板尾創路【前編】娘の死も家族への想いも、日記だから書くことができた

芸人、俳優、映画監督など幅広いジャンルで活躍する板尾創路さん。そんな板尾さんが2005年1月1日から自身の日々に起こった日常を書き綴ってきた日記『板尾日記』がついに完結しました。10年目、10冊目にして、なんと最終巻になってしまうという本書。日記を通して綴られてきた、板尾さんの日記へのこだわりや、愛する娘さんをはじめとする家族への想いについて伺いました。

『板尾日記10』板尾創路/リトル・モア/1620円
あらすじ:芸人・役者・映画監督と様々なジャンルで活躍を続ける板尾創路さんが日々を綴る『板尾日記』が、ついに10 年を迎えました。特別な日も何気なく過ぎた日も、二度とない一日。だからこそ日々の中に喜びや悲しみがあり、その積み重ねで人生が彩られていく。読者とともに歩んできた、現在進行形の日記文学、ついに最終巻です。

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5月7日

 仕事の前に英美のお墓に久しぶりに行った。相変わらず曾ばあちゃんの御蔭でお墓は花がいっぱいで掃除も行き届いていて感謝しなければと思う。もうあと数日でポコは英美が生きた歳月に届く。変に意識しているのかドキドキする。英美を越えて行くポコがお姉ちゃんを連れて一緒に大きくなり、ママとパパに英美の事も見せてくれるのかな、と思ったりする。二人で一人、一人で二人。俺たち夫婦の大切な子供達。喜びも悲しみもあるがまま、咲くも散るも枯れるのも良し。

『板尾日記29』まで休刊!?

— 今回で10巻目になる『板尾日記』ですが、今回の第10巻でいよいよ最終巻になると伺いました。10年目で日記に終止符を打つことを決めたのは、いつだったんですか?

板尾創路(以下、板尾) 2、3年ぐらい前から「10巻目ぐらいで終わるのがいいんじゃないかなぁ」と思っていたんです。なんで10巻なのかと言われると特に理由はないので困るんですけれどもね。ひとまず一度休刊して、もしかしたらまた始めるかもしれないし、今後一切出ないかもわからないですね。

— 本書の帯には「板尾日記29まで休刊」と書いてありますが、19年後に復活はあるんですか?

板尾 「29」っていう数字も別に意味はないんですけどね。これも、なんとなくです(笑)。

— 2005年からスタートして、10年間1日もかかさず日記を書き続けていらしたわけですが、最後の2014年12月31日の日記を書き終えたときの感想はいかがでしたか?

板尾 そうですねぇ。毎年そうなんですけれども、小説ではないので、書き終えたときにも「これで終わりか」っていう実感はあまりなかったです。日記には書かないけれども、生活自体は今後も続いていきますからね。

— 今年の1月1日からは、日記は書いてない?

板尾 一切書いてないですね。正直、1月1日にはうっかり日記を書きそうになりました。「ここでまた書き始めると、ややこしくなってしまう」と思ってやめましたけど。

— ずっと10年間続けてらした習慣がなくなって、寂しくなったりしません?

板尾 やっぱり長年続けてきたことなので、「書かないことの気持ち悪さ」っていうのはありますね。でもそれも1月ぐらいまでで、2月に入ったら「書かないこと」に慣れてきましたね。


10年間、起こったことを淡々と

— 10年間続けて書かれてきて、日記の書き方や日記に対する考え方など、変わった部分はありますか?

板尾 書き方自体は変わってないと思うんですけれども、やっぱり慣れてきた部分はありますね。最初の頃は日記を書き慣れていなかったので、迷いがありました。でも、2、3年目ぐらいになると、淡々と日々あったことを書けるようになりました。

— 『板尾日記』では「人の日記を読むのは最低やと思います」という記述もありますが、誰かに読まれることを意識していた部分はありますか?「ちょっといい格好をしよう……」というか。

板尾 「おもしろいことを書いてやろう」とかっていう気持ちは最初多少あったかもしれません。でも、おもしろいことは毎日起こるわけじゃないですからね。無理やり書くのも違うと思うし、日記のためになにかわざとやるのも違うと思う。だから、本当に日常に起こったことだけを淡々と書いてきました。

— 逆に素の淡々とした日記を人に読まれるというのは抵抗はなかった?

板尾 最初は読んだ人にこの本がどう受け入れられるのかっていうのは気になりましたね。でも、次第に「あったこと。思ったことだけを書けばいいんだ」と思うようになったので、気にしなくなりましたけど。また、だからこそ、日記を書き続けられたんだとも思います。

手書きだからこそ、伝わる想いがきっとある

— 日記はいつ書いていたんですか?

板尾 寝る直前というわけではないんですが、「あぁ、だいたい一日が終わったな」というタイミングですね。こういう仕事で時間は不規則なので、1日の境目がどこからどこまでって判断するのも難しいので、日記を書くのが翌日になる日もありましたけど、だいたいはその日が一段落したタイミングに書いていました。

— 面倒くさいと思われたことはないんですか?

板尾 そうですねぇ。眠い時や体調が悪いときはもちろんありましたよ。でも、面倒くさいときは、素直に「面倒くさい」って書けばいいし、しんどい時は「しんどい」って書けばいいので(笑)。日記なので、そこは素直に書きました。

— 執筆スタイルとしては、ずっと「大学ノートとシャーペン」という手書きのスタイルを守ってこられたそうですね。

板尾 そうですね。たまたまいつも使っているノートを忘れてしまったときなんかは別のものに書いて、そのノートに最終的に書き写すということをやってました。

— Twitterとかもやってらっしゃいますが、パソコンやスマホなどデジタルで書こうとは思われなかったんですか?

板尾 ないですね。もともとパソコンを持ち歩く習慣がなかったのもあるんですが、なによりやっぱり手書きで書いているときのほうが、相手に伝わるものが違うような気がしたんです。

— といいますと?

板尾 ワープロで文章を書くと、言葉がキレイになってしまうというか、整理されている感じがしてしまうんですよね。紙に書いたほうが、僕自身も日記を書いている実感があるんです。そもそも毎日配信するものでもないから、一度にそこまで整理して書く必要もないですし。もっとも最終的には僕が書いたものを編集者の人が書き起こしてくれていたんですけれども。

— 板尾さんの直筆ノートはすごくキレイで、単行本化するときにもほとんど直しが発生しなかったそうですね。

板尾 いやいや、汚い字でノートにバーっと書いているから、読みにくいとは思いますよ(笑)。ただ「この文字はなんて書いてあるんですか?」と編集者の人から質問されることは、ほとんどなかったですね。あと、文章自体も読み返すことが少ないせいもあるんですけど、できるだけ文章は最初に書いた状態から直さない方向でやっていました。

長女の死、そして次女の誕生

— 奥様の作ってくれた手料理や娘さんの成長の様子などご家族のお話をたくさん書かれているのがとても印象的でした。奥様も日記は読まれているんでしょうか?

板尾 読んでいますね。別に僕が直接渡すわけじゃないんですけれども、家には本が置いてあるので普通に読んでいると思います。ただ、感想とかは言われたことはないですね。奥さんは僕の仕事内容には、あまり興味がないので。

— 読まれるのが照れくさいなぁと思われたりしますか?

板尾 最初は照れましたけどね。でも、それでなにか変わることがあったわけではないので、「まぁええか」って感じです。

— 出張に行かれたときには「娘に早く会いたい」とか、家族で一緒にご飯を食べたときには「幸せだった」と書かれていたりと、ご家族への感謝の気持ちなどもたくさん綴られていて、「本当に板尾さんは素敵な旦那さんでお父さんなんだな」と思った人も多かったんじゃないかと思うのですが、そういう感情表現は日頃から家族の方になさるんでしょうか?

板尾 そうですね。ただ、もちろんいつも「幸せだな」といったような感情表現をするわけではないですけど。たまにですよ。でも、基本はうちの家族は隠し事がほとんどないので、なんでもしゃべってますね。言いたいこともあったら言うようにしています。

— お話づらいことかもしれませんが、『板尾日記5』では、最初の娘さん・ピッピちゃんが亡くなられたことを書かれていました。日記で娘さんの死について書かれるのはとても辛いことなんじゃないかと思ったのですが……。

板尾 そうですねぇ。当時は、すでに日記を書くことが習慣になっていたからこそ、淡々と娘の死についても書けたんだと思います。でも、ああやって自分のそのときの感情を素直に書くというのはいいですよね。あの時は本当に、人に言えないこととか感情を表に出す場所があって、すごく良かったなと思いました。

— いまは2人目の娘さんがとても元気に育ってらして、その成長記録も日記中にはたくさん書かれています。大人になって、娘さんが日記を読んだらすごくうれしいんじゃないかと。

板尾 彼女がどういうタイミングでこれを読むのかわからないですけれども、一応こうやって形に残っているものなので、いつかは彼女がこの日記を手にすることもあるんだろうなとは思います。でも、書かれていることはいいことも悪いことも全部本当のことしか書いてないので、それを娘がどう感じるんだろうなとは思いますね。

— そうですね。

板尾 ただ、その時の彼女自身についても書いてあるし、そのときのお父さん、お母さんの気持ちも書いてある。こういう記録が残っているっていうのは、普通の人ではあまりない話なので、すごく貴重なことかなと思います。僕から「読ませたい」とは思うわけじゃないんですが、彼女が実際に大人になってこの本を読んだときの反応は気になります。


次回「続編もいいけれども、次は今田耕司の書く『今田日記』が読みたい」は、3/25更新予定

板尾創路(いたお・いつじ)

1963年大阪府生まれ。高校卒業後、20歳でNSC(吉本総合芸能学院)に入学。4期生として卒業、心斎橋筋2丁目劇場に出演し始める。86年蔵野孝洋(ほんこん)と130Rを結成し、2丁目劇場収録の『4時ですよ~だ』に出演。89年度ABCお笑い新人グランプリ、第10回 優秀新人賞(諸芸部門)を獲得。91年からは『ダウンタウンのごっつええ感じ』出演を機に東京に進出。芸人としてだけでなく、俳優としてのオファーも多数。最新作に映画『振り子』やNHK連続テレビ小説『まれ』にも出演。監督作としては『板尾創路の脱獄王』、『月光ノ仮面』なども手がける。

構成:藤村はるな 撮影:渡邊有紀


板尾日記10
『板尾日記10』

板尾日記9
『板尾日記9』

板尾日記8
『板尾日記8』

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書いた人に聞いてみた。

cakes編集部

いま世間で響いているおもしろい本、素敵な本。その本を書いた人に、じっくりとお話を聞いてみます。

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コメント

hijiriko_sayco 板尾日記。今読んでおります。 https://t.co/l1rEfxYQlR 1年以上前 replyretweetfavorite

maaac1nt0sh 板尾日記 読みたいなー https://t.co/irb11eyvQq 2年以上前 replyretweetfavorite

osr_tsuyoshi 書いた人に聞いてみた。|cakes編集部 @cakes_PR |cakes(ケイクス) 4年以上前 replyretweetfavorite

u5u 板尾「すでに日記を書くことが習慣になっていたからこそ、淡々と娘の死についても書けたんだと思います」「あの時は本当に、人に言えないこととか感情を表に出す場所があって、すごく良かったなと思いました」 4年以上前 replyretweetfavorite