。第1局の斎藤慎太郎五段 対Apery(将棋ソフト)の対戦は、斎藤五段が勝利をおさめました。幸先の良いスタートに、今回はプロ棋士側が勝ち越せるのではないかと大きな期待が集まっています。この電王戦に登場する将棋ソフトの開発者や棋士を中心に取材をし、対局にかける思いやプロとしての矜持、開発者の苦悩、コンピュータ将棋の進化にスポットをあてた『ドキュメント コンピュータ将棋』という本が発売されます。著者の松本博文さんに本書の見どころや、入りきらなかったこぼれ話について、cakes編集長の加藤貞顕がうかがいました。

2005年の段階で、プロ棋士並みの実力があった?

加藤貞顕(以下、加藤) 人間とコンピュータ将棋ソフトが対戦する将棋電王戦の最終回、「電王戦FINAL」が開幕しましたね。3月25日には、今回の電王戦に出場する棋士・ソフト開発者も含めて、コンピュータ将棋に携わる人たちのドラマを描いた『ドキュメント コンピュータ将棋』という松本さんの著書が出版されます。

ドキュメント コンピュータ将棋 天才たちが紡ぐドラマ (角川新書)
ドキュメント コンピュータ将棋 天才たちが紡ぐドラマ (角川新書)

松本博文(以下、松本) はい。昨年『ルポ 電王戦 人間vsコンピュータの真実』という本を書いたのですが、そちらはコンピュータ将棋の始まりから通史的に追って、第3回将棋電王戦までをまとめました。今回は、第3回電王戦以後に起こったことも含め、コンピュータソフト同士が戦う「電王トーナメント」を勝ち抜いて電王戦に出場する5人の開発者の話を中心に、コンピュータ将棋の最前線の話を盛り込んでいます。

加藤 おもしろいですよねえ。電王戦。僕は個人的に、いま日本でおこなわれているさまざまなイベントのなかで一番おもしろいなと思っているんですよ。

松本 他に類がないですよね。

加藤 しかも、コンピュータ将棋はどんどん強くなっていますから、人間が勝つか負けるかといういい勝負ができる今この瞬間の戦いが、一番おもしろいと思うんです。コンピュータ将棋は、2000年頃にアマチュア4段くらいの強さでしたよね。僕自身が、アマ三段から四段くらいの棋力なのですが、ちょうどその頃からコンピュータに負けるようになってきました。

松本 そうですね、1974年に開発が始まった当初は、ルール通りに指すのがやっとというくらいでした。1985年には当時のスタープログラマだった森田和郎さんが「森田和郎の将棋」を開発し、これは初心者にとって普通に指して楽しめるくらいのレベルに達していました。1990年には第一回コンピュータ将棋選手権が開催され、さまざまな将棋ソフトが登場しました。どんどん強豪のソフトが出てくるなか、2005年にブレイクスルーが起きます。

加藤 Bonanzaの登場ですね。『ルポ 電王戦』に当時のことが書かれていますが、「Bonanza-The Computer Shogi Program」という名前のすごくそっけないウェブページが立ち上がったんですよね。そこにはデータ容量が2.5メガのかなり軽いソフトが置かれていて、誰でも無料でダウンロードできる。僕は当時、松本さんのブログでその存在を知って、ダウンロードしてみたら、めちゃくちゃ強くてびっくりしました。

松本 どうにも勝てないんですよね。人間とも、これまでのソフトとも違う指しまわしで、「これはおそろしいソフトが現れた」と思いました。

加藤 そう。これまでのコンピュータ将棋とはまったく異質の強さになったんですよね。コンピュータ将棋はそれまでは攻めが弱かったのですが、Bonanzaはとにかく攻めてくるのがすごいと。当時松本さんは、Bonanzaをノートパソコンに入れて持ち歩き、奨励会員や棋士に指してもらったと書かれていましたね。

松本 そうなんです。具体的な戦績を言うのは控えますが、いやもう、めっぽう強かった。当時、私は『週刊将棋』に奨励会二段半の実力があると書いたんですけど、それはちょっと控えめな表現でしたね。早指しに限っていえば、本当は三段半くらいあったと思います。

加藤 えーと、奨励会というのはプロの養成機関ですよね。三段半って、どれくらいの強さなんでしょうか。

松本 そうですね。将棋のプロは四段からなのですが、プロになる直前でしのぎを削っている若い棋士たちは、プロの公式戦にデビューしても6割くらい勝てる実力を持っています。その彼らが、なかなか10秒将棋(持ち時間が一手指すごとに10秒ある)で勝てないんです。

加藤 2005年の段階でそうだったんですね……。しかもコンピュータ側のスペックは普通のノートパソコンで。

コンピュータの強さを数値で表すと?

松本 今回「電王戦FINAL」の第2局に出場する永瀬拓矢六段は当時1級で、彼にも指してもらったのですが、何回か対局して、勝ち負けの数が同じくらいでしたね。コンピュータ将棋の強さを人間の将棋界も認めざるを得なくなってきた。そこで2007年にBonanzaと渡辺明二冠(現在)の公式対戦が実現します。そのときは、辛くも渡辺さんが勝ったわけですが、そのときのBonanzaのバージョンは2。そして、いま公開されてるBonanzaのバージョンは6なんです。2007年当時より、はるかに強くなっている。コンピュータ将棋界では、そのBonanzaと比べてどれくらい勝てるかをベンチマークにしていて、電王戦に出てくるようなソフトは9割5分勝つんだそうです。

加藤 9割5分ですか! 実際いま、コンピュータ将棋の強さって、どれくらいのレベルに達しているんですか?

松本 レーティングという数値で説明するのがわかりやすいかもしれません。レーティングというのは、「ドラゴンボールに出てくる『スカウター』で測る戦闘力のような数値」です。勝てば点数が上がり、負ければ下がる。強い相手に勝つとたくさん点数が上がり、弱い相手に負けると大きく下がるという評価の数値です。コンピュータ将棋同士が対戦するネット上の対戦サーバ「floodgate(フラッドゲート)」での上位ソフトのレーティングは、3400点ほどあります。

加藤 フラッドゲートは、ネット上で24時間コンピュータソフト同士が対戦している、いわばコンピュータ将棋の闘技場ですよね。

松本 そうです。そして、人間がネット上で指す将棋の対局場としては、「将棋倶楽部24」という対戦サーバがあるのですが、そこで人間のトップが3200点くらいだと言われています。

加藤 そこの上位ってどんな人でしょう。プロも指しているんですか?

松本 えーと、大っぴらにはしていませんが、プロも匿名で指しています。A級棋士から若手棋士まで。ボクシングのスパーリングのような感覚で指してる棋士が多いと思います。

加藤 おお、そうなんですね……。ということは、将棋倶楽部24のトップのレーティングは、人間の将棋界とも近いと考えていいんでしょうか。

松本 はい。プロが全員参加しているわけではないですし、あくまでも短時間の将棋では、ということですけどね。

加藤 なるほど。

松本 で、レーティングというのは、対局している集団のなかで相対的につけられる点数ですから、戦う場所が異なると基準が変わります。将棋倶楽部24とフラッドゲートを比較すると、200〜300点、フラッドゲートのほうが設定が「からい」と言われています。つまり、フラッドゲートで3400点ということは、将棋倶楽部24のレーティングで3600、3700点くらいあるということです。

加藤 ……人間が3200くらいなので、それはかなり差がついているということですか? 「電王戦FINAL」に出場する棋士の方々は、どれくらい勝てるんでしょうか。

松本 今回、電王戦に登場するある棋士が練習対局で1、2割の勝率だと言っていました。

加藤 そうなんですか!

松本 いやいや、僕は1、2割勝てるってすごいことだと思います。第4局に出てくるコンピュータ将棋に勝ったらノートパソコンをプレゼントするイベントがあったんですけど、アマチュアはそこで100人以上連続で負けたんですよ。勝率0割です。でも、1、2割勝てるなら、本番で勝てる可能性もある。おそらく、他の人も同じくらいなんじゃないでしょうか。

加藤 今回のルールは、事前にソフトの貸出があって、練習できるわけですね。それでみなさんは対策して勝負に望むと。だからプロがかなりやれるという見方もありますね。

松本 そうですね。楽しみです。

羽生さんとコンピュータの対決は、自分が勝つことで阻止するという決意

加藤 さて、これはまた、電王戦FINALのそのあとに出てくるテーマかもしれないのですが、最強の棋士である羽生さんと対戦したらどうなるのかというのは、皆が気になるところですよね。

松本 そうですね。プロ棋士にもそれについて、いろいろ聞いてみました。皆さん答えはバラバラで、「もう羽生さんでも勝てないね」という人もいれば、「羽生さんが出れば勝てるだろう」と答えた人もいました。電王戦FINAL第2局に出場する永瀬六段は、「羽生名人が出れば勝つでしょう。でも羽生名人が出る状況をつくってしまうのは、将棋界として不名誉なことです。だから僕達が止めなくちゃいけません」と明快に言われていて。

加藤 永瀬さん、かっこいいなあ。

松本 うん、かっこいいですよね。永瀬さんは、ソフトが勝ち続けるのをここで止めるのが自分の役目で、そのために勝ちを目指すと決心しているわけです。

加藤 永瀬さんは対戦する「Selene」に練習対局でどのくらい勝ってるのでしょうか。

松本 「電王戦FINALへの道」というドキュメンタリー動画がニコニコ動画で公開されていて、そこに練習対局の様子などもアップされていますが、まあ勝ったり負けたりですよね。Seleneはそんなに有名なソフトではないので、この一局は永瀬さんが勝ちだと予想する人も多いんですけど、永瀬さんから言わせるとそんなことはないと。永瀬さんは、「Seleneは弱くない。ponanzaとSeleneの対局成績ではponanzaのほうが強いかもしれないけど、人間から見たら一緒です」と言っていました。

加藤 ソフトがもう、全体的に強いということですね。

松本 そのなかでも、電王トーナメントで5位以内に入るソフトは強いに決まってますよね。

加藤 今回の「電王戦FINAL」、松本さんの勝敗予想はどうなんでしょう?

松本 僕は、プロ棋士側が2勝はすると考えています。第1局から第3局までで2勝。第4局、第5局に出てくるAWAKEとponanzaはコンピュータ将棋界で二強と言われるほど図抜けて強いので、率直に言ってこれらに勝つのは難しいかなと思っています。でも第4局の対局者である村山七段と第5局の阿久津八段もかなり対策を練っていると聞いているので、もしかしたらいけるかもしれないと最近思っています。


(次回へ続く)


天才たちの素顔と、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡を綴った『ドキュメント コンピュータ将棋』、cakesでも好評連載中です!

この連載について

ドキュメント コンピュータ将棋』松本博文インタビュー

松本博文

3月14日に開幕した、プロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが五番勝負で対局する将棋電王戦。第1局の斎藤慎太郎五段 対Apery(将棋ソフト)の対戦は、斎藤五段が勝利をおさめました。幸先の良いスタートに、今回はプロ棋士側が勝ち越せるのではな...もっと読む

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コメント

inumaria  昨日のやつの事前解説 約4年前 replyretweetfavorite

puriketu99 "永瀬六段は、「羽生名人が出れば勝つでしょう。でも羽生名人が出る状況をつくってしまうのは、将棋界として不名誉なことです。だから僕達が止めなくちゃいけません」と明快に言われていて" 約4年前 replyretweetfavorite

kubo_unatama 強くなってるんだなぁ。 約4年前 replyretweetfavorite

prisonerofroad #将棋 #電王戦 約4年前 replyretweetfavorite