インタビューも終盤という頃、古賀さんから、「こんなのでよかったんですか?」と聞き返された。これまで受けてきた取材とまったく異なる質問ばかりだったらしい。下積みの苦労話を求められるのだと思って心の準備をしていたのだという。
究極のアクションは「不動」
── 表情から伝わってくるんですが、古賀さんはいまの自分の仕事を誇りに思っていますよね。それはどのタイミングから切り替わったんですか?
古賀 初めて顔の出るヒーロー役を『神話戦士ギガセウス』(※)でやらせていただいて、長年の夢がかなってからですね。
※2012年、関西テレビ制作放映の特撮ヒーロー番組
── 「ギガゼウス」はちょっと変わった等身大ヒーローですよね。
制作費のこともあるからでしょうけど、地球を守る本部が街中のありふれたビルの一室だったり。傍の配役に芝居なれしていない感じのひとが出ておられますよね。
古賀 見て下さったんですか、ハハハ。
── チープな手作り感の味というか、見慣れたテレビドラマにはない新鮮さ、生身の人間のリアルさが出ていて、妙におもしろかったですね。
古賀 そう言ってもらえたら、嬉しいですね。
異色に思われたのはたぶん、個性豊かなシルバータレントさんが組織の幹部役を演じられていたところや、アドリブを多用しているので、どこまでがシナリオに書かれている台詞で、どこからがアドリブなのか。まじめなようで真剣にふざけていて、ヒーローを通して現代社会を縮図にした長編コントのような点ではないでしょうか。
正直に言うと、「ギガゼウス」の前までは「顔出し」でやっているひとがうらやましかった。どこか満たされない気持ちはありました。でも、1本やらせてもらったら思い残すことはなくなりました。
逆に、いま「モーションアクター」としてこれだけやらせていただいているので、多方面から声をかけていただけるようになりました。充実しています。そう言えるようになってきました。
── ストレスはないんですか?
古賀 ないですね。アクションに興味や思い入れのないひとがアクション物で主演しているのを見ると、うらやましいですけどね(笑)。
── ねたましいではなくて。
古賀 いいなぁと思う。でも、この世界は知名度があるかないか、お客さんを呼べるかどうかも大事なので。
さんざんアクションをやってきてわかったことがあるんです。演技でいちばん難しいのは「動かない」こと。究極のアクションは、動かざることなんです。
── 「動かざる」ですか。
古賀 これまでの経験で実際、感じてきたことですが。アクションの経験の浅いひとや苦手意識のあるひとほど、手数の多い振りを付けて、動かしてあげたほうが恰好よく見えます。
しかし、昔のとあるモノクロ映画を観ると、相対する二人がびっくりするほど長い時間睨み合っている。まったく動かない。でも、これが画面に凄まじい緊迫感があり、どんどん引き込まれていくんですね。その後も手数の多い殺陣(たて)はせず、イッパツで決める。強烈なインパクトがありましたね。
少ない動きで見せる
── たしかに黒澤明の映画とかはそういうメリハリが効いていますよね。イッセー尾形さんはわかりますか、ひとり芝居の。
古賀 ええ。わかります。
── 以前、一般の素人のひとたちとイッセー尾形さんが舞台を共にする企画があって、そのときイッセーさんと二人三脚でやってこられた演出家のひとが、素人のひとたちに、「動かない!」「じっと座ったまま!」というふうにダメだしをしていたんです。
素人が台詞も言わず、動きもせず、ただじっと黙って座っている。そうすると、観ているこちらは「寸前に何かあったのかなぁ」と逆にどんどん心のなかを想像するんですね。「間」が大切というか、役者は動かないでいることが大事だというのを見ていて思いました。
古賀 ああ、わかります。そうなんですよ。僕もすくない動きで、凄さを表現できるようになりたいですね。
事務所に置かれている銃や刀などの武器を手にしていると、「試しに、ちょっとやってみませんか?」と誘いかけられた。
古賀さんと相棒の杉原さんが刀を振り回す。立ち回りを見せてもらったあとのことだった。
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