第15回】羽生を2度負かした男

プロ棋士と互角以上の戦いを繰り広げるまでに進化した将棋ソフト。不可能を可能にしてきた開発者たちの発想と苦悩、そして迎え撃つプロ棋士の矜持と戦略。天才たちの素顔と、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡。今日までのコンピュータ将棋に関する最前線を追った『ドキュメント コンピュータ将棋』が3月25日発売予定です。本連載では、本書から特に電王戦FINAL出場者たちの素顔や想いの部分を抜粋して紹介していきます。

 永瀬拓矢は1992年9月生まれ。出身は横浜市。将棋は9歳、小学3年生の頃、祖父から教わった。急には強くならず、3、4級ぐらいの時期が長かったと記憶している。

 2004年、小学5年のときに小学生名人戦の神奈川県代表となった。トーナメントでは、それまで負けたことがなかった伊藤沙恵(東京・多摩、現女流初段)に敗れた。この年の全国大会優勝は佐々木勇気(埼玉、現五段)、準優勝は菅井竜也(岡山、現五段)と、ハイレベルな大会だった。
 この年、安恵照剛八段門下で、奨励会入会。同門には日浦市郎八段、佐藤紳哉六段、上野裕和五段、瀬川晶司五段、加藤桃子女流二冠などがいる。
 永瀬と同じく2004年に奨励会に入会した同期には、澤田真吾、佐々木勇気、菅井竜也、斎藤慎太郎、三枚堂達也、石井健太郎、竹内雄悟(いずれも後に四段昇段)など、そうそうたるメンバーが揃っている。永瀬にライバルを問うと、佐々木勇気の名が返ってきた。

 奨励会の時、アマ強豪が集うことで有名な蒲田将棋クラブに通った。永瀬より二回り歳上の遠藤正樹や樋田栄正にはよく負かされた。アマチュアの遠藤や樋田が将棋に打ち込む姿勢を見て、刺激を受けた。蒲田将棋クラブでは、アマ、プロ、奨励会が誰でも参加できるリーグ戦やトーナメントが開催される。永瀬は今でもそのチャンピオン、現役の蒲田名人であって、防衛を続けている。

 三段時には、当時王位だった深浦康市に研究相手として声をかけてもらったのがうれしかった。筆者は当時、深浦に奨励会三段と指すことの意味を尋ねたことがある。深浦の回答は、指導などではなく、逆に技術的に学ぶことが多い、というものだった。
 2009年、四段に昇段。まだ17歳の若さだった。今では若手ナンバーワンの努力家とも言われる永瀬だが、この頃はそうでもなかった。ある対局で負けた後、尊敬する先輩の鈴木大介八段から、手厳しく叱られた。先輩が後輩に、自分とは何の利害もない対局の内容で怒ることなどは、そうはない。メリットがない。逆恨みされるだけに終わるかもしれない。永瀬の場合は、そこで目が覚めた。先輩の言っている通りだと思った。ありがたいと思った。今でも鈴木八段には感謝しているという。

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ドキュメント コンピュータ将棋

松本博文

プロ棋士と互角以上の戦いを繰り広げるまでに進化した将棋ソフト。不可能を可能にしてきた開発者たちの発想と苦悩、そして迎え撃つプロ棋士の矜持と戦略。天才たちの素顔と、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡。今日までのコンピュータ将棋に関する最前...もっと読む

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eazytolove “@cakes_PR: 羽生名人を2度負かした、平成生まれの棋士に迫る。 http://t.co/I8672dMWWm http://t.co/oOsZVTYuF9” あっ、この人今日の電王戦でコンピューターソフトと対戦するんだ。ニコ動で観よう! 4年以上前 replyretweetfavorite

prisonerofroad #将棋 #電王戦 4年以上前 replyretweetfavorite