永遠の0』と書き出し小説の宿命は似ている?

「本屋」をテーマに募集した書き出し小説の中から、最も味わい深い作品に贈られる「2015書き出し本屋大賞」。『書き出し小説』編者の天久聖一氏、デイリーポータルZのウェブマスターこと林雄司氏、そしてスチャダラパーのANI氏によるノミネート作品チェックもいよいよ佳境に。
最終回は、お三方それぞれによる個人賞(豪華賞品付き)の授与、そして栄えある大賞の発表です。「本屋大賞」より一足早い「書き出し本屋大賞」の栄冠は、果たして誰の頭上に輝くのか!?

ミニチュア細工を見るような楽しさ

天久聖一(以下、天久) 「2015書き出し本屋大賞」ノミネート作品のうち、僕と林くんのお気に入りは挙げ終わりました。

林雄司(以下、林) じゃあ、続いてANIさん。


左からANI、天久聖一、林雄司

ANI 僕は、まずはこれかな。

[選]ANI 書き出し本屋大賞ノミネート


紙の匂いで出版社が分かる。

(彩月

天久 ソムリエ的なね。

ANI 本屋で働き過ぎるとこうなったりするのかなって。

天久 関係ないけど、本屋に行くとトイレに行きたくなるのって、本の紙とインクの匂いが原因だっていわれたりしたよね。

ANI そういう噂ありましたね。

天久 そうそう、この「書き出し本屋大賞」ノミネート作は僕が選んだんですけど、特に多かったのがトイレに行きたくなるネタと、少女マンガ的な出会い。

 男女が同じ本を取ろうとして、手と手がふれて、みたいな。

天久 あとは梶井基次郎の『檸檬』のパロディ。レモンの代わりにキウイを置いてくるとかね。

ANI なるほど。じゃあ次。

[選]ANI 書き出し本屋大賞ノミネート


立ち読みが山場を迎え、便意は頂点に達した。

(えむ毛

天久 僕もこれどうしようかなって迷ったんですよ。こう、ふたつの異なる波長が重なる瞬間。何読んでたんでしょうね?

ANI 『ONE PIECE』とかじゃないですか。あ、でもいまはマンガはシュリンクされてて立ち読みできないのか。子供のときとか、マジで立ち読みで全巻制覇したことあるでしょ?

天久 座り込んでね。

ANI 『サーキットの狼』とか、読んだなあ。

天久 本屋の風景も昔とずいぶん変わってて、かつてはエロ本を、勇気出してレジに持ってくってのが儀式としてあったじゃないですか。いまはないよね。

ANI いまの子はエロ本買わないでしょ。

天久 ネットがあるもんね。僕らが少年だったときは、近所の本屋さんがみんなの性癖知ってるみたいな、裏情報を握ってるような存在でしたけど。

ANI そういう意味では、レンタルビデオ屋の履歴も、いまコンピュータで管理されてるんでしょ? だから、俺が借りたエロビデオも、全部ビッグデータに集積されて……。

 性癖バレるかもしれませんね。

ANI 「こいつ、またこれ借りてるわ」って思われてたりして。で、最後はこれ。

[選]ANI 書き出し本屋大賞ノミネート


きのうより栞が五ミリ進んでいる。

(suzukishika

天久 これも立ち読みネタですけど、きれいですよね。

 立ち読みで栞挟むなよっていう。

天久 もともと本に付いてたやつかもしれないよね。それで何ページ進んでるじゃなくて「5ミリ」っていう厚みにしてるところがおしゃれだなと。「しおり」を漢字にしてるとかね。
 みんな短い文章の中にいろいろ詰め込んでくるから、レトリックや助詞ひとつとってもこだわりを感じるんですよね。そういうのを気にして読むと、作品の完成度というか、作者の凝り具合がわかっておもしろい。ミニュチュア細工を見るみたいな楽しみ方ですよね。

ANI ほほーう。

スタッフ では、会場のみなさんは30本の中からお好きな作品を3つ選んで投票してください。集計を待つあいだに、天久さん、ANIさん、林さんそれぞれの個人賞を発表します。

天久 じゃあ、天久賞は、この作品に。

書き出し本屋大賞 天久聖一賞


横に立った彼女に慌てて、戻した本がとなりの帯を小さく裂いた。

(大伴

天久 作者の大伴くん、ひょっとして今日いらしてますか? あ、いた!

林&ANI おめでとうございます。

天久 彼は大伴くんといって、シリアスなやつもネタ系もまんべんなくレベルの高い作品をいつも送ってくれてるんですよ。今回も非常にきれいな作品を書いてくれました。天久賞の賞品は、まず『お前』っていう、僕が昔出したマンガなんですけど。

ANI これ最高。最高なやつ。

天久 何気に帯が宮藤官九郎くんなんだよね。

ANI ブレイク前の。

天久 これがぜんぜん売れなくてね。ブックオフにも置いてないと思います。あと僕が書いた『少し不思議。』っていうどうでもいい小説と、僕が趣味で作ったオリジナルステッカー。この3点セットを差し上げます。おめでとうございます!

ANI ANI賞はですね、これかな。

書き出し本屋大賞 ANI賞


紙の匂いで出版社が分かる。

(彩月

ANI 彩月さん。いらっしゃってない? その場合はどうするんですか?

スタッフ のちほどお送りします。

ANI 賞品は、私物を選んでくれっていわれて、新潮社のイベントなんで、昔新潮社から出てた『アウフォト』っていう写真雑誌を。
 この号は、1998年の長野オリンピックのとき、渋谷のセンター街の入り口に「長野五輪まであと○日」っていうのが表示されてたんですけど、それを僕が渋谷に行くたびに撮って、最終的に僕も長野に行くっていうシリーズが載ってます。あと、自分たちで作ってるインディー雑誌『余談』の第2号。これは天久さんと対談してるんでちょうどいいかなって。それと、スチャダラパーの新譜『1212』(ワンツー・ワンツー)をセットで差し上げます。

天久 これ必聴です。ほんとに。

ANI 聴いてください。おめでとうございます!

 林賞は、この方にお贈りします。

書き出し本屋大賞 林雄司賞


いきなり背表紙に叱られた。

(義ん母

 義ん母さんは、来てるかな? あ、いたいた。賞品はですね、かけると目線が入ったみたいになるサングラスを中国でたくさん買ってきので……。

ANI POLYSICSだ。テクノ感ハンパない。

林 全部で5個あるので、家族みんなでかけて、ひとりだけ外すとワケあり感がすごいので、ぜひ。

天久 「こいつが捕まったやつか」ってなる。

 ということで、おめでとうございます。

天久 義ん母くんも常連で、いつもシュールでエッジの利いたのを送ってくれるんですよ。ひょっとしたら一番ファンが多い作家かもしれない。

大賞受賞者は、新潮社から作家デビュー!?

天久 どうやら集計が終わったみたいですね。お、3位まで順位が出てるので、せっかくなので3位から発表しましょうか。そして3位は2作品あります。まず1本目はこちら。

書き出し本屋大賞 会場得票数 3位(その1)


カバーはいらないって言ったのに。領収書くださいって言ったのに。

(紀野珍

天久 これ全部逆をやられたんですね。

 客の話聞いてないっていう。

ANI たまにいますよね、そういう店員さん。

天久 たしかに。これも「あるある」を高度にまとめた名作ですね。もうひとつの3位と2位は、あ、両方とも僕がさっき選んだやつですね。では3位。

書き出し本屋大賞 会場得票数 3位(その2)


「27巻は27階にございます」店員が指さしたのは階段だった。

(義ん母

 やっぱり27巻は27階にあるって、ぜんぜん辻褄が合ってないのに、おもしろいですね。

天久 バーチャルな世界だよね。そして2位。

書き出し本屋大賞 会場得票数 2位


横に立った彼女に慌てて、戻した本がとなりの帯を小さく裂いた。

(大伴

天久 これ、戻した本が気になるって話をしたけど、裂けた帯のほうも気になりますよね。

ANI なんですかね。『永遠の0』を戻したとしたら、『殉愛』かな、いまは。

天久 百田尚樹コーナーだ。

ANI 読まないけど『永遠の0』は、みんなすごくいいっていいますよね。泣いたって。

天久 タイトルだけだと特攻隊員の話だと思いませんよね。

ANI 宮崎駿監督がこれ読んで怒ったんですよね。

天久 なんか、ガワの情報ばっかり。

ANI ベストセラーの宿命ですよね。

天久 それはある意味、書き出し小説のコンセプトと同じかも。外側から情報が与えられていくっていうね。では、栄えある「2015書き出し本屋大賞」は……林くんお願いします。

 えっ、僕ですか? じゃあ発表します。大賞は……。

書き出し本屋大賞


いきなり背表紙に叱られた。

(義ん母

ANI そっか。

天久 林くんが選んだやつですね。義ん母くんW受賞じゃん! これ、大賞の特典がすごいんですよ。

スタッフ この『書き出し小説』とまったく同じ本の1ページ目に、「いきなり背表紙に叱られた。」を印刷し、あとは白紙の本というのを作成して、義ん母さんにお送りします。

天久 やったね! いま思い出したんだけど、義ん母くんは新潮社の入社試験を受けたことあるんだよね?

義ん母 はい。 2回受けて、2回とも落ちました。

天久 ははは! そこから本出せるってすごくない?

義ん母 書き出し小説で、大好きな新潮社さんとご縁ができたことを嬉しく思います。ありがとうございます。

 これからは「先生」と呼ばれる立場ですからね。

天久 長い付き合いになると思うんで、パイプ役になれてよかったです。あと、会場を見渡したら『書き出し小説』に作品が載ってる投稿者の方が結構いらしてるみたいで、ちょっと手を挙げてもらえますか?

ANI わ、めっちゃ来てる!

天久 「ミスター書き出し小説」のTOKUNAGAくんもわざわざ福岡から来てくれたんだよね。

ANI みんな知り合いなんですか?

天久 うん、一緒に飲んだり。

ANI そんなんやるんすか!?

天久 めっちゃ仲良いよ。ほんとに、作家のみなさんが書き出し小説を支えてくれているので、心から感謝してます。これからもよろしくお願いします。

 作家さんたちがみんな和気あいあいとしてていいですよね。

天久 そこそこ年齢層も高いんでね。

 やっぱり書いてる人と作品も、どこか雰囲気が似てるんですよね。今日はおもしろかったです。ありがとうございます。

ANI 勉強になりましたほんとに。ありがとうございます。またお会いしましょう。

天久 コツコツと連載を続けてた書き出し小説も、こうやって一冊の本になって、ちょっとずつ重版もかかったりしてるので、ますますこういう遊びを盛り上げていけたらと思います。今後またいいニュースも発表できそうなので、それも楽しみにしてください。今日はどうもありがとうございます!


執筆:須藤輝 撮影:喜多村みか


書き出し小説
書き出し小説
天久聖一

1212 【通常盤】
1212 【通常盤】
スチャダラパー

死ぬかと思った(1) (アスペクト文庫)
死ぬかと思った(1) (アスペクト文庫)
林 雄司


スチャダラパー25周年記念『華麗なるワンツー』

大阪公演公演:2015年4月5日(日)会場:ユニバース(06-6641-8733)
開場時間:17:15/開演時間:18:00料金:前売¥5,000(オールスタンディング)※ドリンク代別

東京公演公演:2015年4月11日(土)会場:日比谷野外大音楽堂※雨天決行・荒天中止
開場時間:15:45 /開演時間:16:30料金:前売¥6,000(全席指定)


神楽坂のキュレーションストアla kagu(ラカグ)では、定期的にイベントを開催しています。
イベントの詳細はこちらから確認できます。http://www.lakagu.com/event

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この連載について

初回を読む
発表!2015書き出し小説大賞—天久聖一×ANI(スチャダラパー)×林雄司

天久聖一 /ANI /林雄司

書き出し小説とは、文字通り「書き出し」だけで成立した文学史上最も短い文学スタイルです。読むのは一瞬でも、その余韻は長く、深い。そんな読み手の想像力をかき立てる作品群をまとめた書籍『書き出し小説』の編者・天久聖一氏と、デイリーポータルZ...もっと読む

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tabetarisiteru ▼『書き出し本屋大賞』記事 https://t.co/5CvIpWcASZ https://t.co/rozaltFBT9 https://t.co/9Rz6tB5ivK 共犯文学。散文の公園。 改めて、有難うございます。 約4年前 replyretweetfavorite

suzukishika ANIに読まれてる! 約4年前 replyretweetfavorite