電王戦出場に関しては、まず打診があった。
「出てくれなければ困る。代わりがいない」とも言われた。コンピュータとの対局は、リスクが高い、と思った。人間なのでコンディションに左右され、常に100%の実力が出るわけではない。自分よりも強くて、電王戦出場に適任と思われる若手棋士の名が、すぐに数人は浮かんだ。最後は、そういう棋士が断ったというのであれば、と思って決意をした。自分が出て、自分が勝てばいい。
プロの権威がかかっている、という点に関しては、永瀬ははっきりと意識している。
「止めるために出てますから。(ソフトは)羽生先生が指すほどの相手ではないと思います。将棋界の宝なわけですから。そういうリスクを背負うべきではないと思います。羽生先生が出るのは、私は反対です。羽生先生が出れば、勝つでしょう。しかし、羽生先生が出るしかない、という状況になるのは、不名誉なことだと思います」
2014年の将棋界の話題としては、今泉健司のプロ編入試験合格が挙げられる。アマチュアの今泉はプロ公式戦で規定以上の勝ち星をあげ、プロ編入試験の制度開始後、初めて受験資格を得た。さらには編入試験(五番勝負)で若手四段陣を相手に3勝1敗の成績を挙げ、試験に合格している。今泉の試験対局の模様はニコニコ生放送で中継された。ほとんどの視聴者は、今泉を応援していた。
永瀬はこの結果について「悔しいです」と言う。今泉本人に対する感情ではない。若手棋士が止められなかったという点を言っている。