ピアース・ブラウン『レッド・ライジング──火星の簒奪者』(ハヤカワ文庫SF)
●期待の新星ピアース・ブラウン、本邦初登場
新人作家ピアース・ブラウン。若干26歳。
2011年、当時23歳のブラウンは出版社に原稿を持ち込んだ。出版社は彼の中に光るものを見つけ、三部作の執筆契約を結ぶ。第一作目が本書『レッド・ライジング——火星の簒奪者』だ。
ブラウンは小さなころから、親の仕事の関係でアメリカを転々としてきた。しかし場所は変わっても彼の本性——面白い物語を紡ぐ——は変わらない。といっても、彼を天才作家の一人としてカウントしたいわけではない。出版社と契約を結ぶ前にいくつもの「お断りの手紙」を受け取っている。努力家の彼はそれらの手紙を次の作品執筆に活かしてきた。そして彼は読書家であり、なによりオタクだ。文学からSFまで幅広い知識を持っている。
そんな彼のデビュー作『レッド・ライジング』の評価は極めて高い。訳者あとがきではレヴューサイトGoodreadsの新人作家カテゴリーでアンディ・ウィアー『火星の人』を追い抜き、最多票を獲得したと紹介している。ちなみにアンディ・ウィアー『火星の人』は先月発売された『SFが読みたい! 2015年度版』では、海外篇の第一位作品。今年、翻訳される(た)海外SFの注目作であることは、間違いない。映画化権も売られ、第二の『ハンガーゲーム』として出版界・映画界から大きな注目を集めている。
英語だが、BuzzFeedBooksに詳しい記事 “Why Pierce Brown Might Be Fiction’s Next Superstar” がある。
●火星のサバイバル/デスゲーム
あらすじを紹介しよう。
舞台は地球人類の植民地として開発された火星。入植者たちは十二色の色属に分類され、階級が分けられている。支配階級はゴールド、技術者がオレンジ、医師ならイエローといったように。
主人公ダロウの色属はレッド。火星の開発に必要な資源ヘリウム3を命がけで採掘する底辺労働者だ。やがて完成する火星のテラフォーミングのためだと信じ圧政に耐えていたが、権力者に妻を殺され、自分の命も脅かされる。反政府組織との接触を通じ、ダロウは自分たちレッドが偽りの情報を与えられ、労働力を搾取されていたことに気がつく。
身体成形手術をうけ、レッドからゴールドへと姿を変えたダロウは、ゴールドの子息たちが通う養成校へと潜入する。好成績を収めゴールドの支配階級になり内側から体制の崩壊を目指すために。
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