コンピュータ将棋の最前線を戦う天才たちに迫った一冊、3月25日発売!
西海枝が将棋のルールを覚えたのは小学生のとき。少し勉強してみようと思ったのは、将棋ソフトの開発を始めてからだ。NHKの将棋講座を見て、棋士の解説を聞いていると、棋士とはすごいものだと思う。「こういう手を指しているようでは厳しい」「これは筋ですね」などと聞くたびに、そのように指させるためにはどのような学習(特徴選び)をさせれば良いのかを考える。「出た銀を引いているようでは後手が有利だと思います」と言っても、西海枝の目には適切な銀引きで、それでよいように見える。しかし局面を進めてみると、実際に失敗することがわかる。
「とても勉強になります」
と西海枝は言う。
1年ぐらい前からは、自分でも指しはじめた。戦法はいつも金矢倉。角を切る(捨てる)ことはできるようになったが、飛車を切るのには躊躇する。地元の将棋道場に行ってみようとしたが、入口で足がすくんで、中に入れなかった。
「初段になりたいです。免状をもらいたいですね。今は伸びしろがいっぱいあるので、楽しい時です」
と西海枝は笑っていた。
西海枝は電王戦の出場が決まってから、多くの取材を受けた。その際、何を聞かれてもかまわないけれど、将棋界のことに関して尋ねられると、恐縮する。実のところ、あまりよく知らないからだ。電王戦の対戦者である永瀬のことは、家に帰ってから詳しく調べた。そこでようやく、こんなに有望な若手棋士と対戦するのかとわかって、驚いた。
かつて、コンピュータ将棋が人間の上級者の考え方をいかに盛り込めるか、という時代には、開発者の棋力は高いに越したことはなかった。たとえば森田和郎はアマ五段で、埼玉県代表の経験がある。またYSSの山下宏は東北大将棋部出身だ。
その見方は、Bonanzaの登場によって一変した。機械学習によって、自動で学ばせれば、開発者の棋力が問われることはない。むしろ、棋力がない方が、先入観がない分、よいのではないか、とも言われた。事実、あれだけ強いBonanzaを開発した保木邦仁の棋力は、ほとんど初心者クラスだった。
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