現実と格闘しろ
755では、若い人から起業についてやたらと多くの質問が寄せられる。僕は角川書店を辞めて幻冬舎というオリジナルブランドを創業したわけだが、他人に「起業をすべきだ」と勧めたことは一度もない。むしろ昨今の安易な起業文化には反対する者だ。
ソフトバンクの孫正義、楽天の三木谷浩史、エイベックスの松浦勝人、GMOインターネットの熊谷正寿、堀江貴文、サイバーエージェントの藤田晋、GREEの田中良和、ネクシィーズの近藤太香巳、サマンサタバサの寺田和正、牛角創業者の西山知義——。
起業したおかげで大成功し、巨万の富を得た「セレブ」と呼ばれる人たちは大勢いる。
彼らの活躍がテレビや雑誌で大きくクローズアップされるため、起業家は成功者だらけだと錯覚する人もいるかもしれない。
だが、実際には起業家の世界は死屍累々だ。皆が成功しているように見えながら、実際には10万人のうち1人の割合しか脚光を浴びることはない。10万人のうち、9万9999人は討ち死にしている。敗者は目に見えず、歴史には残らないのだ。
とりわけ、今名前を挙げたような起業家は10万人に1人どころか、100万人に1人の成功者である。メディアで風雲児としてもてはやされている人は、奇跡のように生まれた100万人のうちの1人なのだ。
失敗した人は表舞台から消え、サイレント・マジョリティ(静かなる多数)と化す。今僕たちが注目している起業家とは、せいぜい0・0001%のノイジー・マイノリティ(一握りの成功者)でしかない。起業とはそれほどリスクが高いのだ。
圧倒的努力と破産してもいいという覚悟がなければ起業などすべきではない。
755では「就職が決まらなくて困っています」と嘆く人もいる。こんなことを僕に質問する時点でおかしい。こういう質問を受けると、「今の人たちはずいぶん希薄に生きているのだな」と悲しくなる。