取り引きを持ちかける敵と、納得のいかない樹里の祖父。それぞれの立場に立った人間ドラマが描かれる。(『刻刻』7巻)
『銀河鉄道の夜』の音をマンガに
—— マンガはいつ頃から本格的に描きだしたんですか?
堀尾省太(以下、堀尾) 本格的と言えるかどうかわかりませんが、高校生の時ですね。僕は『銀河鉄道の夜』※1というアニメ映画が大好きだったんですけど、あれを最初から最後までぜんぶ、マンガにしたことがあって。
※1 『銀河鉄道の夜』:1985年の劇場用アニメ映画。監督は杉井ギサブロー。宮沢賢治の同名小説を原作に、登場人物を擬人化した猫によって描いた。
—— それはすごい! ビデオか何かの映像を模写してたんですか?
堀尾 いえ。音だけ録音したテープを聴きながらです。昔、テレビで『銀河鉄道の夜』をやっていたのを録音して、寝る前とかにウォークマンで聴いてたんですね。そのうちに、マンガにしたいなって思うようになって。
—— 音だけで、どうやってマンガに起こすんですか?
堀尾 映像を覚えているところは思い出しながら描くんですけど、忘れているところは想像で補って描く感じですね。音を聴いてると、「このセリフとセリフの間に変な間があるけど、どんな絵が入るんだろう」とか、想像がわくんですよ。それをふくらませて、コマを埋めていくんです。
—— それが創作の練習になっていたのかもしれませんね。その後、23歳で「アフタヌーン四季賞」の大賞を受賞されます。その後は、高橋のぼる ※2さんや能條純一 ※3さんのアシスタントをしてらっしゃったんですよね?
※2 高橋のぼる:マンガ家。代表作に現在も連載中の『土竜の唄』など。
※3 能條純一:マンガ家。代表作に『哭きの竜』、『月下の棋士』など。
堀尾 はい。アシスタントに専念してました。
—— 四季賞から『刻刻』で連載デビューするまで、実に12年。アシスタントを長く続けていると、自分の作品を描く意欲がなくなるという話も聞くんですが……。
堀尾 それはあると思いますね。他の人の作品の背景でも、頑張ってうまく描ければ、やっぱり達成感はあるんですよ。それで創作意欲がちょっとずつ昇華されていくことはあると思います。
—— なるほど。ただ、第1回のインタビューでお聞きしたとおり、能條純一さんのところで、ある背景を描いたことがきっかけになって、この『刻刻』が生まれたんですよね。連載を持つと、アシスタント時代にはなかった苦労など感じますか?
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