松本博文
【
第7回】投了という終わり方
プロ棋士と互角以上の戦いを繰り広げるまでに進化した将棋ソフト。不可能を可能にしてきた開発者たちの発想と苦悩、そして迎え撃つプロ棋士の矜持と戦略。天才たちの素顔と、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡。今日までのコンピュータ将棋に関する最前線を追った『ドキュメント コンピュータ将棋』が3月25日発売予定です。本連載では、本書から特に電王戦FINAL出場者たちの素顔や想いの部分を抜粋して紹介していきます。
コンピュータ将棋の最前線を戦う天才たちに迫った一冊、3月25日発売!

ドキュメント コンピュータ将棋 天才たちが紡ぐドラマ
将棋は「礼に始まり、礼に終わるゲーム」と言われる。対局開始時には両対局者が一礼をして、「お願いします」と言う。そして負ける側は、はっきりと声に出して、投了の意思を告げなければならない。
「負けました」
「ありません」
「ここまでです」
言葉は特に規定されていない。何でもよい。しかし敗者は、いつかは、どこかではっきりと、投了の意思を告げなければならない。これが将棋の最も大事な、基本的なマナーである。子供に将棋を教える指導者は、まず何よりも、この点を強調することが多い。将棋を覚えたての子供同士の対局だと、自分の玉が詰まされたのを見て、ぐしゃっと駒を崩して終わりにする、ということはよくある。いや、子供だけではない。「負けました」の一言が言えずに、無言で盤の前を立ち去る大人もいる。これではいけない。将棋ほど負けて悔しいゲームは、そうはない。しかし、たとえどれほど悔しくても、口に出して負けは認めなければならない。
中原誠16世名人は、以下のような言葉を残している。
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この連載について
松本博文
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著者プロフィール
ルポライター、第132期駒場寮委員長、将棋観戦記者。1973年、山口県生まれ。93年、東京大学に入学し、駒場寮に入寮。東大将棋部に所属し、在学中より将棋書籍の編集に従事。同大学法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力し、「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。コンピュータ将棋の進化を描いたデビュー作『ルポ電王戦』(NHK出版新書)が話題となり、第27回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)を受賞。近著に『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)がある。