コンピュータ将棋の最前線を戦う天才たちに迫った一冊、3月25日発売!
2012年、Seleneは初めて世界コンピュータ将棋選手権に参加した。学習に使う棋譜の数は、5万ぐらいが一般的だが、西海枝は違うチャレンジをしてみたいと思い、3千から4千ぐらいに減らした。大山康晴、中原誠、谷川浩司、羽生善治と、永世名人4人の棋譜にしぼった。人間の学習法ならば、効率的とほめられそうだ。しかし簡単に「過学習」という現象が起こった。永世名人の棋譜で強くなるどころか、めちゃくちゃに弱くなった。しかし、そこであきらめずに試行錯誤を重ねた。理論的には、レーティングの高い指し手の棋譜を使えば、それだけ強くなるはずである。最終的には、Bonanzaとほぼ互角というところにまで強くした。
一次予選は7戦全勝の1位で突破したが、二次予選では敗退した。
「これはちょっと愚痴になるんですけどね」
と西海枝は苦笑する。
「みんなが興味あるのは、勝つか負けるかだけなんです。少ない棋譜で強くするのは、かなり工夫が必要です。他の人にも真似してほしいぐらいなんだけど、なかなかそこをわかってくれないですね」
将棋ソフトの開発において西海枝は、まず何よりも、オリジナリティを重視する。選手権が終わると、バージョンアップはしないで、毎年新しいテクノロジーを使って、ゼロから作り変えることにした。
「ごく一部のSeleneのマニアの方はですね、今年はどういうのでくるんだろうと、見てくれているわけです。それで今年もがんばろう、と思うんですね」
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