言葉のタネ

よしもとばなな×管啓次郎 後編「先住民にとって、人間が宇宙のどの位置にいるかがいつも大問題」

詩と小説の違いは? 「鳥」とはどういう存在? 作家のよしもとばななさんと詩人・比較文学者の管啓次郎さんが、ばななさんの長編小説『鳥たち』を元に語り合いました。後編では、ゲストとしてミュージシャンの青葉市子さんが登場。3人の言葉と歌声が鳥たちのように舞い、贅沢な空間が生まれました。

詩は書けないけれど、詩に近い書き方はしている

詩人である管さんと、小説で表現するよしもとさんの、「詩」の捉え方の違いとは。

 『鳥たち』では、詩も重要なモチーフになりますね。メキシコ・インディオ古謡の『チョンタルの詩』から引用されます。この歌のどこに魅力を感じたんですか。

よしもと どうしてこんな言葉の使い方ができるんだろうと、驚いてしまうんです。メキシコのほうの古代史や古代思想の言葉遣いって、ほんとうに特別だなと思う。

 ぼくの本来の専門分野はエスノポエティクス、民族詩学です。詳しくは『野生哲学』(講談社現代新書)を見ていただきたいのですが、なぜそこに興味を持ったかというと、ひとことでいえば、そこに宇宙論があるから。先住民の思想では、人間が宇宙のどういう位置にいるかということが、いつだって大問題なんです。そこを出発点にすると、太陽や月、星に興味を持たないわけにはいかないし、植物や動物と人との関係も考えざるを得ない。人間の社会は人間だけのものであって、昔から変わらずにあるという、いま自明のように扱われる人間中心主義とは、対極にある態度です。
 世界の先住民たちはいつだって、なぜ人はここにいるのかということを、一歩ずつ考えていきます。なぜ雨が降るのか、この植物がここに生えているのは何を表すのか。自然のなかのあらゆることが、考えるべき問題になる。北米でも南米でも、世界中のあらゆる先住民は、宇宙のなりたちをまっすぐに問題にしてきました。

野生哲学──アメリカ・インディアンに学ぶ (講談社現代新書)
『野生哲学──アメリカ・インディアンに学ぶ』

よしもと 北米にもネイティブアメリカンに伝わる言葉や詩がありますが、どうしてメキシコの古代の言葉はあんなに独特なんですか。

 それは、アメリカ大陸全体において、北も南も合わせて、かつて文化的な中心地がメキシコだったことが関係するかもしれない。最先進地域だったんです。メキシコのあたりは古くから圧倒的に人口が多くて、そこに大都市が成立して、口承文学が興った。複雑な言語表現が生まれる素地があったんですね。
 それと無視できないのは、現地の詩が日本語に訳される過程で、メキシコの詩はまずスペイン語に訳される。北米の詩はまず英語に訳されますよね。それぞれのバイアスがかかる。スペイン語は詩をすごく大切にする言語ですから。そんな言語や文化の土壌の違いはあるかもしれません。

よしもと なるほど。謎がひとつ解けました。

 詩といえば、ばななさんは子どものころから、詩にずいぶん親しんできたんでしょう?

よしもと それほどでもないとは思いますけどね。ただ、詩は「最初の表現」って感じはします。文学になる前のものというか。いまの日本の人は、もっと詩を読んだり書いたりするといいんじゃないかな。

 でも、ばななさんも小説を書いているわけですね。ずばり、詩と小説の違いは何ですか。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
言葉のタネ

山内宏泰

山内宏泰さんが、文學者たちの言葉に耳を傾け、その実りからタネを取り出してお届けしていきます。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

michealhj @avocado901 メキシコの文化絶賛の管さんの発言、お読みになりました? https://t.co/jXrWy4Qa3U 4年以上前 replyretweetfavorite

ichikoaoba_info 【お知らせ】 先日2/11に下北沢・本屋B&Bで行われた、よしもとばなな×管啓次郎 「鳥のささやき、本のはばたき」『鳥たち』刊行記念イベントのレポートがアップされました。是非ご覧下さい。 https://t.co/Gz5XgGtChY 4年以上前 replyretweetfavorite

reading_photo cakes新連載「文学のタネ」管啓次郎+ 4年以上前 replyretweetfavorite