第13回】開発者と棋力

プロ棋士と互角以上の戦いを繰り広げるまでに進化した将棋ソフト。不可能を可能にしてきた開発者たちの発想と苦悩、そして迎え撃つプロ棋士の矜持と戦略。天才たちの素顔と、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡。今日までのコンピュータ将棋に関する最前線を追った『ドキュメント コンピュータ将棋』が3月25日発売予定です。本連載では、本書から特に電王戦FINAL出場者たちの素顔や想いの部分を抜粋して紹介していきます。

コンピュータ将棋の最前線を戦う天才たちに迫った一冊、3月25日発売!


ドキュメント コンピュータ将棋 天才たちが紡ぐドラマ

 西海枝が将棋のルールを覚えたのは小学生のとき。少し勉強してみようと思ったのは、将棋ソフトの開発を始めてからだ。NHKの将棋講座を見て、棋士の解説を聞いていると、棋士とはすごいものだと思う。「こういう手を指しているようでは厳しい」「これは筋ですね」などと聞くたびに、そのように指させるためにはどのような学習(特徴選び)をさせれば良いのかを考える。「出た銀を引いているようでは後手が有利だと思います」と言っても、西海枝の目には適切な銀引きで、それでよいように見える。しかし局面を進めてみると、実際に失敗することがわかる。

「とても勉強になります」
 と西海枝は言う。

 1年ぐらい前からは、自分でも指しはじめた。戦法はいつも金矢倉。角を切る(捨てる)ことはできるようになったが、飛車を切るのには躊躇する。地元の将棋道場に行ってみようとしたが、入口で足がすくんで、中に入れなかった。
 「初段になりたいです。免状をもらいたいですね。今は伸びしろがいっぱいあるので、楽しい時です」
 と西海枝は笑っていた。

 西海枝は電王戦の出場が決まってから、多くの取材を受けた。その際、何を聞かれてもかまわないけれど、将棋界のことに関して尋ねられると、恐縮する。実のところ、あまりよく知らないからだ。電王戦の対戦者である永瀬のことは、家に帰ってから詳しく調べた。そこでようやく、こんなに有望な若手棋士と対戦するのかとわかって、驚いた。
 かつて、コンピュータ将棋が人間の上級者の考え方をいかに盛り込めるか、という時代には、開発者の棋力は高いに越したことはなかった。たとえば森田和郎はアマ五段で、埼玉県代表の経験がある。またYSSの山下宏は東北大将棋部出身だ。
 その見方は、Bonanzaの登場によって一変した。機械学習によって、自動で学ばせれば、開発者の棋力が問われることはない。むしろ、棋力がない方が、先入観がない分、よいのではないか、とも言われた。事実、あれだけ強いBonanzaを開発した保木邦仁の棋力は、ほとんど初心者クラスだった。

 では現在はどうだろうか。

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ドキュメント コンピュータ将棋

松本博文

プロ棋士と互角以上の戦いを繰り広げるまでに進化した将棋ソフト。不可能を可能にしてきた開発者たちの発想と苦悩、そして迎え撃つプロ棋士の矜持と戦略。天才たちの素顔と、互いのプライドを賭けた戦いの軌跡。今日までのコンピュータ将棋に関する最前...もっと読む

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コメント

akaiteitoku Selene開発者西海枝さんの将棋歴1年ほどとの事。 https://t.co/i76FdQdsSf その辺りが影響したのかな。 #電王戦 4年以上前 replyretweetfavorite

rieko_w 「初段になりたいです。免状をもらいたいですね。今は伸びしろがいっぱいあるので、楽しい時です」(Selene開発者、西海枝昌彦氏)  https://t.co/cPwmkdOEm1 松本博文『ドキュメント コンピュータ将棋』 4年以上前 replyretweetfavorite

ginnan81 Seleneの西海枝さん登場回。 https://t.co/DgzliD9XLy https://t.co/KliD3iDMww https://t.co/VFnehyGUuY https://t.co/dtb7aecJhf https://t.co/vSZB3bnXx9 4年以上前 replyretweetfavorite