「恋愛プレイヤーは、人々をいい気分にするために街に出るんだ。俺たちは、出会った女を喜ばせるためにナンパしないといけない」
「でも、恋愛工学では、褒めすぎるのもよくないし、ときに相手の女をディスったりしなければいけない、と教えているじゃないですか。ひとりの女のことばかり思い続ける非モテコミットは、破滅への最短ルートだとも」
「それは違う」と永沢さんは言った。
「いつも男に言い寄られてる女に、ありきたりの方法でアプローチしても、喜んでくれない。あるいは、お前のことを、単に身体目当てで寄ってくる、大勢の男のひとりだと思うだけだ。俺たちがときに女をあしらったり、ディスったりしなければいけないのは、そうやって彼女が俺たちに男として興味を示し、俺たちに惹かれたときに、それに答えて褒めてやるためだ。本当の意味で、女を喜ばせるためなんだ」
「本当の意味で、喜ばせるため……」
「そうだ。いい女とセックスするなんて朝飯を食うみたいなものだと思ってる、そんなレベルの高い男に自分が見初められることによって、その女は、何日もいい気分でいられるんだ。そして、彼から連絡が来なかったらどうしよう、と心配をはじめる。俺たちは、ちょっと焦らしたあとに、そんな女に連絡してやる。また会うことを提案する。こうして女に大いなる喜びを与える。最初に、ちょっと女をからかったり、ときにいたぶったりするのは、こうやって、最後には女を喜ばして、ずっと幸せな気分でいてもらうためだ」
「なるほど」
「いいか」と永沢さんは続けた。
「男がいい女とセックスしたいのは当たり前のことで、わざわざ言うことでもなければ、目標にすることでもない。男に性欲があるのは、太陽が東から上って西に沈むのと同じぐらい自明なことだからな。恋愛工学の目標は、そんなにつまらないことじゃないんだ」
「それでは、何が目標なんですか?」
「恋愛工学の目標は、女のハートに火をつけることだ。そして、俺たちに抱かれたいと渇望させること」
「抱かれたい、と思わせることが目標だったのか……」
「そうだ」と永沢さんがこたえる。
「そこまで行けば、あとは適切なルーティーンで、彼女をセックスまで導いていくだけだ」
「僕は自分が気持ちよくなるために、女を利用しようとしていたのかもしれません……」
「そのとおりだ。同じことをやるにしても、発想の違いで、驚くほど結果に違いが出る。誰だって、他人に利用されたいなんて思ってないんだ」
「そうですね」
「ちょっとナンパができるようになって、何人かの女とセックスできると、すぐに勘違いしてしまう。女をまるで店の棚の上に並ぶ、お前の欲望を叶えるための商品みたいに思いはじめる。ちょっとばかりの労力、テクニック、それとデートのメシ代を払って、女の心を買おうとする」
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