第17回】「勝つために出ます」

プロ棋士と互角以上の戦いを繰り広げるまでに進化した将棋ソフト。不可能を可能にしてきた開発者たちの発想と苦悩、そして迎え撃つプロ棋士の矜持と戦略。天才たちの素顔と、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡。今日までのコンピュータ将棋に関する最前線を追った『ドキュメント コンピュータ将棋』が3月25日発売予定です。本連載では、本書から特に電王戦FINAL出場者たちの素顔や想いの部分を抜粋して紹介していきます。

 永瀬の名が一躍知られるようになったのは、2011年、NHK杯戦で、佐藤康光九段との対局。千日手が2回成立した後、再指し直し局で、佐藤を破っている。この対局で象徴的なように、永瀬は千日手を苦にしないタイプである。

 将棋では互いに手を変えることができない、という状況はしばしば生じる。中盤で局面が膠着し、先に手を出して仕掛けた方が損をする、という状況がある。また、終盤では互いに手を変えることができない攻防の手順がしばしば生じる。そこで同じ手を指し続け、同じ局面が生じ続けると、いつまで経っても終わらない。これが千日手である。現在の規定では、同じ局面が4回生じた時点で千日手が成立する。

 千日手は、チェスの場合は0.5勝扱いとなるが、将棋の公式戦ならば先手と後手を入れ替えて指し直す。少しの休憩をはさむか、あるいは時間を置かず、すぐに指し直し局は始まる。現在では先手番の勝率がよいので、先手番での千日手は失敗とみなされる。逆に、後手番は千日手歓迎であって、気兼ねすることなく、余裕のある待機策を取ることもできる。ただし、先後を気にしなければ、先手で千日手にしても問題はない。

「千日手は負けにはならない。負けなければいいと思っています。負けない、ということは、勝つことにもつながる。もう一回指し直しても、手には困りませんので。以前は(先後があまり気にならない)振り飛車党でしたし。先後で勝負が決まる、ということも現在ではまだ解明されていません」

 電王戦では、16時以前に千日手が成立した場合には、先後を入れ替えて指し直し。16時以降であれば、そのまま引き分けとなる。

「相手が強いと思えば、千日手、持将棋を選べばいいだけです。別に引き分けでもいいんですよ、相手が強ければ。先手番ならば将棋の性質上、千日手にしやすい。自分より相手が強いと思ったら、優る部分が多いと思ったら、いろいろな方法があるわけですよ。千日手は現実的だと思います。五分というのは、立派なことだと思います」

 永瀬の主張を補足する例をあげれば、たとえば団体戦がさかんな大学将棋では、持将棋、あるいは千日手2回で引き分けという規定が一般的である。相手チームのエースに対して引き分けに持ち込むことができれば、それは大きな殊勲と言える。

Seleneは異次元のソフト
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ドキュメント コンピュータ将棋

松本博文

プロ棋士と互角以上の戦いを繰り広げるまでに進化した将棋ソフト。不可能を可能にしてきた開発者たちの発想と苦悩、そして迎え撃つプロ棋士の矜持と戦略。天才たちの素顔と、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡。今日までのコンピュータ将棋に関する最前...もっと読む

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eazytolove “@cakes_PR: 開発者たちとプロ棋士、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡。3月25日発売『ドキュメント コンピュータ将棋』から、内容を抜粋してご紹介します。 http://t.co/9hAGwlxwHQ http://t.co/bNdBiFZPDp” 勝つために出て勝利した 4年以上前 replyretweetfavorite

math26 「千日手は現実的だと思います。五分というのは、立派なことだと思います」本局ではどうでしょうか(mtmt氏、いいこと聞いてますね) 4年以上前 replyretweetfavorite

rieko_w 「自分より相手が強いと思ったら、優る部分が多いと思ったら、いろいろな方法があるわけですよ。千日手は現実的だと思います。五分というのは、立派なことだと思います」 (永瀬六段) https://t.co/C02eWeb5xk 松本博文『ドキュメント コンピュータ将棋』 4年以上前 replyretweetfavorite