第9回 交わる点、接する点(前編)

「僕」が以前話した放物線の話を、後輩の元気少女テトラちゃんは引き続き考えていた。《わかった感じ》を求めているテトラちゃんに「僕」はていねいに説明を始める。
放課後の図書室。後輩のテトラちゃんが腕組みをして考えている。 は、何の気なしにテトラちゃんの隣に座った。

図書室にて

テトラ「きゃあああああっ!」

「うわああああっ!」

図書室中の視線がこちらに集まった。 書棚の整理をしていた瑞谷先生もこちらをさっと向く。

テトラ「す、すみません。先輩がいらしたのに気づかなくて……驚いちゃいました」

「つられて僕も驚いちゃったよ……何を考えていたの?」

テトラ「はい……あのですね、先日、グラフを移動するお話をなさいましたよね」(第6回参照

「ええと? ああ、 $y=x^2$ の放物線を動かしたんだっけ」

テトラ「はい、そうです。放物線を動かして、 $x = 0$ と $x = 2$ で $x$ 軸とクロスさせるなら、 $(x - 0)(x - 2)$ という $2$ 次式を作ればいいとおっしゃって……」

「うん、そうだったね。 $(x - 0)(x - 2) = x^2 - 2x$ だから、放物線は $y = x^2 - 2x$ だね」

テトラ「はい……」

「何かおかしいかな?」

テトラ「いえっ、違います。先輩からとても大切なことをおうかがいしたと思うんですが—あたし、まだ《わかった感じ》がしてないんです」

「そうなんだ。テトラちゃんは納得しないと気が済まないからね。数学を勉強するとき、それはとてもいい態度だよ」

テトラ「でも、放物線なんて中学校で習ってたはずですよね……」

「いやいや、小学校で習っていても、中学校で習っていても、自分がわかったかどうかとは関係ないよ。 テトラちゃんがいう《わかった感じ》は大事だと思うな」

テトラ「そ、そうですか……ありがとうございます」

「それでと。どこから話せばいいかなあ」

テトラ「できれば、簡単なところから」

$x$ 軸の話

「じゃあね、座標平面の $x$ じくから話を始めようか。 $x$ 軸とは何かな?」

$x$ 軸とは何か。

テトラ「えっと……座標平面の $x$ 軸っていうのは、はい、原点を通っている直線です……よね。 あ、横軸です!……そういう答えでいいんでしょうか」

「うん。まずはそれでいいよ。 $x$ 軸は原点を通っている直線—それはまちがいじゃないよ。 それから $x$ 軸のことを横軸ということもある。それもまちがいじゃない。 もう少していねいに考えてみよう。 テトラちゃんは、 $x$ 軸上の点 $(x, y)$ にどんな性質があるか、わかる?」

$x$ 軸上の点 $(x, y)$

テトラ「 $x$ 軸上の点 $(x, y)$ の性質……ですか。たとえば……はい、 $y$ が $0$ と同じだとか、でしょうか」

「そうそう。それでいいよ。それはとても重要な性質だね。 でも $y$ が $0$ と《同じ》とはいわないほうがいいよ。 テトラちゃんのいうその《同じ》は、数学では《ひとしい》というんだ」

テトラ「あっ、そうでした。 $y$ が $0$ に等しい、ですね」

「そうそう。座標平面で $x$ 軸上の点 $(x, y)$ は、必ず $y$ が $0$ に等しくなる。言い換えれば、 $x$ 軸上の点はすべて $(x, 0)$ と書くことができる」

$x$ 軸上の点は $(x, 0)$ と書ける

テトラ「はい」

「点 $(x, y)$ が $x$ 軸上にあるならば、 $y = 0$ になる、と表現してもいいよ。そして、逆もいえる。 $y = 0$ になるならば、点 $(x, y)$ は $x$ 軸上にある」

テトラ「はい……え、ちょっと待ってください」

テトラちゃんが手を挙げた。

「ん?」

Photo by CCAC North Library.

テトラ「いま先輩はぎゃくっておっしゃいましたが、何が逆なんでしょうか」

「ああ、そうだね。きちんといおうか。点 $(x, y)$ が座標平面上の点であるとして、まず次の命題 $1$ が成り立つよね。 $\Rightarrow$ は《ならば》という意味」

命題 $1$ : 《点 $(x, y)$ が $x$ 軸上にある》 $\Rightarrow$ 《 $y = 0$ 》

テトラ「ええと、はい」

「この命題 $1$ の《逆》というのは、《ならば》の矢印 $\Rightarrow$ を逆にした命題 $2$ のこと」

命題 $2$ (命題 $1$ の逆): 《点 $(x, y)$ が $x$ 軸上にある》 $\Leftarrow$ 《 $y = 0$ 》

テトラ「ははあ……わかりました。命題 $2$ を命題 $1$ の逆というんですね」

「そうそう。それから、命題 $1$ は命題 $2$ の逆ともいえる。矢印をまた逆にすればいいから」

テトラ「はい、逆という言葉はわかりました」

テトラちゃんは《秘密ノート》を取り出してそこにきちんとメモをした。

「それでね、両方が成り立っているとき—つまり、 $P \Rightarrow Q$ と $P \Leftarrow Q$ の両方が成り立っているとき—そのとき、 $P$ と $Q$ は同値どうちであるというんだ」

テトラ「はい?  $P$ と $Q$ が急に出てきましたけど?」

「ごめんごめん。 $P$ と $Q$ も命題だよ。さっきの命題 $1$ でいえば、 $P$ は《点 $(x, y)$ が $x$ 軸上にある》で、 $Q$ は《 $y = 0$ 》になる」

テトラ「 $P$ も $Q$ も命題……あれ、 $P \Rightarrow Q$ も命題なんですよね」

「そうだよ。 $\Rightarrow$ は、 $P$ と $Q$ という二つの命題から $P \Rightarrow Q$ という一つの大きな命題を作っているんだ」

テトラ「は、はい。なんとかわかりました」

「話が横にそれちゃったかな。少し整理すると……」

  • 命題 $1$ : 《点 $(x, y)$ が $x$ 軸上にある》 $\Rightarrow$ 《 $y = 0$ 》
  • 命題 $2$ : 《点 $(x, y)$ が $x$ 軸上にある》 $\Leftarrow$ 《 $y = 0$ 》

「この両方が成り立っているから、結局、

  • 命題 $3$ :《点 $(x, y)$ が $x$ 軸上にある》 $\Leftrightarrow$ 《 $y = 0$ 》

が成り立つことになる。 $\Leftrightarrow$ は両辺の命題が同値だという意味だよ」

テトラ「すみません。これは《点が $x$ 軸上にある》という命題と《 $y$ 座標が $0$ に等しい》という命題が《同じ》だといってるんですよね」

「まあ、そうだけど—ねえねえ、テトラちゃんがいまいった《同じ》は、数学では《同値》というんだよ」

テトラ「あちゃちゃちゃ! またしても《同じ》で! さっきと同じまちがいを! 違う違う、さっきと同じまちがいじゃなくて、 さっきとは違う《同じ》のまちがい! 違う《同じ》? あたしはなに言ってるの?!」

テトラちゃんがオーバーアクションで頭を抱える。 ふっと甘い香りがする。

$$ \begin{array}{rcll} y &=& 0 & \qquad \text{ $y$ と $0$ は《等しい》(同じとはいわない)} \\ P &\Leftrightarrow& Q & \qquad \text{ $P$ と $Q$ は《同値》(同じとはいわない)} \\ \end{array} $$

テトラちゃんが落ち着くのを待ってから話を続ける。

「ええと、じゃあテトラちゃん、いいかな。 $x$ 軸に話を戻すと、こういうことになる。座標平面で《点が $x$ 軸上にある》と、 《 $y = 0$ 》は同値だ。 だから、 $x$ 軸上に点があるかどうかを知りたかったら、 $y$ が $0$ に等しいかどうかを調べればよい」

テトラ「……」

「何をやっているか、わかるかな、テトラちゃん?」

テトラ「はい……いいえ、あの、わかるんですけど、わからないです。あたりまえのところをぐるぐる回っているみたいで……すみません」

「そうだよね。あのね、この話は《図形の世界》と《数の世界》を並べていると考えるとわかりやすいんだよ」

テトラ「《図形の世界》と《数の世界》……ですか?」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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