これまでに二十八回はこの忌まわしい季節を乗り越えてきたはずですが、なぜそんなことができたのか思い出せない。冬の話です。無気力、はてしない惰眠、肩こり、死を思わせる冷え性といった諸症状に加え、夏は多少の緑があったベランダに寒くて出たくなくなった結果として凍え乾きすすけた黄泉の国と化していることも、憂鬱さに拍車をかけている。
ニホンザルなら温泉に、テントウムシなら天井裏にでも集合して冬眠するところ。毛皮や冬眠システムを持たぬ人間が冬に対抗してできることはただひとつ……新幹線「こだま」のチケットを買って、花は咲き鳥は歌う楽園常夏の国・掛川花鳥園に向かうことだけなのです! 年中無休の楽園は、大みそか・元旦も通常営業しています。
東京から「こだま」で1時間50分。掛川駅から徒歩15分(タクシー2分)歩くと、花や鳥が描かれた巨大な看板と駐車場、そしていささか巨大な木造建築物が見えてきます。なんでも、花鳥園グループ創始者の加茂荘庄屋を再現した「長屋門」だそう。
花鳥園グループの経営するテーマパークは、国内では掛川花鳥園にも近い元祖・加茂花菖蒲園、神戸花鳥園、富士花鳥園、松江フォーゲルパークの5つ。神戸と富士に行ったことがありますが、通常の動物園とは明確にコンセプトを異にしていると感じます。公式サイトの創始者インタビューにも、「人と動物が檻で隔てられたズー(動物園)ではなく、東洋の『花鳥』の概念を取り入れた」という趣旨のことが述べられている。わたしとしては動物園も好きですが、一人の人物の強い信念によってこれだけの規模とテンションと世界観が維持されている空間というのは大好物です。なにより、こんなに多くの鳥と実際に接触できる施設は、世界でもそうはないのではないだろうか……。
花鳥園の過剰な世界観に思いを馳せつつ、入場手続きを済ませます。受付にも小型のフクロウが事務担当としてつながれ、チラシやチケットの束などを足蹴にしていることが多く、初めて花鳥園を訪れるものは最初にここでメロメロにされるシステム。長屋門の中にはガラス張りの小部屋があり、驚くほどの種類のフクロウが飼育されています。
とにかく加温された場所を求め、カモや水鳥の集うプールサイドもそこそこに通過して大温室へ。インパチェンスやベゴニアの花鉢の下には、クリスマスムードにしらけきった風情のフクロウがいた。
実際にはまぶしいくらいのことしか考えていないのでしょうが、このフクロウは花鳥園の顔ともいえる存在。アフリカオオコノハズクのポポちゃんです。